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孤独という弱さ
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ようやく泣き止んだエディアは、真っ赤になった目を擦りながら呟いた。
「なんでキタノ教授は……パパは、私のパパだということを黙っていたのかしら……」
北野教授は確かに、頃合を見計らって本人に言う、と旭に言っていた。
家族を置いてアシンベルの研究所に来たことに負い目を感じていて話せなかったのだろうか――。
だが残された者にとっては、それすらも今となっては分からない。
「だから、あれだけ私に対して厳しかったんだわ……」
「それが教授の優しさだったんだろうな。教授と何度か2人っきりになったとき、『ロックベリーを頼んだぞ』と何度も俺に言ってきたから」
「アキラは、教授が私のパパだってこと知ってたの!?」
旭は頭を振った。
「いいや、それは教えてくれなかった。誰かの忘れ形見だとか、エディアの父さんを知っている、とは言っていたが、それについて頃合を見て話すから、絶対にエディアには言うなと言われてて」
「そう、それなら仕方ないわ……。でも、ママからの時計をパパはずっと大切に身に着けていたことが嬉しくって、ママも浮かばれると思う」
今まで子供のように泣いていた照れを隠すように彼女は、はにかんで見せた。
「それに……、パパはすでに他界しているのかもしれないとも思っていたから、そこまでショックじゃないの。でもね……」
無理やりはにかんだエディアの相貌に翳が降りて、声が震えだす。
「……急に1人ぼっちだと思ったら、こんな遠い星の地で死ぬかもしれないなんて考えたら……私、怖い」
再びエディアの黒い眸に、じわりと涙が溜まり始める。
「アキラ、お願い。私を1人にしないで」
そう言って、エディアは旭の首根に手を回して、小さく整った顔を近づけてきた。そして薄く綺麗な唇が旭の口を塞ぐ。
山代教授が――、と旭は一瞬思ったが、こっちを向いている気配は無い。
それよりもいつも溌剌としてて高慢ですらあるエディアの気弱な姿に、旭は庇護欲を刺激された。彼女を必ず守って、そして絶対地球に帰そうと決心しながら、彼女の唇を受け入れた。それは、今まで味わったことの無い柔かさと暖かさを感じた。だがそれもすぐに溶け合って1つになり、エディアの気持ちが流れ込んでくる錯覚へと変わっていく。
彼女の背中に手を回し、強く抱き締めた。
気丈に振舞う彼女の本当の弱さも今まで知らなかったなんて、俺は今まで一体エディアの何を見ていたのだろう。人は1人では生きられない。孤独を厭うからこそ未来へ命を紡いでいける。そして今、地球では母さんは俺が行方不明になったことで、孤独と焦燥を味わっているはずだ――。
小さな決意が芽生え始めた旭はエディアから唇を離し、仄かに赤く染まった彼女の顔を見ながら言う。
「俺が絶対にエディアを地球に帰す。そしてジェリコも連れて帰ろう。……エディアにとっては憎いだろうけど」
エディアは微笑みながら軽く首を振る。
「パパはジェリコの逆恨みで殺されたけど、そのオオクマ教授を、ジェリコのパパの暴挙を止められなかったことに苛まれ続けてきたらしいから、そんな教授の……、パパの優しい性格を私は誇りに思うわ。ジェリコを憎んだら、そんなパパの遺志が台無しになってしまう。私は……、許すわ。それで怨恨の鎖を断ち切りたいもの」
エディアは言葉にしたことで、どこかすっきりとした表情に変わっていた。
「アキラはパパと色々話していたのね。色々教えてくれる? パパのこと。パパとどんなことを話ししたのか」
「ああ、もちろん。でも、とりあえずここを出てからゆっくり話そう。その前にジェリコを捕まえるんだ。それが北野教授の遺志でもあるから」
「うん!」
