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第7章

第306話 パジャマパーティー②(ちょい※)

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「んっや、なにも…なかったよぉ……」

と最初はもにょもにょはぐらかそうとしていたけれど、この二人にそんな誤魔化しが通用するはずもなく。結局もうあの日湖であったことを再現するレベルまで話す羽目になった。当然妖精の世界だったことや僕が記憶喪失状態だったことは内緒にしたけれど、まぁそれ以外は全部バレた。

「へえ! メガネの方から迫ったとはね~」
「王子様のはやっぱり立派なんだぁ~見てみたいなぁ」

こんなに赤裸々な話をして僕は真っ赤になっているのに、二人はいたって普通だった。フェラはこうした方がもっと気持ちいいよとか、自分で乗っかる時(騎乗位というらしい)はこうした方が入れやすいよ、とか色々アドバイスをくれたけれど、半分魂が抜け落ちていたからその辺はよく覚えていない。

こうして窓の外が白みはじめた頃、ようやく満足した二人と共にうとうとと眠りについた。


目が覚めるともう日は高く上り、お昼になっていた。厚焼き卵サンドを食べながら、今度は僕がいない間の学校の様子を教えてもらった。そこでわかった衝撃の事実にもぐもぐと動かしていた口が止まる。

「え? ニールとトリムが退学!?」

なんとクラスの人数が減ってるような気がしたのは気のせいじゃなかったらしい。

「なんで退学になったの?」
「僕とテアを犯そうとしたからだよ」
「っえええ!?」

ごほっごほっと喉に詰まったパンを流し込むためにお茶をガブガブと飲む。テアが大丈夫~? と新しいお茶を僕のティーカップに注いでくれた。

「ゴホッ。そんなことが…大丈夫だったの? 怪我しなかった!? お、犯されなかった!?」

混乱する頭の中にゲームのエピソードが一つ思い浮かんだ。

そういえば、ゲームのキルナは悪役仲間と組んで、クライスを狙う生徒の中でもとくに目に付く可愛い子を中心に身勝手な制裁を加えていた。

(僕の婚約者に色目を使ったやつを徹底的に排除してやろう)

その時誰が被害に遭っていたかまではわからないけれど。そこにリリーとテアが入っていたのだとしたら……。

「ごめん……僕がいなくてもそんなことが起きるなんて」
「なんでメガネが謝るのかわからないけど」
「大丈夫だよ~未遂だったからぁ~。きつねくんが助けてくれたんだ~」
「きつねって……もしかしてカリムのこと?」

そうそうと二人が頷く。ニールとトリムとカリム。彼らはいつも3人で一緒に行動していた。なのに、カリムが助けてくれたっていうのはどういうことなのだろう。

「キツネはニール達が僕らを犯すとかいうきもい計画を立てているのを知って、何度もやめるよう説得していたらしい。だけどバカ二人のことを止められず、彼はその企てをライン先生に報告したんだって。おかげで僕らが空き倉庫に連れ込まれそうになったところを、見張っていた先生たちがすぐに助けてくれたんだ」

「そ~。だから、別に怪我もしなかったし、怖い思いもしなかったよ~」

「そうなんだ。よかった……」

二人が無事で、本当によかった。あとでカリムにお礼を言わなくちゃ。

「それからきつねくんとは話をするようになって~今は結構仲良しだよぉ。一緒に宿題やることもあるし~」
「彼は数術が得意だから、たまに教えてもらうんだよ。性格も穏やかだし教え方もうまいから便利なんだ」
「たしかにカリム、僕の剣術のペアになってくれた時もすごく親切だったし、もともといい子だったのかも(あの時から既に悪役ってかんじじゃなかったし)」

紅茶にミルクを足しながら、僕は頭の中を整理した。
色々と事情が変わっている。ニールとトリムがいなくなり、残ったカリムはどうやらいい子になっている。それはいいのだけど、問題が一つ。

悪役仲間が、いない!?

これは由々しき事態だ。ユジンを虐めたり親衛隊と戦ったりするために彼らの力を借りようと思っていたのに……。一人で大丈夫かな? 僕は使える魔力も少なくてろくな魔法が使えないし……すぐに負けちゃうんじゃ? 一人で立ち向かってボコボコにされる姿を想像し、ぞっとする。

「あの、クライスの親衛隊ってどれくらいの人数か知ってる? できればメンバーが誰かも教えて欲しいのだけど」

(相手の強さを知ってから作戦を考えよう……)

でもこれまた、テアから意外な答えが返ってくる。

「親衛隊なんてもうないよ~?」

親衛隊が、ない!?

「王子の親衛隊はもうとっくに解散してる」

紅茶を啜りながらリリーがいう。

「王子様の誕生日パーティーの時に~キルナサマのことを睨みつけてた親衛隊の子がいたでしょ~。彼らのああいう態度が王子の気に障ったみたい。パーティーのすぐ後隊長と副隊長が呼び出されて、解散命令が出たんだって~」

「王子はメガネを傷つける人間に容赦がないからね。まぁ当然だよ」

「テアも一応親衛隊に入ってたけど~大してやることもないし~人の悪口言うだけの集団だったから解散して正解だったと思うよ~。実際王子が留学したことで本当にやることなくなっちゃったしね」

「そう…なんだ……」

仲間もいないけど、敵もいない。一体どうなってるのだろ。

「ねぇ、僕まだお腹空いてるからデザート食べたい」
「テアも~」

気づくとたくさん作ったはずの卵サンドが全部なくなっていた。

「ん、待ってて。じゃあ、何か作るよ」

クッキー生地を捏ね、3人で型抜きをする。うさぎとねことりす。上手に型抜き出来てうれしそうにしている彼らを見ながら、僕はぼんやりと今後のことに思いを馳せた。

ーー全然ストーリー通りじゃなくなってる。これからどうしたらいいのだろう。

不安でお腹がちくちくする。


「どうしたの、悩み事ぉ? なんでも言ってね。テアが相談に乗るから」

テアにぎゅうっと抱きしめられて、ふらふらとよろめくと後ろからリリーが支えてくれた。そのまま彼にも抱きしめられ、前後から伝わる温かさに、お腹の痛みは和らいでいく。

「メガネ一人で悩んだってどうせろくな答えがでないだろうから、僕も聞いてあげる」

「テア…リリー……ありがと」

この世界には悪役仲間も親衛隊もいないけど、

友達が…いる。

生地をオーブンに入れ、またたわいもないおしゃべりをした。
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