裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

文字の大きさ
上 下
16 / 59

販売会

しおりを挟む



 免許の交付を受けたら、全国の業者が集まる販売会に三人で向かった。
 相原はなにやら電話で今日の講習会の様子を誰かに話している。
 チーム全員に免許の交付を受けさせるというようなことを言っているから、様子見のつもりで来ていたのだろう。

 あれだけ目立った後だから、即売会の会場を歩いているだけで、色々な人から声をかけられる。
 有坂さんは東京勢の中で一、二を争う実力者であるが、ソロかつ誰とも関わらないようにやってきたから顔見知りはいないそうだ。

 滋賀県や熊本県にあるダンジョンにも実力者はいるだろうが、そっちは大阪の講習会に出ていて、ここに居る可能性は少ない。
 そんなことを有坂さんと話していたら、村上さんを見つけた。

「講習会に出てきたんですね。今日は私も稼ぐつもりで来ましたよ。しばらくはレベル持ちの講習会に張り付いて、こっちで商売します。なにか売り物はありませんか、伊藤さん」

 俺は売るつもりで持ってきたレイピア3本を村上さんに売ることにした。
 考えてみたら、俺がこの場でこれ以上目立つことをやるべきではない。
 アンデットダンジョンのドロップも、自分が持っているところを、あまり周りに見せたくはない。

 周りに見えないようにして、レイピア3本を村上さんに渡す。
 細身で重すぎないレイピアに、村上さんは笑顔になった。
 売れると思ったのだろう。

 しかしリーチの短い武器の扱いはさらに悪くなっている。
 それでも今なら売れないこともないだろう。
 客の数だって、この公園内に数千人はいるんじゃないかというレベルだ。
 俺は村上さんからお金を受け取った。

 相原はスキルストーンを売ってる店の前で、足を止めている。
 こんなところでは買わないと言っていたくせに悩んでいるようだ。
 買うか悩んでいるのは俊足スキルである。

 金色ではなく銀色の石だ。
 銀とは言え、こういったスキルストーンはべらぼうに高い。
 悩めるという事は、買えるだけ稼いでいるのだろう。

 俺では全く手が出ない価格である。
 色々と流し見てみたが、良さそうなもので俺に買えそうなものはない。
 チームの勧誘もいたるところで行われているが、俺も有坂さんも迂闊には入れないため様子見しかできなかった。

「こうなったら、自分たちで作るというのはどうかな。伊藤君が作れば人は集まるよね」

「ダメダメダメ、ダメですよそんなの。そんなね、なんの後ろ盾にもならない弱小チームが、いったい何になるんですか。いざというとき頼れるのは数なんですよ。数!」

 相原は何としても俺たちを自分の所に入れたいらしい。
 しかし、相原がトップじゃ、入ったところで足手まといにしかならないのは間違いない。
 俺たちは赤ツメトロの京野たちが出店している店の前を通りかかった。

 ちょっとした騒ぎになって、京野はチーム員に俺のことを紹介してくれる。
 紹介された女性は綺麗どころばかりで、ここに入りたくなってくる。
 しかし、男を入れる気はないらしく、勧誘はなかった。

 それにしても何か買おうと思ってきたのに、高すぎて手が出ない。
 熊本で出たという良さそうなサーベルがあったのだが、なぜか500万もする。
 需要はなくとも売り手が値段を下げなければ、そんな値段になるのだ。

「はあ、アイテムも高いし、勧誘してるチームがどんな実績なのかさっぱりわかりませんね」

「いくら何でも金なさすぎるでしょ、伊藤さん。コブリンの奥にいるガーゴイルくらい倒してるんなら、革と心臓で稼いでるはずでしょ。ガーゴイルの黒革と黒鉄の矢だけでもかなり稼げますよ。まさかレッドクリスタルの買い占めとか、マジでやってるんですか」

 生憎と俺が今現在やってる場所は、クリスタル以外がレアドロップのようなところだ。
 それも、日本ではドロップが確認されていないマナクリスタルがほとんどである。

「いや、買い占めなんかやってないよ。それをやってるのは自衛隊だって噂だ。その割りに今日の講習会に強そうな人は見なかったな」
「自衛隊が買い占めたのなら、研究や治療目的なんじゃないのかね。希少なクリスタルをレベル上げに使ったとは考えにくいよ」

 確かに有坂さんの言う通りである。
 所詮は噂話ということだろうか。

「まあ、僕らくらいしかガーゴイルなんてやってられませんからね。マジックシールドのレベルが20はないと、火炎を防げないんですから」
「マジックシールドが20って凄いな。それしか使ってないレベルじゃないか」

「ええ、それしか使ってませんでしたよ。我々の中にそれだけを極めた者がいて、残り全員で魔弾か魔法を放ちます」
「魔弾のレベルは?」
「僕は22ですね。ちなみに伊藤さんはいくつですか」
「俺は13しかない」

「さすがバブリーな魔法持ちは違いますね。僕らはアイスダガーさえ最近になって手に入れたんですよ。普通はそれくらい大変なんです。ちなみに魔弾も20超えたあたりで敵に風穴が空くようになりました」
「すごいね。アイスダガーより強いんじゃないのかい」
「いやいや、それを有坂さんに言われると嫌味にしか聞こえませんよ。マジックアローのがよっぽど強いでしょ」
「だけど魔法は、自分がレベルアップしないと威力が成長しないからね」

