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第三話.ニートはその傲慢さから時に奇跡を起こす

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「はっ!ここが異世界か!」

 早い、ものすごく早い転生だ。しかし、頭がぼーっとするようや寝ぼけた感覚もある。もしかしたら少しの時間を寝ていたのかもしれない。
 俺は寝ていた状態から少しずつ体を起こした。

 すると目の前に現れた世界は広い大草原にポツンポツンと何本か生える木。そして、ポツンと生える木の下にいる俺だ。気候は春くらいのとても過ごしやすい気候。この場所はすごく良い気分になる。体調面もかなり良い、肩が軽い体が変わったからだろうか。肩だけじゃなく基本的に全身が軽いな。

 転生の影響か?新品になったみたいだ。
 草原も明るくて終わりが見えない凄い広いな、それに、平坦だから街が見える。そして、その街の奥には森かな?山もある気がする。

 すごく大きな街に見える、街を囲むようにして所々に見られる外壁もかなり立派な物だ。5メートル近くはあるんじゃないか?
 その城壁にも似た壁の上に3人ほど人らしいものが見える、遠くてよく見なかったし推測でしかないが監視塔の代わりにもなっているのかもしれない。

 それにしてはかなり数が多い気もするが。まあ、何かしらの理由があるのだろう。
 それにしても転生に成功したがなんだか呆気ないな。

「グラヴィティダウン!」

 なーんて、詠唱したって効果が現れるはずが無い。何せゲームとこの世界の関連性は皆無に近い。
 そう思った瞬間だった。

「ズゴゴゴゴゴゴゴゴ」

 地表が沈み始め物凄い重力が生まれる。
 ゲーム内である程度効果範囲は分かっていたが明らかにAR世界と違って入ってくる視覚や聴覚、あらゆる感覚の情報量が桁違いだ。
 グラグラと地面が揺れる感覚、木がメキメキときしむ音に地面が沈み込む轟音、重力に自らも押される感覚。それが30秒間続きやっと収まる。

「だめだ、ふらふらする。それに鼻血も出てきた」

 理由は分からないが直結した出来事で考えるなら魔力不足からくる物だろう。詳しく調べなければわからないが感覚で分かる、これ以上の魔法詠唱は危険だ。
 そう思った瞬間だった、一瞬で魔力が回復したのである。

「どうなってるんだ?一瞬死にかけたのに回復した?」

 理屈が分からずに戸惑う、これがチート能力なのか?スキルなのか?それともシンプルにレベルアップしただけなのか?理解出来ない。
 グラヴィティダウンの効果範囲はかなり広大だ、街の外に向けて放ったが1km近くは沈んでる。
 お陰で兵士が慌ててるのも分かる。
 ここにいてバレたら不味い、とにかく離れた方が良さそうだ。ショウゴはそう考えて移動を開始した。

「あまり魔法は無闇矢鱈と撃たない方が良さそうだな、魔力切れも怖いし一番まずいのは人に注目される所だ」

 この世界に来て数時間しかたっていないショウゴにとって分かっている事はかなり少ない。
 一つ目は魔法が使えて、魔力の概念も存在する。
 二つ目は何かしらMW3rdの世界と同じ、または近しい世界である可能性が自分が魔法を発動出来る所を見るとかなり高いということが分かる。
 三つ目はモンスターも存在する点だ、先程のグラヴィティダウンで大量死を遂げていたがスライムやイノシシっぽい魔獣などの雑魚モンスターの死体があった。

 仮説しか立てられないのが現状だが複数の仮説を立てることによって予想の範囲をショウゴは狭める事とした。本来は視野を狭める事は可能性を考慮しない為に策としては愚行に近いが今回に限ると別だ。

 あまりにも情報量が多すぎる。動物、モンスター、生活レベル、服、食べ物、建築物、思想、文化、言語、人種、魔法、その他もろもろの存在、元の世界の存在、現在の世界の存在、神の発言。

 ショウゴは女神がこの世界を救えと言ったことを思い出す。
 ならばこの世界はこれから危機が訪れるか、もう危機的状況下に陥っているかもしれない。
 でも、長閑な光景を見ると危機的状況に陥っている様には見えない。
 とりあえず目の前の街に行って適当に情報集めてその後は出たとこ勝負だな。

 あの街で餓死しないように地べた這いずり回って耐えなきゃ。
 死んだ直後は頭が混乱しすぎで絶望しか感じなかったが今はそうでもない。
 街が近いという点から明らかにラッキーなポジションで転生している、平野の真ん中だったら確実に死んでいただろう。

 平野にいるけれど街が近いのもあってか遠くに人影が見える、どうやら1人らしい。
 良い所に人がいる、手でも振ってみるか。

「おーい!そこの君!ちょっと助けてくれないか?」

 かなり大きめの声で呼んだ結果、声が届いたのかこちらに気づくような素振りを見せた。反応ありだな、こっちに向かってくる。

「おいアンタ!ちょっと困ってるんだよ金貸してくれない?」

 こちらに来るまで何秒か待っていると、先程手を振った何者かがいきなり困っていると話を持ちかけてきた。向かってきたと思ったらいきなりカツアゲか。

 かなり面倒だ、盗賊かなにかか?フードも被ってて顔が見えない、犯罪行為に慣れてたりでもするのかな?こう言うのって最悪の場合は金持ってないからボコボコにされて身売りに出されるんだろうな。

