魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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緊急警戒態勢

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 アカデミー医療室室長、柄本里香は2人の研究員と共に、カモミールティーを飲んでいた。薬品の補充と在庫確認も終了し、一息ついたときだった。彼女のLOTが緊急信号を発する。誰か怪我人が出たのかと、急いでLOTを展開したが、すぐにエラーは消えた。
「故障かしら……」
 そう言って、室内の2人の研究員を見る。
 その1分後、柄本のLOTが再び緊急信号を発す。怪訝な表情で再度LOTを展開すると、今度はエラーを示すアラームは止まらなかった。
「エラー内容は?」
 彼女はLOTに問う。
「2名のバイオセンサが重複しています」
 また生徒のいたずらかしら、と思いLOTを展開して重複している2名の名前を見た。するとそこに書かれていたのは北野と、ある一人の生徒だった。
 北野がこのような単純なミスを犯す訳はないので、生徒が北野のLOTを拾って何気なく装備したのかと勘繰る。すると突然天井のスピーカーから、女性の声で緊急放送が流れ始めた。
「山代克哉の指示でレベル3の緊急警戒態勢を発令します。この放送は訓練ではありません。生徒及び教員は緊急避難場所へ移動した後待機。その後、保安員の指示に従って――」
「レベル3……!」柄本は椅子を跳ね上げて立ちあがった。

 北野の職務室に山代は向っていた。もちろんラグラニア視察のためだ。ただ不思議なことに7階のトイレを過ぎた辺りから、白い床に血痕が所々に散見するようになった。
 誰か怪我でもしたのだろうか。
 山代はそう思ったが北野の職務室に近づくに連れて、その血痕の幅が狭くなっていく。不安に駆られた彼は、自然と早足になって職務室に向う。段々と血痕のサイズも大きくなっていく。更に不安が増してくる。やがて血の色の足跡が目立つようになり始めた。山代の足はそれを辿り、北野の職務室についた頃には不安は確信へと変わった。血の手形が扉に残されており、室内から血の踏み跡が出ている。山代は扉の横のベルを押すも応答はない。彼はすぐにLOTに向って指示を送った。
「緊急警戒態勢レベル3を発令!! 認証番号50024――」
 そして山代は扉番号を見た。
「山代克哉の職権により、S7ー28の扉を開錠」
「許可します」
 LOTがすぐに返す。
 山代は手の甲をスキャナーに翳した。すると両開きの扉がスーッと開く。血痕は北野の机の奥から出ていて、奥には血だまりが出来ていた。
「北野教授!!」
 血痕を直接踏まないように、山代は足跡が付いていない逆から回り込んだ。そこには両手先を切り取られ、腹部、頭部を滅多刺しにされ、大の字に手足を伸ばした遺体が、血だまりの中に仰向けに倒れていた。ボディースーツの色と頭の形から、かろうじて北野の死体だと確認できるほどに損壊していた。山代は強烈な匂いに、一瞬胃液を吐きそうになったが、北野から眼を背けてその胃液を飲み込んだ。そして慌てて室外へと飛び出し、口を押さえ壁に手を付いてうずくまった。
 廊下の奥から保安員が駆けてくる。
「大丈夫ですか!!」
「だ、大丈夫だ、あ、いや、大丈夫じゃない!! 教授が!!」
 そう言って山代は室内を指差した。その時、LOTからコールが鳴った。
「柄本里香教授からです。つなぎますか?」
「あ、ああ。つないでくれ」
「山代教授! 私のバイオセンサがエラーを起こしてまして――」
「すまない。要点だけを言ってくれ!」
「あ、はい。北野教授のLOTを持った生徒が、アカデミー7階から第7研究室方面に向っています!」
 第7研究室は、ラグラニアのある場所だった。
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