濁渦 -ダクカ-

北丘 淳士

文字の大きさ
上 下
15 / 34

シェズの休日

しおりを挟む
 シェズ・ベルリアの生活は、彼女の言葉通り自由気ままだった。休校日の今日は昼前に起き、自慢の黒いボブカットを整える。顔はむくんでいない。空腹のまま親から買って貰った愛車のカムリを走らせ、市街地へと向かう。街中に入ると駐車場に車を止め、ウィンドウショッピングかレストランに出かける。ガーリーな服が店頭に飾られている、今まで入ったことが無い店に立ち寄った。店内の雰囲気に足を弾ませ店内に入る。
「いらっしゃいませ」
 丁寧な挨拶を受け、気分良くシェズは店内を物色する。フリルのついたパステルカラーのキャミソールがいくつか出ていた。
 ピンク、可愛い。
 一応値段を確認して、それを手に取り他の服も見て回る。手に持っていると店員が預かってくれた。
「ありがとうございます」
 ピンクのキャミソールに合いそうな白いスカートも見つけた。膝丈ほどでクルリと回転するとふわりと回りそうだ。
「試着いたしますか?」
「はい、じゃあ」
 試着室で、白いスカートとキャミソールを合わせる。
 うん。いい。
 気に入ったシェズは即決した。着てきたホットパンツと白のカットソーに着替えなおしたシェズは、試着室の扉を開けてすぐの店員に渡した。
「これとその二つ、お願いします」
「お客様、当店は初めてですか?」
「あ、はい」
「ぜひ会員カードを、お作りになりませんか。当店の最新アイテムのなどの情報を郵送でお送りします」
「うーん、ではそれもお願いしまーす」
 店員の案内でカウンターまで行き、用紙を渡される。彼女は財布からカードを出し、「一回で」と伝えた。
 良い買い物が出来たー。
 上機嫌の彼女は周りを見ずに用紙に住所や名前を記入する。性別の欄、男、女、そしてその隣に( )がある。シェズは迷わすその( )に『猫』と書いた。
 彼女が用紙に記入している間に店員は丁寧に服を折りたたみ、艶のある紙袋に入れ、彼女が書き終わる頃に紙袋の取っ手と底に手を添えて手渡した。
「ありがとうございました。気を付けて行ってらっしゃいませ」
 昼時に売り上げた店員は、笑顔で彼女を見送った。

 紙袋をゆらゆらさせながら、彼女はレストランを探す。
 朝ごはんも食べてないから、ちょっと食べても良いかなぁ。……いや、いやいや、そこは我慢よ!
 レストランは諦め、カフェに入ってミネラルウォーターに野菜のスムージー、ベーグルを頼んだ。窓際に座るなり、ペットボトルに入ったミネラルウォーターを半分ほど飲む。意外と喉が渇いていた。ベーグルに、はむっとかぶりつく。表面はカリッとしていて中はもちもち。
 当たりだ。ここもチェック。
 小さい口で何度もかぶりつき、スムージーとともに空の胃の中に落としていく。最後にミネラルウォーターを飲み切った彼女はトレーを戻し、満足した表情で揚々と店を出た。
しおりを挟む

処理中です...