あなたを瞳にうつす

色無 音恋

文字の大きさ
上 下
5 / 11

5 __直登side__

しおりを挟む
 クラスでよく見かける彼女は、よく笑っていたと思う。

 友人達と一緒に何かを話しながら、楽しそうに毎日を過ごしている。


「歩都里~、これご馳走さま!とっても美味しかったよ~!!」


「ホント?あんまり自信がなかったんだけど。」


「何いってんの?これはお店を出せるレベルで美味しいしからね?自覚して?」


「そう?」


「そうだよ!」


 彼女___歩都里さんはいつもいつも、女子たちに囲まれていた。


「おい、何見てんだー?」


 隣の席に腰を下ろした友人が不思議そうにこちらを見る。


「いや、特に何も無い。」


「えー?そんなことなさそーなんだけど。」


「…うるさいぞ。」


「うわぁ…直登が怒るのって珍しー。」



 何を言っても聞かないのだろう。
 俺はなにかと喋りかけてくる友人たちを無視して、こっそりと彼女をながら盗み見た。


 ……正直、とても可愛いと思う。


 でも、そんな事を言うのは柄じゃない。
 何より俺が異性を気にしていると他のやつに知られたらとても面倒だ。


「つーか、歩都里ちゃんってまじ可愛いよね~?」
 

「お菓子作れて、女子たちに好かれてて~人が良いし。」


「俺さ、1回だけクッキー食べさせてもらったことあるんだけど…。」


「は!?あの歩都里ちゃんに!?」


「バカ!ちげーよ!…クッキーを貰った子から1枚だけってお願いしたんだよ。そん時に食べたの。分かった?」


「へいへーい。」


 黙ってじっと友人たちの会話を聞く。
 …少し羨ましいと思ったのは、内緒だ。


「でね~…ちょーーーーーーー………美味かったんだよ。売り物みてーに。」


「うわ!羨ましい~!!マジずりぃと思うわ~。」



 俺だって食べてみたい。
 そう考えると、1枚でもクッキーを食べた事のある友人が恨めかしいと感じた。


 いつも笑顔で時には静かに微笑み…表に立つようなことをせず誰かの後ろにいる姿は俺には好ましく映った。


 泣いている友人の傍にいてあげる優しさに惹かれた。


 気分の悪い友人を背負い、廊下を駆け抜けた姿に興味を持った。


 普通はそこまでしないだろう。
 良くて「保健室に一緒に行こうか?」や本当にダメそうなら「先生を呼んでくる!」とお手本のような行動をするだろう。


 彼女は、そんな事をしなかった。


 自分が動けるのなら自分でいち早く保健室へと運ぶ、という意志の強さを持っていた。



「歩都里、重かったでしょ?…ごめんね。」


「何言ってるの?重くなかったし、体調が悪かったなら頼っていいの。“ごめん”っていう言葉より“ありがとう”って言われるのが嬉しいな。」


「…ありがとう!!」



 心の底からこんなに綺麗な人は居るのだろうか?と思った。
 そんなカッコイイ事を平気でするから、彼女のファンはどんどん増えてゆく。

 彼女は知らないだろう。

 校内では有名人で、年下の後輩達からは尊敬の眼差しを向けられ、同級生や先輩からはとても可愛がられている_____という事なんて。



「歩都里さんって、いい人だよな…。」



 ポツリ…。
 上の空で言った事だった。



「だよな!!」


「なんだなんだ?直登もついに!!歩都里ちゃんの良さが分かったかー?」


 すぐ騒ぎ立てる友人に蹴りをかます。


「いってぇーーー!!!」


 足を抑えながら悶絶する友人へと「ざまぁ。」なんて言う言葉を贈る。


「くそー!!覚えていやがれ~!!」


 まるで三下の悪役のようなセリフに笑いが出てきた。


 今日も彼女は笑顔だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった

ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。 その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。 欲情が刺激された主人公は…

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

JC💋フェラ

山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

処理中です...