82 / 286
第5章
第218話 第一王子の誕生日パーティー②
しおりを挟む
前回のダンスパーティー以上に大規模で華やかな会場に、僕は手と足が一緒に動くくらい緊張していた。前はワイン色のジュースをユジンにかけるという悪役としての任務で頭がいっぱいだったけれど、今回はそれもない。
僕は自分に向けられたたくさんの視線に溺れそうになっていた。
『あれが悪名高い婚約者か』
『傲慢でわがままなあの……』
『魔力のほとんどないできそこない』
ゲームの中のダンスパーティーで悪役キルナが言われていた悪口が今にも聞こえてきそうで、耳を塞ぎたくなる。だけど…僕は深く息を吸い、ゆっくりと吐く。
(僕にはコレがある。大丈夫、大丈夫)
彼にもらったおまじないと繋がれた手、二つのぽかぽかした温かさと、首につけたチョーカー(ブラウスの襟のヒラヒラで今は見えないけど)。自分を守る確かな存在を感じ、顔を上げて前に進むことができた。
挨拶は大体「お誕生日おめでとうございます。クライス王子」というお祝いの言葉から始まり、プレゼントを貰いそれに対するお礼を言い、二言三言話し、次の人、という流れでどんどん進んでいく。受け取ったプレゼントはロイルとギアが引き取り、せっせとどこかへ運んでいた。
「キルナ、手を」
「あ、ありがと」
クライスは完璧な挨拶をしながらも、横にいる僕を常に気にかけ、段差があるところではさりげなく手を貸してくれたり、人とぶつからないように手をひいてくれたり、飲み物を取ってくれたりする。
(なんて格好イイのだろ。)
そう思っているのは僕だけではないみたい。
同い年くらいの子たちは男女問わず目をハートにし、甘い声で彼に挨拶していた。
今挨拶している男の子も、その一人のようで燃えるような熱い気持ちがこっちまで伝わってくる。(ソール=マヒオン26歳、子爵家次男だと自己紹介していた。王立魔法学園の6年生だという。サラサラしたアッシュグレーの髪に切長の目が特徴的で、背が高くてモデルのように綺麗な男の子だ。)
「クライス王子お誕生日おめでとうございます。このプレゼント、実はオーダーメイドで作ったんです! 僕も普段愛用しているもので、とても書きやすい速記ペンです。水晶と金でできた花の飾りがついていて見た目も綺麗なので、絶対気に入っていただけるかと思って!」
自信満々にプレゼントの説明をする彼。(どうやらこの国は日本みたいにつまらないものだけど…、と謙遜する風潮はないらしい。)
「ああ、ありがとう。使わせてもらう。あと、親衛隊のことで話したいことがある。また後で連絡する」
その言葉にソールは目元を赤く染め「お待ちしています」と恋するような顔で答えた。
そして去り際、初々しかったさっきまでの表情とは一転し、隣にいた僕を射殺すような目で見てきた。憎々しい、という敵意に満ちた目に一瞬怯みそうになったけれど、悪役としてのメンタルを鍛える試練だと思って僕は負けじと彼を睨み返した。
(僕は主人公の前に立ちはだかる強い悪役になるのだから、上級生にも負けてられない!)
バチバチバチ
睨み合いが続く。こういうのって先に目を逸らした方が負けなんだよね、と瞬きもせず僕たちが火花を散らせていると
「おい、ソール。ちょっと来い」
クライスが彼の名を呼び、彼の耳元でコソコソと何かを言った。内緒話だから聞こえなかったけれど、憧れている相手に近付かれ頬を染めていたソールの顔は、見る見るうちに青くなっていく。
「……。……っはい。かしこまりまし…た」
話が終わると怯えるような目をしたソールは僕に向かって「申し訳ございませんでした」とガバッと頭を深く下げ、逃げるようにその場を立ち去った。
「ふぇ? 何?」
僕は首を傾げる。あんなに敵対心剥き出しだった子がビクビクしながら僕に謝るなんて。
(一体何を言ったの!?)