涙で充血し、ウサギのような赤い目で旭を見つめ、エディアは力強く頷く。そして彼女は手に持っている父親の時計を、愛しげに自分の手首に回した。
「なんでキタノ教授は……パパは、私のパパだということを黙っていたのかしら……」
北野教授は確かに、頃合を見計らって本人に言う、と旭に言っていた。
家族を置いてアシンベルの研究所に来たことに負い目を感じていて話せなかったのだろうか――。
だが残された者にとっては、それすらも今となっては分からない。
「だから、あれだけ私に対して厳しかったんだわ……」
「それが教授の優しさだったんだろうな。教授と何度か2人っきりになったとき、『ロックベリーを頼んだぞ』と何度も俺に言ってきたから」
「アキラは、教授が私のパパだってこと知ってたの!?」
旭は頭を振った。
「いいや、それは教えてくれなかった。誰かの忘れ形見だとか、エディアの父さんを知っている、とは言っていたが、それについて頃合を見て話すから、絶対にエディアには言うなと言われてて」
「そう、それなら仕方ないわ……。でも、ママからの時計をパパはずっと大切に身に着けていたことが嬉しくって、ママも浮かばれると思う」
今まで子供のように泣いていた照れを隠すように彼女は、はにかんで見せた。
「それに……、パパはすでに他界しているのかもしれないとも思っていたから、そこまでショックじゃないの。でもね……」
無理やりはにかんだエディアの相貌に翳が降りて、声が震えだす。
「……急に1人ぼっちだと思ったら、こんな遠い星の地で死ぬかもしれないなんて考えたら……私、怖い」
再びエディアの黒い眸に、じわりと涙が溜まり始める。
「アキラ、お願い。私を1人にしないで」
そう言って、エディアは旭の首根に手を回して、小さく整った顔を近づけてきた。そして薄く綺麗な唇が旭の口を塞ぐ。
山代教授が――、と旭は一瞬思ったが、こっちを向いている気配は無い。
それよりもいつも溌剌としてて高慢ですらあるエディアの気弱な姿に、旭は庇護欲を刺激された。彼女を必ず守って、そして絶対地球に帰そうと決心しながら、彼女の唇を受け入れた。それは、今まで味わったことの無い柔かさと暖かさを感じた。だがそれもすぐに溶け合って1つになり、エディアの気持ちが流れ込んでくる錯覚へと変わっていく。
彼女の背中に手を回し、強く抱き締めた。
気丈に振舞う彼女の本当の弱さも今まで知らなかったなんて、俺は今まで一体エディアの何を見ていたのだろう。人は1人では生きられない。孤独を厭うからこそ未来へ命を紡いでいける。そして今、地球では母さんは俺が行方不明になったことで、孤独と焦燥を味わっているはずだ――。
小さな決意が芽生え始めた旭はエディアから唇を離し、仄かに赤く染まった彼女の顔を見ながら言う。
「俺が絶対にエディアを地球に帰す。そしてジェリコも連れて帰ろう。……エディアにとっては憎いだろうけど」
エディアは微笑みながら軽く首を振る。
「パパはジェリコの逆恨みで殺されたけど、そのオオクマ教授を、ジェリコのパパの暴挙を止められなかったことに苛まれ続けてきたらしいから、そんな教授の……、パパの優しい性格を私は誇りに思うわ。ジェリコを憎んだら、そんなパパの遺志が台無しになってしまう。私は……、許すわ。それで怨恨の鎖を断ち切りたいもの」
エディアは言葉にしたことで、どこかすっきりとした表情に変わっていた。
「アキラはパパと色々話していたのね。色々教えてくれる? パパのこと。パパとどんなことを話ししたのか」
「ああ、もちろん。でも、とりあえずここを出てからゆっくり話そう。その前にジェリコを捕まえるんだ。それが北野教授の遺志でもあるから」
「うん!」
涙で充血し、ウサギのような赤い目で旭を見つめ、エディアは力強く頷く。そして彼女は手に持っている父親の時計を、愛しげに自分の手首に回した。
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