魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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自問

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 考え事をしながらも旭は眠りについたが、5時間ぐらいで起きてしまった。とても二度寝など出来なくなっている。
 エディアの気持ちには薄々気付いていた――。虫がいい話だが2人でいる時間は居心地が良く、ずっとその状態が続くといいなと思っていたのは確かだった。だけど、エディアは俺のこと好きなんじゃないか、と思っても、どこかで彼女に近寄ることに抵抗していた自分にも気付いていた。
 ベッドに座り、首に巻いていたLOTに煩わしさを覚え、外して枕に放り投げる。
 なぜエディアの気持ちに応えようとしなかったのだろう。彼女を退けていた理由は、やはりリータにあるのだろうか。いつかリータに会えると思っているのだろうか。そしてリータに対して好きという感情を持っているのだろうか。
 リータが姿を見せなくなって、もう12年近くになろうとしている。
 彼女が写真を見ようと近づいてきた瞬間の表情が忘れられずにいる。
 あんなに楽しみにしていた写真を見ることが叶わず、リータと離れ離れになってしまった。……いや、もとから離れ離れだったはずなのに、確実にお互いが終生触れられない存在なのに、SSBEが現実になったせいで小さい頃に焼き付いたリータの姿が大きくはっきりとし始めている――。
「くそ……、まいったな」
 旭は頭をがしがしと扱き、考え込んでいるうちに窓から射しこむ夏の強い光に気づいて、腰掛けていたベッドから立ち上がった。

 シャワーを浴び、ボディースーツを着て、旭はアシンベルの街に出た。身体はボディースーツの温度調節機能で守られているが、露出している頭はさすがに暑い。影のない街をしばらく蹣跚と歩いていたが暑さに耐え切れず、先日、北野とエディアとで以前食事したカフェに入った。冷房の効いた店内に、ほっと一息つき、空いている席に座ってアイスコーヒーを頼む。
 いつもはアカデミーの学生でそこそこ賑わっているが、夏休み期間中の昼前とあって研究員や教授のスーツを着た面々が多い。おかげで旭は、しばらく考え事をすることが出来た。だが思考の行き先は堂々巡りで結実しない。
 なぜ触れることの出来ないリータを追っているのか――。
 なぜエディアを立ち入らせたくないほど切羽詰っているのか――。
 リータに写真を見せる為だけに、科学の世界を突き進んできたのか――。
 色々複雑に絡み合って何一つ答えが出ない。考えすぎて思考が停止した瞬間、旭は差し向かいに座る人影に気付いた。白衣姿ではない北野が、LOTからの画像を見つめながら座っている。旭のよりも濃い、最新の灰色のボディースーツを纏っていた。
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