出水探偵事務所の受難

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第三章・我校引線

3話 その依頼者、時墺鈴

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「カストロは雷獣が襲ってきた時は能力を既に使っていたために、応戦が全く出来ず、その後、なんとか仲間に助けてもらって逃げることができたけど、顔を雷獣に見られたらしい」
「成る程…それで雷獣はカストロを逃したくなくて追っかけてきたというわけですか」
 出水は琵琶持のその言葉に頷きながらため息をついた。
「でもな~そもそもなんで『雷獣』がエリスを狙ったのか、がわからない。一緒にいたマックスとかいう男は逃しちゃったし…あー、こんなに悶々とするなら吐かせれば良かった」
 琵琶持は自分で淹れたコーヒーを飲みながら微笑んでいた。
「貴方はそういうところで甘いですな…でも、『アルテミス』の着弾音を間近で聞いて再起不能になったのは間違いないようですし、そこまで考える必要はないでしょう」
「まぁ、そうだな。カストロの悲願は達成されたし、私の右腕の傷も、あとは残ったけど治ったし、大団円」
 そうやって話していると、探偵事務所のドアがノックされている音が聞こえた。
「やれやれ、お客さんが来たな…琵琶持、出てくれ」
「わかりました」

 琵琶持がドアを開けた先にいたのは、高校の制服を着た女性だった。女性は部屋に入ると出水に一礼して、客用のソファに座った。
「じゃあ先ずは名前を聞こうか」
「私の名前は時墺鈴と言います。依頼があってここに来ました」
「私の名前は出水露沙。で、一応言っとくけど、私の探偵事務所は普通の案件は取り扱わないの。彼氏の浮気調査してほしい~とか、猫が迷子でいなくなっちゃった~とかなら、他所の事務所を紹介してあげる」
「『鏡の柱』に言われてここに来ました」
 時墺は緩んでいた出水の顔がどんどん険しくなっていくのを見た。
「『鏡の柱』か。成る程、じゃあ私の案件だな。んで、依頼内容は?」
 時墺は、違和感の話と、鏡の柱による記憶の改竄の話をして、自分の記憶を取り戻したいと言った。
「…アンタをつけていた人物と関係してそうだな」
「そうですな。それでは、これからは別行動をとりましょう」
 琵琶持が提案したのは、自分が時墺をつけていた奴を時墺を囮にして捕まえて情報を吐かせる。そして出水は学園の生徒達に対しての調査をする、だった。
「うん…まぁ、そうしたいところだが、鈴」
 不意に呼ばれて時墺は、ハッと顔を上げた。
「あんたを囮にしたいんだが、大丈夫か?」
 時墺はその問いに、決意を固めて頷いた。そこから出水達は時墺の生い立ちや、生活習慣について根掘り葉掘り聞いていった。

「ただいま戻りました」
 琵琶持が車で時墺を家に送り、今帰ってきた。
「お帰り。どうだった、時墺の家は」
「一般よりは裕福なだけの、普通の家庭でしたよ」
「そうか…」
 出水は先程読み終わったファイルを机に置いた。
「私さぁ…鈴を見たことがある…気がするのよね。気の所為だとは思うんだけど」
すると、琵琶持はおずおずと言った。
「出水さんもでしたか。私も見たことがある気がするのです」
「マジ…?」
 そして琵琶持はコクリと頷いた。思わぬ話の一致に、出水と琵琶持は不安げな視線を交わし合った。
「まぁ、それもおいおい考えるとして、だ。私…行けると思うか?」
 琵琶持は、出水の身体をジロジロと上から下まで見た。
「行けるでしょうね。貴方は若いですから」
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