魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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アビー・インパクト

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 旭が10歳の誕生日を迎えた頃、ある話題、いや事件が世間を騒がせ始める。その事件は、アビーインパクトと呼ばれた。
 直径5・2kmの小惑星アビーが太陽系外から入り込み、真っ直ぐ地球へと向かってきているとNASA及び各国の宇宙開発機関が共同発表したのだ。正確には世界の天体観測家がウェブで発表、警告し、正確な情報を掴むまでそれを秘匿していたNASAが、世論に圧されて正式に発表したのだった。その衝突は発表から約3年後、日本時間で言うと2161年1月22日夜半頃で、確率は13%と当初発表されたが、言い換えれば8回に1回は衝突する可能性がある。
 そして、なりを顰めていた宗教家が突如とウェブに顔を出して、神の怒りだとか、預言書がどうのとかしばらく捲し立てていた。だがNASAは淡々と定期的に現在位置、衝突確率を発表し続ける。先進国の幾つかは旧時代の負の遺産、核兵器をここぞとばかりに使うと宣言したが、環境保全団体による宇宙汚染に対する非難の声と宗教家の猛反発にあい、リミットと言われる木星通過までに採択が間に合わなかった。それを聞いて月や火星に移住しようとする富裕層も現れだした。
 その後アビーが木星と火星間を漂う小惑星に衝突して、ほんの僅か軌道変更した後は、衝突確率が0.02%まで急激に落ち込み、宗教家の撤退とともに世間の話題に上がることも減っていった。
 アビーインパクトの恐慌が熱を持ったままの状態で、日本政府は5年前に閉鎖したアシンベルでの亜空間開闢実験を再開すると国連で宣言する。宇宙規模の災害に対する準備という建前だったが、日本経済の建て直しというのが本音だと香苗は旭に言っていた。難色を示した諸外国は、日本との共同研究ならば賛同する、との条件を提示し、日本政府はしかたなくその条件を飲んだ。

 そのアビーが肉眼で観測できるほどのサイズで夜空を駆けている。旭は13歳になっていた。
 再び香苗が亜空間開闢実験に招集されることとなった。香苗はN8寮の同じ部屋をすでに予約していた。
 多分、実験が再開されれば、リータも戻ってくるはずだ。再びリータに会って、この写真を見せることが出来るかもしれない。
 願いを叶えてくれた夜空を駆けるアビーに感謝しながら、旭は寒空の下リータの写真を見ていた。
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