濁渦 -ダクカ-

北丘 淳士

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四人

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 カミルは翌日も車で鉱山に向かった。本人は体調不良で休みたい所だったが、収監されているバングのための費用などもあるので、やむを得ない。足を引きずり、肩も大きく動かせないことから、仕事量は当然少なくなる。それでいて給料は他の労働者と同じだけの金額を貰った。
 仕事が終わった頃、労働者の一人が現場監督に詰め寄る。
「カミルはあまり仕事できていないのに、俺たちと同じ給料なのか?」
 近くで聞いていた女性作業員も、その話が耳に入り同じく詰め寄る。
「そうそう。カミルを手伝ったりして大変だった上に、生産量も落ちているのよ。休ませるべきじゃない?」
「いやぁ、怪我しているから仕方ないし、それに本人がどうしてもって言うから……」
 現場監督も困り顔で答えるしかなかった。
「じゃあ、休ませてあげなさいよ。じゃないと差別ですからね」
「あ、うん……」
 『差別』、『平等』という言葉に弱い社会では現場監督といえども、この意見に首肯する事しか出来なかった。
 結局、ローテーションで回ってきた鉱山労働にカミルが顔を出すことは出来なかった。

 約一年後、バング出所の日がやってきた。
 シビックに乗ったフーリエ一家は、バングを迎えに行く。カミルがハンドルを握る車内は、どこのレストランに連れて行こうか、という話で盛り上がった。
「おじいちゃん、あまりにも食事が不味いって言ってたからね。なんでも美味しいんじゃない?」
 後部座席から身を乗り出してフーリエが言う。
「そうだね、何か温かいものを食べて欲しいな」
「ちょっと高めだけど、ワストにしない? 何でも揃っているし」
「いいねぇ! あそこのスープは美味いし」
「出所時間が十一時って言ってたから、ランチに間に合いそうね」
 久しぶりに明るくなった一家は、刑務所の前に到着する。併設された駐車場に車を停め三人は、やや緊張の面持ちで刑務所の門をくぐった。持ち物検査などされ、待合室に通される。
 三十分ほど経った頃、ドアが開かれた。看守に促されたバングが、笑顔に涙を溜めてゆっくりと歩を進める。彼はこの一年でずいぶんと痩せていた。
 フーリエが一番に駆け、バングを抱きしめた。そして四人とも抱き合う。
「すまない、迷惑をかけた」
 涙声でバングは謝るも、フーリエとアベイダは頭を振る。冗談交じりでアベイダは答えた。
「大丈夫。別に身内から性犯罪者や殺人者が出たわけじゃないから、全然被害なんか受けてないよ」
「そうか、面接でも聞いていたが、皆が実害を受けなくて本当に良かった」
「おじいちゃん、何か美味しいものを食べに行こう!」
 少し高くなったフーリエの頭をバングは優しく撫でる。
「うん、それを二番の楽しみにしていた」

 一家四人を乗せた車はレストラン、ワストへと向かう。後部座席でフーリエはバングに寄り添う。バングはフーリエの肩を抱きながら、外を眺める。
「変わってないな」
「一年でそんなに変わらないよ、おじいちゃん」
「そうか……」
 久しぶりに見る外をバングは慈しむように、しみじみと眺めていた。

 ワストの店内に入る。予約していた席は窓際からは、ランチを求めて車がやや渋滞しているのが見える。
 コース料理の焼きたてパンとサラダがテーブルに並べられた。
 温かく美味しい料理に舌鼓を打ち感激するバングを、三人は優しく見ていた。
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