魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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北野春臣

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 旭はすぐに次の休み時間、北野に会いに職員室に向かった。LOTを通してコンタクトをとることもできたが、機密性の高い内容なので、直接赴くことにした。各教授には個人用の職務室も宛がわれていると聞いていたが、小日向から、この時間は教員室にいる、との話を聞いたので直行した。
 授業でしか顔を合わせなかったが、北野教授もおそらく自分もの顔を覚えてくれているだろう。なにせ、入学初日に自分を捕まえて話したぐらいだから。
 職員室に入ると短く刈った頭が室内の前の方にいた。アカデミー講師陣の中でも、かなり上の席だ。彼はコンタクトレンズを通してLOTからの画像を見ている。
 旭は机に目を落とす北野に話しかけた。
「すいません北野教授。アシンベルで調査の申請をお願いして貰いたいのですが」
 その声に北野は驚きの表情を見せ振り向く。
「おお、旭君。やっときたか!」
 ボディースーツの上に羽織った糊の効いた白衣の襟を摩りながら、北野は頭を擡げる。
「嫌われていると思って心配したぞ!」
 とてもそんな心配をするような性格に見えない。
 軽く会釈をして旭は話し始めた。
「N8の寮に母と住んでいるのですが、そこの調査許可を頂きたいのです」
「調査?」
 しまった。
 旭は言った直後に後悔した。適当に嘘をついたほうがスムーズに交渉出来たかもしれない。だが、言ってしまった後だったので、旭は一部を秘すつもりで話しだした。
「11年前の亜空間開闢実験での出来事なのですが……」
 一瞬で北野の相貌が変わる。
「亜空間への扉が開いている時間に、不思議な現象が起きたのです。それは……」
 北野は手のひらで旭の言葉を遮った。
「女の子が現れたんだろ」
 旭は数瞬、頭の中が真っ白になった。
「香苗さんが言っていたぞ」
 納得した旭は額を押さえ、瞑目して答える。
「ええ、まあ……」
 北野はLOTのファイルの中から1枚の写真をピックアップして投影した。北野と旭の間に画像が浮かぶ。
「この子か。リータとか言ったな」
 小さい頃、旭が母に渡した写真をスキャンしたものだった。
「子供の話だから、と香苗さんは言っていたがな、話は面白いが、理論的に整合性がとれないから保留していたのだが、少し詳しい話を聞かせてくれないか」
「……はい、この女の子、リータが現れたのは11年前の実験による計画停電が始まったときからでした。そして二ヶ月後の事故の日、23時50分を回ったぐらいで彼女は消えてしまったんです」
 当時を思い出して、旭は少し胸が痛んだ。そして北野もなぜか苦そうな顔をしている。こう見えても感受性の強い人なんだろうか、と旭は感じた。
「それで当時はあまり不思議ではなかったのですが、彼女は私の家の廊下にだけ現れたのです」
「うむ、それも聞いている、そこなんだよな」
「そうなんです。その場所に謎を解く鍵があるのではと思いまして、調査したいのです」
 椅子に寄りかかった北野は、中空の一点を見つめ短く刈った頭を擦る。そして旭の目をひたと見て、珍しく声を落として話しだした。
「そうか、その映像の出所か……。ただし条件がある」
 北野は軽く口の端を上げ、「私も立ち会おう」と、上目遣いで旭を見た。
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