桜舞う星の下で

北丘 淳士

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隼人

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「隼人君、三弥君のラダーが1200を超えたわよ」
 ファイルを眺めながら、那美は何気なく言った。
 那美としては隼人を挑発して、本気を出してもらえれば、と狙って言ったようだったのだが。隼人は眉根をよせ那美に食ってかかる。
「つい最近まで400ぐらいだと言っていたのに、1200って! ホントですか!?」
 その隼人の言葉に那美は、したり顔で見る。
「ええ、私が少しアドバイスしたら、みるみる数値を上げてね」
「なぜアドバイスだけで、そんなに伸びたのですか!!」
 少し怒りのこもった声音に混ざって、隼人のテレキネシスで彼の周囲に風が舞う。
 思っても見なかった隼人の剣幕に、那美はたじろいだが、すぐ表情を戻して柔和な表情に戻る。
「三弥君に課していたカリキュラムは、彼の能力に広大な下地を作ることなの。それも途轍もなく大きいそれをね」
「広大な下地……」
「そう。私は三弥君に『静』『動』の相反する二種類の超能力をもたせようとしている。君とは違ってね」
「――何となく分かってはいましたが、なぜ那美さんは三弥を選んだのですか?」
 徐々に怒りが静まってきた隼人の肩に手を置いて、那美は答える。
「そこは私の勘だとしか言えない。そして三弥君は完成しつつある」
「完成……。完成って……?」
 自分がそこに到達しようと努力してきた場所を、兄弟でもあり、ライバルでもある三弥が実現しようとしている。三弥が到達した場合、自分の存在意義が失われるのではないか。
 隼人は握りこぶしを更に強く握り、頭を振る。使える能力数では三弥を上回っているが、彼が自分を超えるのは、時間の問題かもしれないと考えていた。
「隼人君、久しぶりのトレーニングに入ろうか、体は鈍ってない?」
「いえ、大丈夫です。やりましょう」
 目の座った彼は意気込み、静かに告げた。

 自分のカリキュラムで思っていた以上の結果が出たので満足していた隼人は、いつもの廊下を戻って帰る。
「やあ、隼人君。トレーニング終わりかい?」
 声をかけてきたのは、いつも館内を巡回している保安員2人のうちの1人だった。
「あ、はい、加島さん。お疲れ様です」
 隼人は加島に柔和な笑顔を返す。加島はベテランで隼人が物心ついた頃からの顔見知りだった。年齢も40代にさしかかり、隼人にとっては仮の父親のような存在だった。
「何か嬉しそうだね。良いことあった?」
「ええ、トレーニングが上手くいきまして」
「この前、田舎から老舗の和菓子が送られてきて、君の部屋の前に置いているよ。食べて」
「いつも、ありがとうございます。朋も甘いのが好きなので3人で分けて頂きます」
 加島は隼人の首元を覗き込む。
「どうしたんですか?」
「うん、この前、撃たれたと聞いたから、ちょっと心配だったけど大丈夫そうだね」
 隼人は首筋を摩る。
「あ、大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「良かった良かった。俺が当務だったら、撃つのに躊躇したかもね」
「あはは、ありがとうございます」
 加島は軽く隼人の肩を叩いて、すれ違った。
 隼人は、その背中に軽く会釈して、いつもの部屋へと戻っていった。
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