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第7章
第310話 隣の部屋のお泊まり会① クライスSIDE
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キルナがリリー、テアとお泊まり会をしたいというので、今日はロイルとギアの部屋に泊まることになった。
彼らの部屋に入ると、体を鍛えるための無骨な魔道具が床に置かれ、壁際にギアのものであろう数本の剣が立てかけられ、ベッドの上に大量のエロ本が重ねてあり(間違いなくロイルのものだろう)、なんとも懐かしい男臭さを感じる。
寮生活が始まるまで王宮ではこいつらと過ごしていたんだからこんな光景には慣れているはずなのに、清潔感に溢れそこはかとない甘さの漂ういつもの空間と比べてしまう。
(キルナの飾った花が、もこもこうさぎのルームウェアが、刺繍された美しいハンカチがない。ここには癒しが足りない……)
ついつい眉を顰めてしまった。
「キルナ様の前ではにっこり笑って、ゆっくり友達と過ごせ~なんておっしゃってたくせに、もう後悔してるんですか?」
すぐに表情を戻したはずだったが、人の表情を読むのが上手いロイルにすかさず突っ込まれた。
「別に…後悔なんてしていない」
「キルナ様、ますます美しくなってますもんね。心配なのはわかります。もともと壮絶な色気のある方でしたがより色っぽくなっていましたし? もしやついに?」
ニヤニヤしながら聞いてくるロイルを無視して中に入っていくと、筋トレ中だったギアが寄ってきた。
「わかります! キルナ様から離れてお寂しいんですよね。俺でよければ話相手になりますよ」
「すまない。急に泊まることになって、二人には迷惑をかけるな」
「そんな。俺は嬉しいです。こんな風にゆっくり話ができるのも久しぶりですし!!」
「ええ、私もクライス様に話したいことがたくさんあるので楽しみです」
「そうだな」
4年以上経っているという実感はまだあまりないが、彼らの見た目は明らかに時間の経過を感じさせた。もともと逞しかったギアはますます筋肉質になり背が高くなり、ロイルは水色の髪を肩まで伸ばし、彼好みの相手を捕まえやすそうな優男風の容姿になっている。
彼らの変化した体を眺めていると、ギアが新品のバスタオルを渡してきた。
「俺たちは今から夕食の準備をしますので、その間に風呂に入ってきてください」
「ああ、わかった」
風呂から上がると、なにやら部屋いっぱいに食欲を唆る香りが漂っている。ロイルに促されてダイニングに向かうと、テーブルにはガッツリとした肉中心の料理が所狭しと並んでいた。
(そういえばこの二人は大食いだった。成長してもっと食べるようになったのかもしれない)
「豪華なディナーだな。いつもこんなに食べるのか?」
「いつもはここまでではありません。クライス様が泊まると聞いて、張り切ったギアがパレットタウンの人気店であれこれ買い込んできたんですよ」
ギアは流れるようなナイフ捌きで、素早くルルク鳥の丸焼きを切り分けていく。それをロイルが一人分ずつ丁寧に皿に盛り付けていった。
「どうぞ、クライス様」
「ありがとう」
「さあ、熱いうちに食べましょう」
そこからは全員食べるのに忙しくほぼ無言で食事が進んだ。(王宮でも訓練で体を動かし究極に腹が減っていた俺たちは、ある程度腹が満たされるまでは黙々と食事をするのが常だった)
(それにしてもすごい量だ)
丸焼きの鳥と厚切りステーキと骨つき肉と肉団子を一緒に食べるなんて。キルナが見たらさぞ驚くだろうな、と思いながらルルクの肉を口に運ぶ。
こんがりパリパリに焼けた皮と油が乗った柔らかい肉は想像以上にうまかった。骨つき肉はこってりとしたソースが絡みつきやみつきになる味だ。ステーキは、塩胡椒だけのシンプルな味付けで肉汁たっぷりの素材の味が楽しめた。
食べ切れるのかと疑問に思っていた量も、三人で食べはじめるとどんどん胃の中に収まっていき、みるみるうちに皿は空になっていく。腹が膨れ始めるとようやく会話が弾み出した。
「この肉団子、キノコの出汁が染みていてうまいな」
「お口に合ってよかったです! それは『マッシューのきのこ肉料理専門店』で買ってきたやつですね。パレットタウンには味も良くてボリュームのある料理がたくさんあるので助かります。こっちの骨つき肉はリージストの街出身のオーナーが経営している店で、よく買いに行くんです」
「あんまり毎日行くから店主に私たちの顔を覚えられちゃいましたね」
「今日もこの激辛骨つき肉をおまけしてくれたんですよ。新商品らしいです、食べてみましょう!」
ギアが紙袋から真っ赤な物体を取り出し、それぞれの皿に配っていく。危険な色をしているが、スパイシーな香りとこんがり焼けた肉の香りはこれぞ本場の味、と主張していてうまそうではある。
「かなり辛そうですが……せっかくですし、食べてみますか」
