魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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神祖の民

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 アベルディ来訪から数十分後、ログゼットは机に向かい博物館詰所からの報告書に眼を通そうとしたときだった。再び、扉をノックする音が響いた。
「またか。今日は客が多いな」
 ログゼットは従者に目配せし、報告書に眼を落とす。
「どなたですか?」
 誰何する従者に、扉の奥からしわがれた声が返ってきた。
「王宮枢機卿のラムザ・リッツベルトだ。ログゼット殿と話がしたい」
 その言葉にログゼットが応じる。
「どうぞ」
 従者は扉を開けると、肩で息をしながらラムザが飛び込んできた。
「博物館の揺籠から人物が現れたというのは本当ですかな!」
「ええ、確かにそういう報告書は届いていますが、博物館の一部を破壊したらしく、どうせ過激派の一味だと思います」
 いま政治形態が変わったことで、ログゼットを悩ませているのが過激派のグループだった。将軍時代には味わう事のない地味な仕事で、苛立ちは彼らに向けられていた。
「報告書を見せてもらってもよいですかな?」
「ええ、どうぞ」
 ログゼットは立ち上がり、ラムザと共に報告書を見た。
 ”夕刻、王立博物館の揺籃が爆発。揺籃上に新たな神具を確認。その神具から4名が顕現し、内1名が神具『自鳴琴』を盗んで逃走、残り3名を王立博物館で保護。歳は10代後半から20代前半の男女が各1名、壮年の男が1名。内1名が幼少のリータ王女の精緻な肖像画を所持。”
 2人とも最後の一文で眼を丸くした。
「幼少のリータ王女の精緻な肖像画……」
 ラムザの呟きに両者は眼を合わせる。
「神祖の民の子!!」
 隆々とした壮年の男と、初老の男が異口同音を唱えた。

 泣き疲れたのか、今までの謎が解けた安堵感からか、エディアは大人しく部屋のソファーで北野の遺品となった腕時計を眺めていた。その時、部屋の扉がノックされた。そして返事する前に扉が開いた。

 1日と15時間後、旭たちは警備付きで外に連れ出された。警備されていると言っても、手錠などを嵌められていない。旭は脱走など考えるのを止め、護衛されていると割り切った。

 つい先刻ログゼットが入ってきて、「リータ様の絵を見せてください」と言ってきた。外の看守同様、瞠目してその写真を見ていたが、廊下に待機している数人の黒服の男たちに腹から響く声で何か言った後「ついてきてください」と言われ、そのまま外に連れ出された。
 そのログゼットを先頭に、旭たちは両脇を黒服に挟まれ3列縦隊で歩く。外に出るまでの1日と15時間弱、3人で交互に仮眠したりで警戒を怠らなかったせいで倦怠感に包まれ、3人とも覇気が薄い。
 外の街の民は最初に見た十数人の観光客らしい人々と同じような質素な色合いの服を着ている。旭は途中から逆に観光客気分で街並みを見ていた。それは山代もエディアも同じだった。
「アリス、望遠25倍」
 旭が発したその言葉にログゼットは一瞬振り向いたが、すぐに前を向いた。
 所々見える遠くの岩肌は黒く丸みを帯び、純粋な火力で一度溶かされて冷え固まったような印象を受けた。
「アリス、元に戻して」
 家畜の姿はほとんど無く、行商人だろうか野菜のような荷物を手押し車やリヤカーのようなもので引いているなど、生活水準はかなり原始的で街並みにそぐわないイメージがあった。だが、街の人々の表情は活気に満ちていて、その生活水準の低さを労ともしない逞しさを旭は感じた。
「裁判所かねぇ……」
 そう山代は頼りなさげに呟く。
 街人と山代と街人のその違いに旭は苦笑いした。
「あのお城みたいな場所に向っているみたいですね……」と指をさして返した。
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