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好待遇
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翌日の授業中、旭は、ほとんど上の空で授業内容が全く頭に入らなかった。
予習は済んでいて授業は別に聞かなくても問題はなかったが、時々エディアとジェリコが怪訝な表情で旭を見ていた。
2限目終了後、北野がにやにやしながら教室の戸口に現れ、旭に手招きする。ラグラニアのことだと思った旭はすぐに席を立って、彼のもとに向かった。また廊下の隅に呼ばれて、彼は目を輝かせながら話始める。
「いやー、昨晩は興奮してあの後寝れなかったぞ! また今日2人でいけるかと思うと、全く講義に集中できない!」
その言葉は違う意味に誤解されないだろうか。
旭がそう心配しながらも、北野の言葉に頷きで返した。
「それより今日も予定通り18時10分から調査を始めよう。旭君には昨晩質問をリストアップしたから後で転送するので、トリオン語……、って呼べばいいのかな? 言葉に翻訳する際の推敲などを手の空いている時に進めていてくれ」
「あっ、はい。分かりました!」
「あとこれは他の生徒には話さないほうがいいとは思うが、旭君を放課後に時間拘束するから、研究員に登用という形をとらせてもらう」
「け、研究員!?」
「ああ。余談だが幾許かの手当てが支給される。もちろん昨日の分を含めてだ。ロックベリーとのデート代にでもするといい。あとで研究員登用申請書も転送するから、署名して返送してくれ」
研究員扱いはアカデミー生にとっては破格の待遇だ。旭は身が引き締まる思いがした。
「アカデミーに在籍しながら研究員扱いになるのは君が第1号だぞ」と、微笑しながら旭の肩を叩いて北野は踵を返した。
数分後、早速LOTに2通のメールが届いた。
まずは研究員登用の書類にサインし返信する。
そしてもう1通には22件の質問が書かれてあった。その羅列を上から順に目を通しながら、旭は質問可能な表現に変えていく。いくつか疎通出来ないであろう単語があったが、なんとか知っている言葉を組み立てて繋ぎ合わせ、それらしい質問にしていく。
リータと話した時は、リータの国の言語がシンプルだったのでLOTの解読は早く済んだが、今度の相手エルザは超文明の言語なので、解析がどうしても遅くなる。旭も幾つか知りたい単語などあったので、久しぶりにノートに書き出してリストアップする。
リータから教えてもらったように、エルザ相手に勉強しようと旭は思った。
それを周りの2人が覗き込もうとしていたので、旭は「ちょっとトイレ」と言ってダイニングホールに逃げ込み、すばやく作業を済ませた。
放課後までエディアとジェリコは旭に、しつこく探りを入れてきた。
旭は出来るだけ平生を装っていたのだが、やはり顔に滲み出ていた。
「教えてくれよ。何か良い事があったんだろ」
「だめよジェリコ。もう昨日からこんな感じなんだから。私にすら教えてくれないなんて……」
エディアは大きな溜息をつきながら、旭を不貞腐れた表情で睨む。
「アキラ、教えてくれたら、交換条件でお前のことを気に入っている女の子を教えるからさ」
「なっ! ダメっ、ダメよそんな!! 今まで苦労して追い払ってたんだから!」
「え? 何言ってんだ、エディア……」
今まで他の女の子がよそよそしかったのは、エディアの仕業なのか!?
「その話ちょっと詳しく聞かせろ!」
「交換成立だな。その女の子はだな――」
「そっちの話じゃねぇよ! エディア、俺の回りで勝手に何してんだ!」
「あっ、わ、私クラブに行かなきゃ!」
「おい、コラ!! あっ、待て!」
逃げるように走り出したエディアは、旭らを一瞥することなく教室を飛び出した。
なにとんでもないことしてくれてたんだ、エディア……。
「なぁ、知りたくないのか、その女の子?」
旭は重たい息を吐き出した。
「もういいよ……、俺もう帰る。このことは頃合を見計らって話すから、今は悪いが勘弁してくれ」
「仕方ないな。でも絶対最初に教えろよ」
その日の授業は15時には終了し、時間があったので一旦帰宅して17時半頃アカデミーのビル前に再びやってきた。クラブ帰りの生徒、特にエディアには見つからないように、暗闇に紛れて移動していた。こんな忍者みたいな生活がしばらく続くのか……。旭は今日何度目か分からない嘆息をする。
公孫樹の木に隠れながら、アカデミーの正門を見る。人影は見当たらない。旭はビルの中に飛び込んだ。18時前、なんとか無事に研究室前にたどり着いた。研究室の扉横のセンサーに手の甲を翳して扉が開いた瞬間、旭が挨拶する前に北野が声をかけてきた。
「おお旭君、来たか。質問のリストに目を通してくれたかね」
「あ、はい。ほとんど話は通じると思います。分からない単語はエルザに聞きながら、自分も語彙を増やしていくつもりですので」
「頼もしいな、いっぱしの研究員の顔つきだ。ところで今回研究員が2名追加の、計4名で入る。ラグラニアから出る時、置き忘れないように」
置いて行かれたのは結構ショックだったんだな。