尋ねたいけれど、クライスはもう次の人と挨拶をしていて聞くことができなかった。
僕は自分に向けられたたくさんの視線に溺れそうになっていた。
『あれが悪名高い婚約者か』
『傲慢でわがままなあの……』
『魔力のほとんどないできそこない』
ゲームの中のダンスパーティーで悪役キルナが言われていた悪口が今にも聞こえてきそうで、耳を塞ぎたくなる。だけど…僕は深く息を吸い、ゆっくりと吐く。
(僕にはコレがある。大丈夫、大丈夫)
彼にもらったおまじないと繋がれた手、二つのぽかぽかした温かさと、首につけたチョーカー(ブラウスの襟のヒラヒラで今は見えないけど)。自分を守る確かな存在を感じ、顔を上げて前に進むことができた。
挨拶は大体「お誕生日おめでとうございます。クライス王子」というお祝いの言葉から始まり、プレゼントを貰いそれに対するお礼を言い、二言三言話し、次の人、という流れでどんどん進んでいく。受け取ったプレゼントはロイルとギアが引き取り、せっせとどこかへ運んでいた。
「キルナ、手を」
「あ、ありがと」
クライスは完璧な挨拶をしながらも、横にいる僕を常に気にかけ、段差があるところではさりげなく手を貸してくれたり、人とぶつからないように手をひいてくれたり、飲み物を取ってくれたりする。
(なんて格好イイのだろ。)
そう思っているのは僕だけではないみたい。
同い年くらいの子たちは男女問わず目をハートにし、甘い声で彼に挨拶していた。
今挨拶している男の子も、その一人のようで燃えるような熱い気持ちがこっちまで伝わってくる。(ソール=マヒオン26歳、子爵家次男だと自己紹介していた。王立魔法学園の6年生だという。サラサラしたアッシュグレーの髪に切長の目が特徴的で、背が高くてモデルのように綺麗な男の子だ。)
「クライス王子お誕生日おめでとうございます。このプレゼント、実はオーダーメイドで作ったんです! 僕も普段愛用しているもので、とても書きやすい速記ペンです。水晶と金でできた花の飾りがついていて見た目も綺麗なので、絶対気に入っていただけるかと思って!」
自信満々にプレゼントの説明をする彼。(どうやらこの国は日本みたいにつまらないものだけど…、と謙遜する風潮はないらしい。)
「ああ、ありがとう。使わせてもらう。あと、親衛隊のことで話したいことがある。また後で連絡する」
その言葉にソールは目元を赤く染め「お待ちしています」と恋するような顔で答えた。
そして去り際、初々しかったさっきまでの表情とは一転し、隣にいた僕を射殺すような目で見てきた。憎々しい、という敵意に満ちた目に一瞬怯みそうになったけれど、悪役としてのメンタルを鍛える試練だと思って僕は負けじと彼を睨み返した。
(僕は主人公の前に立ちはだかる強い悪役になるのだから、上級生にも負けてられない!)
バチバチバチ
睨み合いが続く。こういうのって先に目を逸らした方が負けなんだよね、と瞬きもせず僕たちが火花を散らせていると
「おい、ソール。ちょっと来い」
クライスが彼の名を呼び、彼の耳元でコソコソと何かを言った。内緒話だから聞こえなかったけれど、憧れている相手に近付かれ頬を染めていたソールの顔は、見る見るうちに青くなっていく。
「……。……っはい。かしこまりまし…た」
話が終わると怯えるような目をしたソールは僕に向かって「申し訳ございませんでした」とガバッと頭を深く下げ、逃げるようにその場を立ち去った。
「ふぇ? 何?」
僕は首を傾げる。あんなに敵対心剥き出しだった子がビクビクしながら僕に謝るなんて。
(一体何を言ったの!?)
尋ねたいけれど、クライスはもう次の人と挨拶をしていて聞くことができなかった。
182
お気に入りに追加
10,218
あなたにおすすめの小説
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜
明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。
しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。
それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。
だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。
流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…?
エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか?
そして、キースの本当の気持ちは?
分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです!
※R指定は保険です。
《うちの子》推し会!〜いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます〜お月見編
日色
BL
明日から始まる企画だそうで、ぜひとも参加したい!と思ったものの…。ツイッターをやっておらず参加の仕方がわからないので、とりあえずこちらに。すみませんm(_ _)m
婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ
秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」
ワタクシ、フラれてしまいました。
でも、これで良かったのです。
どのみち、結婚は無理でしたもの。
だってー。
実はワタクシ…男なんだわ。
だからオレは逃げ出した。
貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。
なのにー。
「ずっと、君の事が好きだったんだ」
数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?
この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。
幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。