 よくよく話を聞いてみれば、魔弾で穴が開くのはガーゴイルの羽の部分だけで、そもそもマジックアローなら胴体に穴が開くそうだ。
 そしてアイスダガーでは、なかなか致命傷といえるところまでは刺さらない。
 敵はファイアーボールを使ってくるそうだが、たぶん骸骨くらいの強さだと思われる。

 俺も魔弾を成長させることは考えたが、使いまくってもその程度なら、やはり魔法を選んでよかったと言えるだろう。
 コストがないとはいえ、ダメージ効率が悪すぎる。

「だけどさ、それだとマジックシールドを最大で展開しなきゃならないだろ。かなりマナを使うんじゃないか。自分だけ霊力が上がらないって不満は出てこないのか」
「出てきますよ。でもそれは回復魔法も一緒だし、他の魔法も一緒ですよね」

 相原の言い草を聞いていると、そもそも霊力を必要とするような戦い方をしていないから、魔力のステータスくらいしか気にしていないような感じである。
 つまり霊力と魔装に頼って戦う前衛と、魔力に頼って戦う後衛があるはずなのに、後衛だけで戦っているような感じだ。

「なるほどな。それで最近は霊力を上げるために、槍で倒そうって話になってるのか」
「そうですね。それよりアイスランスを見せてはもらえないですかねえ。僕の魔弾とどう違うのか確認させてください」
「ここでかよ。無理言わないでくれ」
「じゃあ三人でガーゴイルを倒しに行きませんか。黒革が出たら伊藤さんにあげますよ」

 面白そうだと思って、俺はその提案に乗った。
 徒歩15分ほどでダンジョンに着いた。
 まず最初の印象として、東京のダンジョンは非常に明るかった。

 壁が薄く緑に発光しているため、全体的に視界が非常に良い。
 しかし、さながら観光地のような賑わいに辟易する。
 今日から解禁されたわけだから、こうなるのは仕方ない。

 そんな中、相原は自信のある足取りで、俺たちを先導しつつどんどん歩いていく。
 有坂さんも慣れた様子で、手探りな感じは全くない。
 東京のダンジョンはどこも似たようなものなのだろう。

 それにしても、東京のダンジョンは地下空間が広すぎる。
 ほぼ360度に広がっていて、複雑に入り組んでいる。
 これでは何を頼りに戻ってきたらいいのかわからない。

 しばらく歩くと、コブリンが現れた。
 そのゴブリンは相原が魔弾で転ばせると、まずは僕の魔法を見せようと有坂さんが言って、トリプルマジックアローを放った。
 魔法の光線がうねりながら突進して、ゴブリンに三つの穴を空ける。

「やはり、我がチームにも、その魔法が欲しいですね」
「マナの消費が多いから、それほど優れているわけでもないよ」
「次は伊藤さんが倒してくださいよ」

 ご要望通り、次のゴブリンは俺がナイフで首を狩った。
 いくらなんでも、この辺りの奴に魔法を使うのはもったいない。

「まあ、そういう倒し方もありますよね」
「ガーゴイルはいつ出てくるんだ」
「もうすぐですよ。でもガーゴイルまでやるんですか。危なくないですかね」

 さすがレベル21の体さばきだと、二人は俺の動きを褒めてくれた。
 俺としては歩いて近寄りナイフを振っただけである。
 しばらく歩くと、下へと続く階段があった。

 降りたら、さっそくファイアーボールが飛んできた。
 それを相原がかなり大きなマジックシールドで見事に防いで見せてくれる。
 そして俺はアイスランスをガーゴイルに向けて放った。

「流石の威力だ。僕のマジックアローよりも威力があるように見えるね」
「レベルの恩恵でしょう」
「あー、こんな魔法があれば、二人のレベルにも納得ですよ」

 まるで魔法を手に入れたことが全てのような言い草だが、最近の体たらくではそう言われても仕方ない。
 そして、二匹目のガーゴイルは、俺がアイスダガー二発で倒す。
 魔力の恩恵で、相原よりも三倍は威力がでていた。

「ここも人が多いな。いつもは相原たち以外いないんじゃなかったのか」
「そうなんですけどねえ」
「きっと、人が多すぎて、いつもはゴブリン狩りをしていた人たちが、こっちに来てるんじゃないかな。それよりも、これ以上奥に行くとレックスが出てくるよ」

 俺は戦ってみたいとわがままを言って、ティラノサウルスを小さくしたようなモンスターが出てくるという奥へと二人を誘った。
 生息域に入ると、有坂さんは崖を上り、相原は俺から離れる。

 レックスは巨大なアゴを武器に、こちらにわらわらと寄ってきた。
 俺は1匹目にアイスランス、2匹目と3匹目は一太刀で首を飛ばす。
 そして4匹目を蹴飛ばして、その後ろからやってきた5匹目にぶち当てた。

 バランスを立て直すうちに、有坂さんが一匹を魔法で葬り去る。
 そして、ラスト一匹となったレックスは、相原の魔弾にバランスを崩したところで俺に斬り倒された。
 強さとしてはハイゴブリンの方が、よっぽど手ごわいと言ったところだろうか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...