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第4話「君のユメを飛び越えて。」

向き合う心。

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 目覚めた俺の瞳に映ったのはいつもの見慣れた自分の部屋の薄黄色の天井だった。
 俺は起き上がると深く息を吐き出す。

「春弥を、探さなきゃ…」

 だけれど、俺は春弥のことを何も知らない。
どこに住んでいるのかも、どんな人間なのかも、何も知らないのだ。
 探すにしても手がかりなんかなくて、なんで今まで春弥のことを何一つ聞いてこなかったのかと後悔した。

 後悔した、矢先だった。

 手の中に何かを握りしめていることに気づいた。
 その手のひらを眼前で開いてみると握りしめていたのは校章の入ったバッジだった。
 校章のバッジには三重の花柄の真ん中に髙という文字が入っていて、その花柄をひし形が囲うようにある。

 見たことのない模様なのでこの辺の学校ではないことはわかった。

 だけど、この校章を頼りに、春弥のことを探すことが出来ることに絶望していた気持ちが一気に救われた気がした。
 きっと春弥が見つけてほしいって意味で最後の最後で渡してくれたのだろう。

 俺は急いで布団から出て私服に着替えカバンを準備する。
 今日は運良く学校が休みの日だった。
 バタバタと階段を降りて洗面台で顔を洗って歯磨きをして居間に入るとちょうど居間には親父がいた。

「おはよう、凛空」

「あ…お、はよ…」

 会話をするのは、久しぶりだった。
 自分の父親なのに妙に緊張してしまって手に汗が滲む。

 だけど、今日は大丈夫。

 手の中には春弥から渡された校章のバッジがあって『頑張れ』と応援してくれているような気がした。

「あの、さ…そのっ」

 必死に言葉を紡ごうとする俺に親父は首を傾げながらも黙って次の言葉を待ってくれた。
 一度大きく深呼吸をしてから親父の目を見ながらはっきりと告げる。

「今日、帰ってきたら…ご飯一緒に食べよう。俺、父さんが帰ってくるまで待ってる。父さんに話したいことがたくさんあるんだ」

「凛空…」

 こんなこと、親父に言うのは初めてだった。
 困らせないように迷惑をかけないように必死に気持ちを押し殺して接していたから。
 でも、俺から変わらなければいけない。

 春弥と一緒にいるためにももっとしっかりした大人になりたい。
 なら、俺は俺の人生と向き合わなければいけないのだ。

 親父は少し驚いた顔をしてからふっと微笑むと深く頷いた。

「そうだな。俺も今日は早めに仕事を切り上げられるようにする。一緒に飯を食おうか。その時にでも今まで話せなかったことをたくさん話そう」

 その言葉だけでこんな歳にもなって胸の奥が熱くなった。

「うん。俺、ちょっと出かけてくる。朝ごはんは買って食べるからいらない」

 そう一言残してからさっさと玄関に向かって靴を履いて外へ出る。
 途中にあるコンビニでおにぎりを2つとお茶を一本買ってからそれを急いで食べてから先を急ぐ。

 校章について聞くなら学校に行ってみるのが一番早いかと思った。
 うちの学校にそれに詳しそうな先生がいてその人に何か聞けばわかるかもしれない。

 学校につくと急いで職員室に向かう。

「鳥山先生はいますか?」

 ちょうど職員室から出てきた先生にそう尋ねると鳥山先生を呼んできてくれた。

「飛鳥じゃないか。こんな休みの日にどうした?」

 鳥山とりやま鈴矢すずや先生。
 この学校で唯一俺が親しく話せる先生だった。
 親しくなったときに色々な学校を転々としているということを聞いたことがあったのだ。

「学校が休みの日にいきなりすみません。えっと、先生ってこの校章って見たことありますか?」

 俺はズボンのポケットに入れておいた校章のバッジを見せる。
 その校章を見て鳥山先生は考え込みながら手で顎を撫でる。

「うーん…」

(…やっぱり、鳥山先生でもわかんないかな…。もう、他に頼れる人なんていないのに…)

「あ…、もしかしたら…飛鳥、ちょっとここで待っててくれ」

 鳥山先生ははっと顔を上げて俺にここで待つように言うと自分のデスクに行き引き出しを開けて中を漁ってから何かを見つけたのかそれを持って戻ってくる。

「うん、間違いない。うちの妻がね、そこの学校の卒業生なんだよ。どこかで見覚えがあると思ってたらほら」

 鳥山先生は俺に手に持っていたアルバムを手渡してきた。
 その表紙に確かに春弥から渡された校章のバッジの模様が刻まれていた。

(良かった!本当にあったんだ!)

「あの、この学校って何処にあるんですか?」

「何処って隣街だぞ?知らないのか、菫ヶ丘すみれがおか高校」

 菫ヶ丘高校なら、確かに名前を聞いたことがあった。
 私立高で頭がいいやつが通う学校という噂だけは知っているが、校章までは知らなかった。

 まさかそんなに近くに春弥がいるなんて思わなかった。
 もしかして、俺が春弥の夢に入れたのは距離もあったのか?

「それで、なんで飛鳥は菫ヶ丘の校章バッジを持ってるんだ?」

「あ…それは……」

「…まぁ、飛鳥なりに何かあるんだろうな。とりあえず菫ヶ丘高校に行きたいならバスで行くのが一番だぞ。丁度学校前まで出てるバスがあったはずだからな」

「ありがとうございます!俺、行ってきます!」

 鳥山先生の「気ぃ付けて行けよ~」というのんびりした声に見送られながら俺はスマホを取り出して菫ヶ丘高校まで出ているバスを探す。
 丁度近いバス停に後15分くらいで来るようだった。
 少しスピードを上げてバス停まで走る。

 こんなに走ったのはいつぶりだろうか。
 今はただ、早く春弥に逢いたかった。
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