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第3話「終わるユメと君と。」

君の事情。

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「え?何が?俺は、嬉しい。春弥のこと、好き…だから。嬉しいし、そんな俺の気持ちに答えようとしてくれたことも謝ることじゃないだろ」

「…ごめん」

 そう言っても謝ることをやめない春弥に違和感を覚える。
 いや、態度もだがいつもとは違う違和感もあって。
 俺はその違和感に、ようやく気づいた。

 春弥の体が少しだけ波打つように歪んでいた。
 今までこんなことはなかったし、何が起きているのかわからず俺は春弥の手を握った。

「なんで…」

「もう、凜空には会えない」

「え…」

(会えない?)

 何を言っているのかわからず俺は混乱した頭で必死に理由を探す。
 何か、してしまったのだろうか。
 それともさっきのキスが原因なのだろうか。

「もう、二度と、会えない。ごめん」

「理由も言わずにそんなんで納得できるかよっ!なんだよ、会えないって!」

「ごめん」

「ごめんじゃわかんねぇって!」

 俺は春弥の肩を掴む。
 その肩が僅かに震えているのがわかった。
 そして春弥が静かに涙を流していることも。

 俺はそんな春弥の様子に戸惑ってしまい掴んだ肩をそっと離す。
 春弥は自分の体を掻き抱くように抱きしめてからボソリと聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。

「ここはね、僕の夢の中なんだ」

「え?春弥、の…?」

 春弥の夢の中?
 どういうことなんだ?

 てっきり俺は自分の夢で春弥は俺の夢の中の住人なのだと思っていた。
 だから、勢野春弥という人物自体も現実にはいないものなのだと考えていたのだ。
 そうじゃなければ、なぜ俺はいつも春弥の夢の中に入ることが出来たんだ?

「現実の僕は、病気で体が弱くて学校にも行けなくて、いつも病室から窓の外を眺めているだけだったんだ。学校に行きたいって思ってた時に、いつの間にかこの夢の中にいた。最初は姿もなかったんだけど少しずつ現実の僕の姿が出来てきていつの間にかちゃんと体を持てるようになった。きっと、夢の中だけでも学校に行きたかったんだと思う。でも、学校がどんな場所なのかなんてわからなかったから自分の体を再現できても人を再現することは出来なかったんだ」

 春弥はぽつりぽつりと自分のことについて話し始める。
 確かに病人と言われれば納得がいく。
 俺自身も初めて春弥を見たときにそういう印象を抱いたことを覚えているから。

「でも、いつからか凛空がここにいた。なんで凛空がここに来たのか僕には正確な理由はわからないけど、凛空も現実から逃げたいって思っていたんじゃないかなって思ってる」

「俺は…」

 現実から逃げたい、とは違うかもしれないが、現実がつまらないと思っていたのは本当だ。
 生きていたって何もいいことなんてないと思っていた。

 この夢を見始める前はただ生きているだけの生活で味気なくて、どこか物足りなくて、もっと自分を見てくれる人がいたらいいのに、と思っていたことが多い。
 でも、現実なんてみんな上辺だけで笑っていて、むしろ現実の方が夢であればいいのになんて考えていたほどだった。

 だから、ここに来れたのかもしれないし、本当のところは俺にもきっと春弥にもわからない。

「だからって、なんで会えないってことになるんだよ…」

 どのみち春弥が現実にいるなら、余計に会えないという言葉の意味がわからなかった。
 春弥が夢を見ればここに来れる。
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