50 / 114
酒席
しおりを挟む
ラムザとログゼットは石畳で整備された目抜き通りを通り、まだ土を固めただけの道が大半を占めるラステアの繁華街へと折れた。夕陽は暮色を連れて地の彼方に姿を隠し、すでに濃紺の帳が天を覆う。
だが街は昼間よりも活気付き始めた。動物の脂を精製して燃した橙の明かりが店から漏れる。仕事帰りの街人の高揚感を助長させている。その油の甘い香りが仄かに漂っていた。
その一角の店内に2人は腰を下ろす。
店はまだ人が少なく、すぐに女給がメモと筆記具を持って2人の座ったテーブルにやってきた。
「この店で人気の……、ほら、なんだったかな……あれ、カイザム酒に特別な香料が入っとるという」
ラムザがその名前を思い出せないのか、メニューと女給の顔を交互に見ながら探す。
「カリム……、ですか?」女給はアルカイックスマイルで聞く。
「おお、それだ。それを2つ頼む。あとそれに合う肴を適当に見繕ってくれ」
「かしこまりました」
女給は丁寧にお辞儀し、注文をメモに記入しながら厨房へと向かった。
「カイザム酒に香料が入ってるなどとは、珍しいものを注文しますね」
「うむ、それなんだが、以前ラステアの飲食店連合の連中が、政府の決めた酒税について明確な定義を要求しただろ」
「ええ、10年前でしたか、私が将軍の任を解かれた年ですので覚えております」
「それで、話し合いは難航を極め、酒の製法によって利益率が違うから種類ごとに税率を決めろだの、その種類の定義も決めろだの、法の整備にえらく時間かかってな、政治家も民主制になってから選挙票が欲しくて連合を蔑ろに出来んのだよ」
「……はあ」
「それでようやく法が確定して公布されたのが2年前なんだが、この……、えっと……何だったかな」
「カリム……、ですか?」
「おお、それそれ。その……」
「お待たせしました。カリムお2つに、つけ合わせです。つけ合わせは、カヤ・ガリクのスライスに、炙ったビターギッドです」さっきとは別の女給が、2人の席に酒と料理を持ってきた。
グラスから覗く琥珀色の酒と、綺麗に盛られたつけ合わせに2人の喉がなる。
「とりあえず、いただくとするか」
「ええ、そうですね。私は喉が渇いて」
そう言って2人は杯を手に取り、テーブルにコンコンと2回杯の底を打ち付けて飲み始める。それは神に対する感謝と、同じく王に対する感謝を表す古い慣習だった。
だが街は昼間よりも活気付き始めた。動物の脂を精製して燃した橙の明かりが店から漏れる。仕事帰りの街人の高揚感を助長させている。その油の甘い香りが仄かに漂っていた。
その一角の店内に2人は腰を下ろす。
店はまだ人が少なく、すぐに女給がメモと筆記具を持って2人の座ったテーブルにやってきた。
「この店で人気の……、ほら、なんだったかな……あれ、カイザム酒に特別な香料が入っとるという」
ラムザがその名前を思い出せないのか、メニューと女給の顔を交互に見ながら探す。
「カリム……、ですか?」女給はアルカイックスマイルで聞く。
「おお、それだ。それを2つ頼む。あとそれに合う肴を適当に見繕ってくれ」
「かしこまりました」
女給は丁寧にお辞儀し、注文をメモに記入しながら厨房へと向かった。
「カイザム酒に香料が入ってるなどとは、珍しいものを注文しますね」
「うむ、それなんだが、以前ラステアの飲食店連合の連中が、政府の決めた酒税について明確な定義を要求しただろ」
「ええ、10年前でしたか、私が将軍の任を解かれた年ですので覚えております」
「それで、話し合いは難航を極め、酒の製法によって利益率が違うから種類ごとに税率を決めろだの、その種類の定義も決めろだの、法の整備にえらく時間かかってな、政治家も民主制になってから選挙票が欲しくて連合を蔑ろに出来んのだよ」
「……はあ」
「それでようやく法が確定して公布されたのが2年前なんだが、この……、えっと……何だったかな」
「カリム……、ですか?」
「おお、それそれ。その……」
「お待たせしました。カリムお2つに、つけ合わせです。つけ合わせは、カヤ・ガリクのスライスに、炙ったビターギッドです」さっきとは別の女給が、2人の席に酒と料理を持ってきた。
グラスから覗く琥珀色の酒と、綺麗に盛られたつけ合わせに2人の喉がなる。
「とりあえず、いただくとするか」
「ええ、そうですね。私は喉が渇いて」
そう言って2人は杯を手に取り、テーブルにコンコンと2回杯の底を打ち付けて飲み始める。それは神に対する感謝と、同じく王に対する感謝を表す古い慣習だった。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜
柚亜紫翼
SF
真っ暗な宇宙を一人で旅するシエルさんはお父さんの遺してくれた小型宇宙船に乗ってハンターというお仕事をして暮らしています。
ステーションに住んでいるお友達のリンちゃんとの遠距離通話を楽しみにしている長命種の145歳、趣味は読書、夢は自然豊かな惑星で市民権とお家を手に入れのんびり暮らす事!。
「宇宙船にずっと引きこもっていたいけど、僕の船はボロボロ、修理代や食費、お薬代・・・生きる為にはお金が要るの、だから・・・嫌だけど、怖いけど、人と関わってお仕事をして・・・今日もお金を稼がなきゃ・・・」
これは「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に投稿している「〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜」の元になったお話のリメイクです、なので内容や登場人物が「リーゼロッテさん」とよく似ています。
時々鬱展開やスプラッタな要素が混ざりますが、シエルさんが優雅な引きこもり生活を夢見てのんびりまったり宇宙を旅するお話です。
遥か昔に書いたオリジナルを元にリメイクし、新しい要素を混ぜて最初から書き直していますので宇宙版の「リーゼロッテさん」として楽しんでもらえたら嬉しいです。
〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜
https://www.alphapolis.co.jp/novel/652357507/282796475
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる