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新しい使命
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集団となって王城から出ていく各首脳たちを、窓からクレイトスは眺めていた。
勇者のおかげか他の六国がまとまるのはいいが、懸念すべきは勇者が巻き起こす災害だ。出来るだけ被災者を出さないようにしなければいけない。あとは魔王をどうするかだ。まだ十五年、ではなく、たった十五年、だ。その間に勇者の旅の準備をしておかなければいけない。
そう考えながらクレイトスは、溜息をついた。
輝きの度合いがずいぶん落ちた夕日が、もう地平線に触れようとしていた。
会議で疲れたクレイトスは、その夜、王国騎士団長のカーチネルを会議室に呼んだ。
「国王、何か御用でしょうか?」
「まあ、座りたまえ。話が少し長くなるかもしれないから」
「かしこまりました、では失礼します」
カーチネルは椅子を引いて座った。
クレイトスは少し間を置いて口を開く。
「ここ最近、王都近辺の魔物は、目撃報告も入れて何件ほどあるかね」
「そうですね、月に五件ほどでしょうか」
「五件か……」
クレイトスは顎に手を置いて呟いた。
「我々の討伐が足りないのでしょうか。それとも何か被害が出たとか」
カーチネルはクレイトスの眉を読んで訊いた。
「いや、少なすぎなんだ」
「少ない……、ですか?」
「うむ。これから、魔物の個体数を増やさなければいけない事情が出来たのだ」
「何ゆえにですか?」
「騎士団長だから言えることなのだが、勇者が誕生したのだ」
言外に口外するな、という言葉だった。
「もしかして魔王が復活したとか!?」
「いいや文献から、魔王は遥か昔に倒されているだろう」
「……はい、確かに」
「魔王不在のまま勇者が誕生したことで、問題が発生しているのだ」
「どのような問題なのですか?」
「敵対する魔王がいない勇者とは、単なる厄災でしかない」
カーチネルは頭に疑問符が浮かび上がった。
「厄災ですか?」
「勇者は勇者として生まれてくる。勇者たらしめる役割を果たせないと、この世界のどこかに災害が起こり無辜の民が死傷。最悪の事態として全世界が滅亡する可能性もある。だから勇者の承認欲求が満たす障害となる魔物を増やす必要があるのだ」
カーチネルは開いた口が塞がらなかった。
「だから今後、魔物の討伐ではなく保護、飼育、繁殖に切り替える。あと十五年ある。その間に十分な個体数を用意して欲しい。飼育場所としてラベリア平原と、その南にある森の中を候補と考えている。まずは魔物が逃げないよう、早速明日から頑丈な飼育場を作る予定だ。その全監督を君にやって欲しい」
「え、あ、……はい」
「魔物によっては飼育方法も違ってくるだろう。魔物の専門家と騎士数人で、試行錯誤することになると思う。その専門家と騎士には、魔物を天然記念物として個体数を増やす、と言って通す。まだ世界に勇者が誕生したという事は、世界各国の首脳以外知らない。くれぐれも口外しないように」
カーチネルは小さく頷いた。まだ勇者という存在について、信じられない、といった表情である。
「もし国民に、ある子どもが勇者であることが発覚し、しかも勇者が厄災という事さえ知られたら、そのような環境で素直な勇者には育たないだろう。そうすると、この全世界合同の勇者対策が崩壊しかねん。飼育場が完成する前に、魔物の捕獲方法と個体数の確認を確立して欲しい。捕獲出来そうだったら、他に騎士をつれて捕獲しておいても構わない。城内の地下に、わずかだが保護できる場所がある。色々と一気にまくし立てたが、よろしく頼んだぞ。分からないことがあったら相談にのる。話は以上だ。何か質問はあるか?」
「えーと……今のところは……」
「では明日から早速動いてくれ」
「はい、分かりました」
わずかに間を置いた後、カーチネルは席を立って一礼し会議室を辞した。
「とりあえず魔物を探して捕獲か……」
カーチネルは、今まで騎士として従事してきた自分を振り返っていた。今まで国民を守るため、先陣を切って魔物討伐をやってきた。今度は捕獲して繁殖させなければいけない。しかも個体数が少ない魔物を、出来るだけ傷つけずに捕獲するためにはどうすればいいのだろうか。色々な方策を考えながら自宅へと戻っていった。
勇者のおかげか他の六国がまとまるのはいいが、懸念すべきは勇者が巻き起こす災害だ。出来るだけ被災者を出さないようにしなければいけない。あとは魔王をどうするかだ。まだ十五年、ではなく、たった十五年、だ。その間に勇者の旅の準備をしておかなければいけない。
そう考えながらクレイトスは、溜息をついた。
輝きの度合いがずいぶん落ちた夕日が、もう地平線に触れようとしていた。
会議で疲れたクレイトスは、その夜、王国騎士団長のカーチネルを会議室に呼んだ。
「国王、何か御用でしょうか?」
「まあ、座りたまえ。話が少し長くなるかもしれないから」
「かしこまりました、では失礼します」
カーチネルは椅子を引いて座った。
クレイトスは少し間を置いて口を開く。
「ここ最近、王都近辺の魔物は、目撃報告も入れて何件ほどあるかね」
「そうですね、月に五件ほどでしょうか」
「五件か……」
クレイトスは顎に手を置いて呟いた。
「我々の討伐が足りないのでしょうか。それとも何か被害が出たとか」
カーチネルはクレイトスの眉を読んで訊いた。
「いや、少なすぎなんだ」
「少ない……、ですか?」
「うむ。これから、魔物の個体数を増やさなければいけない事情が出来たのだ」
「何ゆえにですか?」
「騎士団長だから言えることなのだが、勇者が誕生したのだ」
言外に口外するな、という言葉だった。
「もしかして魔王が復活したとか!?」
「いいや文献から、魔王は遥か昔に倒されているだろう」
「……はい、確かに」
「魔王不在のまま勇者が誕生したことで、問題が発生しているのだ」
「どのような問題なのですか?」
「敵対する魔王がいない勇者とは、単なる厄災でしかない」
カーチネルは頭に疑問符が浮かび上がった。
「厄災ですか?」
「勇者は勇者として生まれてくる。勇者たらしめる役割を果たせないと、この世界のどこかに災害が起こり無辜の民が死傷。最悪の事態として全世界が滅亡する可能性もある。だから勇者の承認欲求が満たす障害となる魔物を増やす必要があるのだ」
カーチネルは開いた口が塞がらなかった。
「だから今後、魔物の討伐ではなく保護、飼育、繁殖に切り替える。あと十五年ある。その間に十分な個体数を用意して欲しい。飼育場所としてラベリア平原と、その南にある森の中を候補と考えている。まずは魔物が逃げないよう、早速明日から頑丈な飼育場を作る予定だ。その全監督を君にやって欲しい」
「え、あ、……はい」
「魔物によっては飼育方法も違ってくるだろう。魔物の専門家と騎士数人で、試行錯誤することになると思う。その専門家と騎士には、魔物を天然記念物として個体数を増やす、と言って通す。まだ世界に勇者が誕生したという事は、世界各国の首脳以外知らない。くれぐれも口外しないように」
カーチネルは小さく頷いた。まだ勇者という存在について、信じられない、といった表情である。
「もし国民に、ある子どもが勇者であることが発覚し、しかも勇者が厄災という事さえ知られたら、そのような環境で素直な勇者には育たないだろう。そうすると、この全世界合同の勇者対策が崩壊しかねん。飼育場が完成する前に、魔物の捕獲方法と個体数の確認を確立して欲しい。捕獲出来そうだったら、他に騎士をつれて捕獲しておいても構わない。城内の地下に、わずかだが保護できる場所がある。色々と一気にまくし立てたが、よろしく頼んだぞ。分からないことがあったら相談にのる。話は以上だ。何か質問はあるか?」
「えーと……今のところは……」
「では明日から早速動いてくれ」
「はい、分かりました」
わずかに間を置いた後、カーチネルは席を立って一礼し会議室を辞した。
「とりあえず魔物を探して捕獲か……」
カーチネルは、今まで騎士として従事してきた自分を振り返っていた。今まで国民を守るため、先陣を切って魔物討伐をやってきた。今度は捕獲して繁殖させなければいけない。しかも個体数が少ない魔物を、出来るだけ傷つけずに捕獲するためにはどうすればいいのだろうか。色々な方策を考えながら自宅へと戻っていった。
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