魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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人の強さと弱さ

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 再び千葉に戻ってきた旭は、木曜日の夜、廊下でリータを待つ。1週間振りだということもあって、少し緊張していた。そして23時10分、リータはいつもの場所に現れた。
「おかえり、アキラ!」リータはやや悲しげな表情で旭を迎えた。
 旭は悲しさを伝えないよう努めて明るい表情で口を開く。
「ただいま、リータ」
 だがリータの顔色は変わらず、何を話していいか分からないといった表情になった。
 多分、父さんの事で気を使っているのだろう、と思った旭は、何も気にしていない風に話しだした。
「長野、良かったよ」
「ナガノ……、アキラのお父様のところ……。綺麗なところなの?」
「うん、僕が住んでいるところとは違って、緑が多いんだ」
「緑……、植物の例えね!」
「うん。朝はだいたい母さんと家の近くを散歩したんだけど、気持ちよかった」
「シャシンとか無いの? あったら見せて欲しいけど……」
「写真……、あっ、フィルム現像するから、明日リータの写真が見られるよ! それに長野も写っていると思う」
「わあっ!!」
 リータは悲しげな表情から一転、歓声を上げる。
「あーっ、楽しみ! ナガノのシャシンもだけど、私がどんな風に写っているのか……」
 リータは身体を捩らせながら期待に目を輝かせていた。

 翌朝、旭が台所に向かっていると、ちょうど玄関のエアダクトポストが電子音と共に、カンと音を立てた。旭は大欠伸しながらポストを開けると、古びたデザインの包装にアシンベルサービスと書かれてある配達物が入っていた。中身がすぐに分かった旭は、慌てて手に取り、その包装をその場で破くと、やはり中には厚さ1センチほどの写真の束が入っていた。
「母さーん!!」
 玄関から叫んで、旭はキッチンへ駆け込んだ。するとテーブルに突っ伏していた香苗を見つけた。
「母さん!」
 旭が慌てて近寄ると、テーブルの上に散らかるお酒の缶が目の端に入る。
「……旭、おはよう」
「母さん、飲みすぎだよ」
 普段よりも明らかに本数の多い缶を見て、旭はさすがに香苗に注意した。
「ごめんね……、旭。母さん疲れちゃって……」
 そんな弱々しい香苗の言葉に少し寂しくなったが、旭は顔を上げ、リータの写真を抜き取った残りの写真をぐいっと押し付ける。
「父さんの写真だよ」
「夏雄……!」
 香苗は旭の手から、その写真の束を引っ手繰った。
 旭はリータの写真をポケットに入れ、香苗と差し向かいに座り、その表情を見る。そして香苗が見終わってテーブルに置いた写真を旭は奪い取り、今度はその写真をじっくりと見た。
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