 しかし、相手は小柄だ中学生くらいにしか見えない。油断はできないが何とか逃げることくらいなら出来そうだ。

「悪いが金を持ってるように見えるか?」
「すごくお金を持ってそうに見えるけど」
「実は無一文でお金を貸して欲しいくらいなんだけど」

 はぐらかすように言っているが事実である。転生後の世界の通貨など持ち合わせていない。

 奪われる物があるとすれば服と靴ぐらいだろう。それ以外は本当に何も持っていない。

「そんな高級そうな厳ついローブ着てて何が金持ってないだ?こんな時間から昼寝してるしふざけんなよ!」

 語勢を強めて言い返される、この盗賊が返した言葉は確かし正解だ。
 ローブに関しては全く知識がないがお金が無いのに昼間から寝ているのは明らかにおかしい。
 ここで昼寝している所を見ていたということは明らかに相手は俺を計画的に狙っていたようだ。

 自己に対する情報不足でしくじってしまった、いや、当たり前の結果だ。こうなる事はこいつの最初の発言からして予想出来たはず、しかし、結果的に見れば必然的に出来上がった状況が今の状態か。
 俺が突然この盗賊から猛ダッシュで逃げなければコンタクトは避けられなかっただろう。

 どうするか。適当に誤魔化すか。

「お前がどんな理由で金が必要なのか知らんが、お前みたいな輩に金を貸す義理もないだろう?」
「何だとてめぇ!早く金出せって言ってんだよ!」

 ビビるな俺!耐えろ相手は中学生くらいのガキだぞ!
 喧嘩したこともないぬくぬく育ちの俺からしてみればこれでもちょっと足がガタついてる。
 ・・・・・・はずだったのだが以外とそんなに怖くない。というか本音はガタガタと震えたいはずなんだけど体が許してくれていない。

「お前に出す金は無いってさっきから言ってんだろ!」
「早く出してよ!こっちはお金に困ってるの!」

 語勢が強くなるとなんだかオカマっぽく見える。なんだコイツ?もしかして女・・・・・・そんな訳ないか。もし女だったとしても相手は見上げるくらいの相手に対してこの態度はなかなか根性ある奴だ。
 もしかして勝てる根拠があるからか?魔法?とか使ってくるのかな?

「なぜお前のような碌でもない奴にびびるひつようがある!」

 よし今回のは上手いこと決まった!これで相手も少し引き下がるのでは?

「撤回しろ!碌でもないと言う言葉を撤回しろ!」

 失敗だ逆上してしまった。
 フードをかぶった野郎がイチャモンをつけて拳を振り上げた。
 不味い、このままじゃ殴られる!

「おいおい落ち着けっておわっ!」

 間一髪で避けれただが次の蹴りは避けれない・・・・・・んん?
 この蹴りは恐らく早い蹴りだ。
 それに死角から飛び込んで来るようだ。しかし、蹴りに対応できる何故だ?

「チッ、避けんなよ」

 フードをかぶった盗賊はイラついているのか舌打ちをした。
 自分でも驚いたがあの蹴りは普通なら避けれるものでは無い、しかし、俺は蹴りをかわした。
 なぜだか理由は分からない、だけれど何か自分の能力でかわしているのは理解できる。

 クソもやしニートだった頃に比べてこの体は動きが早すぎて自分の思考がついてこないのか?
 自分で避けた気はするが勝手に避けたのも正しい。
 しかし、今わかったこの力だけではこの盗賊に対抗する決定打を持っていない状況に変わりはない。

「くっそ!くっそ!避けないでさっさとくらえよ!」

 全く蹴りが当たらない、当たる気配がしない。
 ここまで来ると簡単だ先程必要と考えていた決定打なんていらない避け続ければいいんだ。そうすればすぐにでもチャンスが来る。

「ハハハ、自分から攻撃に当たりに行くバカを今まで見た事あるのか?」

 冗談をいうと相手がイライラしてきたのか何発もハイキックをかまそうとする。
 何発も高速で蹴り続けているのに未だに疲れる気配を見せないこいつは中々に凄いと思う。

「ウザイウザイウザイウザイ!」
「ウザイって言われ慣れてるから耳がなれて聞こえないな」

 小学生のようなしょうもない口喧嘩をする。
 まだ喋れる余裕があるらしい、こいつのスタミナは無限か?

「ウザイって言ってんの!早くくたばれぇ!」

 しかも、罵声を言う余裕まである。何だか思っていたより苦戦しそうだな。

「全く当たる気配がしないぞ?」
「仕方ない、こうなったら魔法を使うしかないか。魔法詠唱ブーステッドギア」

 遂に魔法での戦闘が始まるのか。俺はこいつに対抗できるのかな?
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