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第5章

第188話 誕生日プレゼント

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雨の中を飛び回る妖精たちから“水の妖精”という言葉を連想してしまいまたしても落ち込んでしまった気持ちも、バターと蜂蜜たっぷりの甘いマドレーヌと、ベルトの用意してくれた茶葉で淹れた紅茶をテーブルに並べるとふわっと浮上してきた。おいしいお菓子と良い香りのする紅茶の威力は絶大だ。

「あの…さ、クライスの誕生日がいつか知ってる? 来週らしいのだけど、何日かわからなくて」

婚約者の誕生日がわからないなんてびっくりされるかな、と思いながら聞くと

「9月10日だよ」

とリリーがさらっと教えてくれた。10日ということは来週末だ。よかった、日付は分かった。あとはプレゼントを用意しなくては。でもこの世界の人って誕生日にどんなプレゼントを贈るのだろう。残念ながら僕は両親や友だちにプレゼントをもらったことがない。ただ、誕生日にはルゥたちがいつもよりゴージャスなシフォンケーキと花束をくれた。セントラは本をくれた。そういったものがいいのかな?  

ーーテアサファイアのピアス 

頭に浮かんだピアスは、僕の想像力じゃどんなものかわからないけどとても素敵なもので、最高のプレゼントのように思える。それよりすごいプレゼントなんて、探せそうにない。せめて、彼が受け取って邪魔にならないような何か……。

(むぅ~、何かって、何? ああ、わかんない。)


「王子に何あげるの?」
「まだ決めてないの。その…来週って知ったのも今日だから。何が…いいかな」

迷う。どうせ渡すなら彼の好きなものをあげたいのだけど。クライスの好きなものって何だっけ? 花ならルーナの花が好きで、ご飯はお肉をよく食べる。甘いものが好きで、あとは……。

「なんでもいいんじゃない? メガネがあげたらなんでも喜ぶよ」

マドレーヌをパクパクと幸せそうに頬張りながらリリーが言う。(本当に甘いものが好きだな。リリーのプレゼントなら籠いっぱいのお菓子でよさそう)

「なんでもいいと言われても難しいよ」
「甘~いキッスでいいよ。ねぇ、こっち向いてクライス、お誕生日おめでとう。愛してるよ♡ちゅう~って」
「な、何それ」

(ムリムリムリ! あ、愛してるだなんて!)

「キスなんて、で、できないよ」
「前してただろ? 俺様たちの前でも」
「だって、あれは治療だったから」

魔力枯渇や魔力酔いの時にするキスは一応治療ってことで恥ずかしさ半減だけど、自分から誕生日おめでとうのキスなんて……恥ずかしすぎてできっこない。

「変なの。あんだけ濃厚なのしといて、そんだけ毎日キスマークつけといて」
「キスマーク?」
「……首にいっぱいついてるしうなじとかすごい数だけど、気づいてなかったのか?」

ベルトに言われ、鏡を探す。んきゃぁ! たくさん赤い点々がついている。クライスったらいつの間に。あとでやめてって言っておかなきゃ。

「キ、キスとかじゃなくてもっと普通の、プレゼントがいいのだけど」

「うーん王子へのプレゼントか。難しいな。必要なものはなんでも最高級品を持ってるだろうし。やっぱり、キスでいいんじゃないか? 間違いなく喜ぶだろうけど。それか手作りクッキーとか。キルナのお菓子は最高においしいし、王子は意外と甘いもの好きみたいだし」

クッキーか。悪くはないと思うけど……。

「でもそんなの、いつでもあげられるよ。今だって、マドレーヌを焼いて置いてきたし。もっとほら、宝石とかが欲しいんじゃないかしら……」
「は? 宝石? 王子が宝石? そんなの興味なさそうだけど」
「なんで宝石なんだ?」
「えと、なんとなく」

とは言ったものの宝石なんて僕にはどれがいいのかよくわからない。普段使うお金はそれほど持ってないし、テアの渡すような貴重な宝石を今から用意するなんて無理だ。どうしよ。

僕がグダグダ悩んでいると、リリーがごくごくと紅茶を飲み干して提案した。

「じゃあ今度の休日街に買い物に行こうよ。いいものが見つかるかもしれないし」
「え、いいの!? 行きたい」

何それ何それ! 夢にまで見た王都で友達と一緒にショッピングだなんて! 嬉しさのあまり大声を出してしまった。ああ、ダメダメまたお行儀悪くなっちゃった……。カップを一度置いて、きちんと落ち着いて話をしなくっちゃ。

「お、それは面白そうだな。ああ、でも俺様休日は予定があるんだった!!」
「馬鹿ベルトは別に誘ってないよ」
「なんだと。ちっこいの二人で行くなんて、どう考えても危険だし、きちんとどこへ行くか王子に伝えて護衛を連れて行けよ。貴族の坊ちゃんなんてフラフラ歩いてたら誘拐されるからな」
「はいはい、はともかく僕が案内するから大丈夫だよ。そう遠くまで行くつもりはないし、学園の近くをうろつくだけだから」

学園の近く、たしか繁華街があって、おしゃれなカフェやティールーム、服屋や宝石店が並んでいて学生に人気の店がたくさんあったはず。(馬車の中からしか見たことないけど、どこどこの店のパフェが美味しいとか、噂はいっぱい聞いたことがある。)

「僕、王都を歩いたことってないから、すごく楽しみ!」

僕は興奮して顔を赤らめながら言った。ごめんね、ちょっと今の僕、鼻息が荒いかもしれない。

「へえ、そう…なんだ。買い物どころか歩いたこともないの? それは…やっぱり護衛がたくさん必要なのかな」

僕の言葉を聞き、なぜかリリーが悩み出してしまった。
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