旭は頷きで返した。
数歩進んでコンソールが並ぶ観測室内からラグラニアを見た。たった1日振りだが、待ち遠しかったためか酷く懐かしい感じがした。
予習は済んでいて授業は別に聞かなくても問題はなかったが、時々エディアとジェリコが怪訝な表情で旭を見ていた。
2限目終了後、北野がにやにやしながら教室の戸口に現れ、旭に手招きする。ラグラニアのことだと思った旭はすぐに席を立って、彼のもとに向かった。また廊下の隅に呼ばれて、彼は目を輝かせながら話始める。
「いやー、昨晩は興奮してあの後寝れなかったぞ! また今日2人でいけるかと思うと、全く講義に集中できない!」
その言葉は違う意味に誤解されないだろうか。
旭がそう心配しながらも、北野の言葉に頷きで返した。
「それより今日も予定通り18時10分から調査を始めよう。旭君には昨晩質問をリストアップしたから後で転送するので、トリオン語……、って呼べばいいのかな? 言葉に翻訳する際の推敲などを手の空いている時に進めていてくれ」
「あっ、はい。分かりました!」
「あとこれは他の生徒には話さないほうがいいとは思うが、旭君を放課後に時間拘束するから、研究員に登用という形をとらせてもらう」
「け、研究員!?」
「ああ。余談だが幾許かの手当てが支給される。もちろん昨日の分を含めてだ。ロックベリーとのデート代にでもするといい。あとで研究員登用申請書も転送するから、署名して返送してくれ」
研究員扱いはアカデミー生にとっては破格の待遇だ。旭は身が引き締まる思いがした。
「アカデミーに在籍しながら研究員扱いになるのは君が第1号だぞ」と、微笑しながら旭の肩を叩いて北野は踵を返した。
数分後、早速LOTに2通のメールが届いた。
まずは研究員登用の書類にサインし返信する。
そしてもう1通には22件の質問が書かれてあった。その羅列を上から順に目を通しながら、旭は質問可能な表現に変えていく。いくつか疎通出来ないであろう単語があったが、なんとか知っている言葉を組み立てて繋ぎ合わせ、それらしい質問にしていく。
リータと話した時は、リータの国の言語がシンプルだったのでLOTの解読は早く済んだが、今度の相手エルザは超文明の言語なので、解析がどうしても遅くなる。旭も幾つか知りたい単語などあったので、久しぶりにノートに書き出してリストアップする。
リータから教えてもらったように、エルザ相手に勉強しようと旭は思った。
それを周りの2人が覗き込もうとしていたので、旭は「ちょっとトイレ」と言ってダイニングホールに逃げ込み、すばやく作業を済ませた。
放課後までエディアとジェリコは旭に、しつこく探りを入れてきた。
旭は出来るだけ平生を装っていたのだが、やはり顔に滲み出ていた。
「教えてくれよ。何か良い事があったんだろ」
「だめよジェリコ。もう昨日からこんな感じなんだから。私にすら教えてくれないなんて……」
エディアは大きな溜息をつきながら、旭を不貞腐れた表情で睨む。
「アキラ、教えてくれたら、交換条件でお前のことを気に入っている女の子を教えるからさ」
「なっ! ダメっ、ダメよそんな!! 今まで苦労して追い払ってたんだから!」
「え? 何言ってんだ、エディア……」
今まで他の女の子がよそよそしかったのは、エディアの仕業なのか!?
「その話ちょっと詳しく聞かせろ!」
「交換成立だな。その女の子はだな――」
「そっちの話じゃねぇよ! エディア、俺の回りで勝手に何してんだ!」
「あっ、わ、私クラブに行かなきゃ!」
「おい、コラ!! あっ、待て!」
逃げるように走り出したエディアは、旭らを一瞥することなく教室を飛び出した。
なにとんでもないことしてくれてたんだ、エディア……。
「なぁ、知りたくないのか、その女の子?」
旭は重たい息を吐き出した。
「もういいよ……、俺もう帰る。このことは頃合を見計らって話すから、今は悪いが勘弁してくれ」
「仕方ないな。でも絶対最初に教えろよ」
その日の授業は15時には終了し、時間があったので一旦帰宅して17時半頃アカデミーのビル前に再びやってきた。クラブ帰りの生徒、特にエディアには見つからないように、暗闇に紛れて移動していた。こんな忍者みたいな生活がしばらく続くのか……。旭は今日何度目か分からない嘆息をする。
公孫樹の木に隠れながら、アカデミーの正門を見る。人影は見当たらない。旭はビルの中に飛び込んだ。18時前、なんとか無事に研究室前にたどり着いた。研究室の扉横のセンサーに手の甲を翳して扉が開いた瞬間、旭が挨拶する前に北野が声をかけてきた。
「おお旭君、来たか。質問のリストに目を通してくれたかね」
「あ、はい。ほとんど話は通じると思います。分からない単語はエルザに聞きながら、自分も語彙を増やしていくつもりですので」
「頼もしいな、いっぱしの研究員の顔つきだ。ところで今回研究員が2名追加の、計4名で入る。ラグラニアから出る時、置き忘れないように」
置いて行かれたのは結構ショックだったんだな。
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