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「あのさ、レイ」

レイが仕事を終えたタイミングで声をかける。

「なんだ?」
「その、レイも来るの?……発情期」

レイが目を見開く。
やっぱり聞かない方が良かったかな?
気まずくてレイと目を合わせられない。

「……私は、今は来ていない」
「え?」

"今は"来ていない?

「何年か前までは来てたのだが、最近は来ないんだ。所謂、発情期不順だな」

それって、良くないんじゃ……。

「来なくて平気なの?」
「そうだな、そこまで大した問題はない。むしろ、発情期が来るとソワソワとして仕事に集中出来ないからな、来ない方が何かと快適だ」
「そう、なんだ……」

レイが問題無いって言うならそれでいい、のか、?

「それより、誰から発情期の事を聞いたんだ?」

ギクッ!

「あー、えーと、団員たちが話してたのをたまたま聞いちゃって」

ちょっと口篭くちごもっちゃったけど何とか誤魔化せた、かな?
レイの方をチラッと見るが、しかめっ面だ。
これは、納得してないってことだよね。
でも、ロジャーの名前を出すわけにもいかないし……。

「…っレイ!変な事聞いてごめんね!そろそろ帰ろ!!」

俺は無理矢理この話を終わらせようとする。

「……あぁ」

渋々といったようにレイが帰る準備を始めてくれたので、俺は胸を撫で下ろした。



屋敷に着いた後、ジョンさんにこっそり発情期不順について聞いた。
レイはああ言ってたけど、やっぱり発情期が来ないことが問題ないとは思えなかった。

「そうですね……当たり前の事かとは思いますが、番になることが出来ませんね。」
「つがい?」
「えぇ、人間で言うところの結婚、の様なものでしょうか」

古い文献で読みましたと、ジョンさんが言う。

「発情期不順だと結婚出来ない、番になれない……」
「ええ。それと、"運命の番"を認識することが出来なくなります」
「運命の番?」
「はい、簡単に言えば相性抜群の相手のことです。この場合は雄同士、雌同士でも番になることが出来ます。運命の番はお互いが発情期じゃないと認識できないと言われていますので、発情期が来ないということはそういうことなのです。……まぁ、運命の番に出会える事は稀ですので、重要視しない獣人も多いと思いますが」
「そう、なんだ」
「発情期不順は専門機関にかかれば治療することも可能です。しかし、番を望まないのであれば、わざわざ治療をする必要は無いですね」

……てことは、番も運命の番もレイは望んでないってこと、だよな?
大した問題じゃないって言ってたし。

「そっかぁ……」

胸の奥を風が通り抜けるような感覚がする。
俺は息が詰まるようなこの感覚を知っている。
21年間生きていれば、恋の一つや二つしたこともある。
それに、失恋も……。

俺、レイの事そういう意味で好きだったんだ……。
気付くと同時に失恋なんて、今までしてきた恋の中で一番惨めだなぁ。

「ナオ様?」

俯いてしまった俺を心配してジョンさんが覗き込んでくる。
今、ジョンさんと目を合わせたら泣いてしまいそうだ。
俺はニコッと笑って顔を上げると、薄目でジョンさんを見た。

「ジョンさん、色々教えてくれてありがとう。俺、そろそろ部屋に戻るよ」

それだけ言うと、俺は足早に階段を上がり部屋へと戻った。
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