魔法と科学の境界線

反論

「私には分からないですね」
　ミートパイを食べ終え、何やら白い粒々が浮いている得体の知れないジュースを、かき混ぜながら飲んでいたエディアが、不満げに漏らし始めた。
「私は今生きているのが楽しいし、好きな人と２人だけで御飯食べたいとか、一緒に過ごせたらどんなに楽しいかとか毎日想像して楽しいですよ、最近は特に。カビがそのような事を考えますか？」
　北野はまるで娘を見るような目で、「例えだよ、例え」とエディアを宥めた。
「視点の違いだよ。俺は人類の未来を考えて行動しているから、そういう見方にたまに陥るのであって、人間を卑下しているわけではない」
　なにかはぐらかされた、と言いたげな目でエディアは北野を見ていたが、再びストローに口をつけた。
「地球の表面に局所的にわらわらと群がって、地球の地殻や大気を少しずつ侵食しながらじわじわと人口を増やす感じが、たまにカビのように感じる。健気で、愛しいとすら思う。この過酷な宇宙で種を滅ぼさないように逞しく生きている感じがな。そんな種を紡いでいこうという原始的な本能を、俺は潰したくないだけだ」
「原始的な本能ね……」とエディアは呟きながら、目を半開きにして北野を見る。
　その表情を見た北野は「原始的な本能って言っても、学生のうちはちゃんと避妊しろよ」とにべも無く言って、アイスコーヒーを啜った。
「ひにっ……なっ！」
　エディアは、「ボッ！」と顔を真っ赤にしてうろたえ始め、北野の顔を一瞬上目遣いに見てぷるぷる震え出した。そして「この……！　このセクハラエロじじぃ！！」とカフェ内に響く声で叫び、手元のおしぼりを思いっきり北野の顔に投げ付けた。