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第5章

第193話 リリーSIDE 消えたメガネ

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そうこうしているうちに、嫌な視線が消えた。どうやら護衛騎士が全て排除したらしい。フェルライト家のか王家のか知らないけど、すごい数の護衛だ。ちょっと近くに買い物に来ただけなのに大袈裟過ぎて笑える。

(彼の周りには過保護な人間しかいないのかな? まあ、自分だって人のことは言えないか。同い年なのに、なんだか無性に心配で彼から目が離せないし。)

「ほわぁ。便利そうな魔道具がいっぱい。この花瓶、中の水がずっときれいに保たれるから水換えが必要ないのだって!」

「へぇ、いいね。メガネは花が好きだもんね。一つ買ったら?」

「うん……。でも、今日はプレゼントを買いに来たし…また今度にする。あぁ、どれがいいんだろ、人に贈るものってほんとに難しいよ。クライスは剣術が得意だし、もしかして武器とかがいいのかな?」

「誕生日プレゼントに武器はおかしいでしょ」

「そう?」

一通り魔道具屋を見て回ったけど、プレゼントはまだ決まっていない。この様子だとまだまだ時間がかかりそうだ。

「ねえメガネ、ちょっと休憩しない? 甘いものでも食べながらゆっくり考えようよ」

たくさん歩いたし、正直疲れた。そろそろお茶と甘いものが欲しいな、と思って提案すると、メガネも同じだったみたいで「うん。そうしよっ」と嬉しそうに答えた。

「馬鹿ベルトおすすめのティールーム“キラキラ星”に行こうよ。その店、スコーンが有名なんだってさ」


地図を見ながら行ってみると超人気店で長蛇の列だったのに、ウェイターに名前を告げると店長が出てきて中に通され、さっと座ることができた。どうやらベルトが予約しておいてくれたらしい。しかもスコーンセット二人分を支払い済みだという。

「へ? ベルトが払ってくれたの? なんで?」
「“俺様は行けないけど、ココットタウンを楽しんでくれ”、とのことです」

店長がにこやかに告げると、メガネは「予約してお金まで払ってくれるなんて……。ベルト優しっ!」と感動していた。

(ふ~ん、あいつもたまには役に立つんだね。)

ちょっと見直していると、焼きたてのスコーンにクロテッドクリームとジャムが添えられ、うやうやしく運ばれてきた。僕はマフマフ入りとプレーンの二種類、メガネはポポの実入りとプレーンのスコーンセットにした。

(そういえばメガネは超偏食みたいだけど、これは食べられるのかな?)

見ていると、割ってジャムとクリームをのせたスコーンを、上品な手つきで次々と小さな口に運んでいる。どうやら問題なかったようだ。僕も同じようにスコーンを口に入れるとほろほろした食感に、思わずおぉっと感嘆の声が出た。

「ん、おいしっ。外はカリカリ中はもっちりしてて食べ応えがあるね。さっぱりしたクリームや甘酸っぱいジャムをつけると味が変わって、いくらでも食べられそう……」

「たしかに。これはベルトが勧めるだけあるね」

「ね、リリー、こっちのポポの実入りのスコーン食べてみて。ほんのり甘くてとってもおいしいから。そんでそっちのマフマフ入りのを一口ちょうだい。はい、お口開けて、あ~ん」

「あ、ちょっと、メガネ。口にジャムついちゃったでしょ。もっとうまく入れてよ」

あ~んというから慌てて口を開けたけど、入れるのが下手なせいでジャムが口の端に付いてしまう。もう! と怒ると、彼が綺麗な刺繍入りのハンカチで丁寧に拭いてくれた。

「ごめん。ふふっ、ピンクのジャムお口につけてるリリーってなんか可愛い。あれ? 何これ。よく見るとこのジャムちょっと光ってるよ?」

「星屑のジャムだからね。そりゃ光るよ。ヒカリビソウっていう光る草の成分が入ってるんだ」

「ヒカリビソウ!? 僕、それ光飴作るために育てたことあるよ!!」

興奮しながらその飴作りについて語るメガネ。その栽培がいかに大変だったか。できた光飴で部屋をデコレーションした時の喜びは如何程だったか、内容は決して真似したいものじゃないしそこまで興味はないけれど、楽しそうに語る様子は見ていて飽きない。

彼を見ていると、ほんわか可愛い系はもちろん、小悪魔テイストの服やセクシー系の服も似合うんだろうな、と次々妄想が膨らむ。

「ふわぁ、このミルクティーいい香り。スコーンによく合う」
「ほんとだ」

スコーンと紅茶を一緒に口に含むと、また違った味がして美味しかった。


最高のお菓子とお茶を堪能し、次は宝石を見に行こう、ということになった。王子に贈るような宝石があるとしたらここかな、とこの街で一番大きなジュエリーショップに入った瞬間ときだった。


ぎゅっと握っていたはずの彼の手が。



ーー消えた。



「メガネ!? どこ!?」

辺りを探し回ってもいない。護衛騎士たちに視線を向けると、彼らも見失ったらしい。すぐさま大捜索が始まった。

「どこに…いったの?」

メガネが消えた……。
震える手から、大事に持っていたピンクの袋がぽすんと地面に落ちる音がした。
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