さすがのロイルも少し躊躇しているらしい。ギアは冒険心が抑えられない様子で骨つき肉を見つめている。
ごくりと唾を飲み込んで、3人同時に肉にかぶりついた。
彼らの部屋に入ると、体を鍛えるための無骨な魔道具が床に置かれ、壁際にギアのものであろう数本の剣が立てかけられ、ベッドの上に大量のエロ本が重ねてあり(間違いなくロイルのものだろう)、なんとも懐かしい男臭さを感じる。
寮生活が始まるまで王宮ではこいつらと過ごしていたんだからこんな光景には慣れているはずなのに、清潔感に溢れそこはかとない甘さの漂ういつもの空間と比べてしまう。
(キルナの飾った花が、もこもこうさぎのルームウェアが、刺繍された美しいハンカチがない。ここには癒しが足りない……)
ついつい眉を顰めてしまった。
「キルナ様の前ではにっこり笑って、ゆっくり友達と過ごせ~なんておっしゃってたくせに、もう後悔してるんですか?」
すぐに表情を戻したはずだったが、人の表情を読むのが上手いロイルにすかさず突っ込まれた。
「別に…後悔なんてしていない」
「キルナ様、ますます美しくなってますもんね。心配なのはわかります。もともと壮絶な色気のある方でしたがより色っぽくなっていましたし? もしやついに?」
ニヤニヤしながら聞いてくるロイルを無視して中に入っていくと、筋トレ中だったギアが寄ってきた。
「わかります! キルナ様から離れてお寂しいんですよね。俺でよければ話相手になりますよ」
「すまない。急に泊まることになって、二人には迷惑をかけるな」
「そんな。俺は嬉しいです。こんな風にゆっくり話ができるのも久しぶりですし!!」
「ええ、私もクライス様に話したいことがたくさんあるので楽しみです」
「そうだな」
4年以上経っているという実感はまだあまりないが、彼らの見た目は明らかに時間の経過を感じさせた。もともと逞しかったギアはますます筋肉質になり背が高くなり、ロイルは水色の髪を肩まで伸ばし、彼好みの相手を捕まえやすそうな優男風の容姿になっている。
彼らの変化した体を眺めていると、ギアが新品のバスタオルを渡してきた。
「俺たちは今から夕食の準備をしますので、その間に風呂に入ってきてください」
「ああ、わかった」
風呂から上がると、なにやら部屋いっぱいに食欲を唆る香りが漂っている。ロイルに促されてダイニングに向かうと、テーブルにはガッツリとした肉中心の料理が所狭しと並んでいた。
(そういえばこの二人は大食いだった。成長してもっと食べるようになったのかもしれない)
「豪華なディナーだな。いつもこんなに食べるのか?」
「いつもはここまでではありません。クライス様が泊まると聞いて、張り切ったギアがパレットタウンの人気店であれこれ買い込んできたんですよ」
ギアは流れるようなナイフ捌きで、素早くルルク鳥の丸焼きを切り分けていく。それをロイルが一人分ずつ丁寧に皿に盛り付けていった。
「どうぞ、クライス様」
「ありがとう」
「さあ、熱いうちに食べましょう」
そこからは全員食べるのに忙しくほぼ無言で食事が進んだ。(王宮でも訓練で体を動かし究極に腹が減っていた俺たちは、ある程度腹が満たされるまでは黙々と食事をするのが常だった)
(それにしてもすごい量だ)
丸焼きの鳥と厚切りステーキと骨つき肉と肉団子を一緒に食べるなんて。キルナが見たらさぞ驚くだろうな、と思いながらルルクの肉を口に運ぶ。
こんがりパリパリに焼けた皮と油が乗った柔らかい肉は想像以上にうまかった。骨つき肉はこってりとしたソースが絡みつきやみつきになる味だ。ステーキは、塩胡椒だけのシンプルな味付けで肉汁たっぷりの素材の味が楽しめた。
食べ切れるのかと疑問に思っていた量も、三人で食べはじめるとどんどん胃の中に収まっていき、みるみるうちに皿は空になっていく。腹が膨れ始めるとようやく会話が弾み出した。
「この肉団子、キノコの出汁が染みていてうまいな」
「お口に合ってよかったです! それは『マッシューのきのこ肉料理専門店』で買ってきたやつですね。パレットタウンには味も良くてボリュームのある料理がたくさんあるので助かります。こっちの骨つき肉はリージストの街出身のオーナーが経営している店で、よく買いに行くんです」
「あんまり毎日行くから店主に私たちの顔を覚えられちゃいましたね」
「今日もこの激辛骨つき肉をおまけしてくれたんですよ。新商品らしいです、食べてみましょう!」
ギアが紙袋から真っ赤な物体を取り出し、それぞれの皿に配っていく。危険な色をしているが、スパイシーな香りとこんがり焼けた肉の香りはこれぞ本場の味、と主張していてうまそうではある。
「かなり辛そうですが……せっかくですし、食べてみますか」
さすがのロイルも少し躊躇しているらしい。ギアは冒険心が抑えられない様子で骨つき肉を見つめている。
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