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13. オオカミ少年

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 さて、高校生は妖力が使えるようになったのはいいが、代わりに耳が出て来た。
 ピョコンと出ている耳は狼の耳である。モゾモゾと居心地悪そうにしているのはきっとシッポも出ているのだろう。

「狼男、いや狼少年か? この間も見たな」
「狼!?」
「そうですね。耳とシッポが出ていますよ」
「狼は割と耳が直ぐ出てしまうから」

 そう言われて高校生は慌てて頭に手をやった。そして、そこにある耳を掴んで取ろうとして

「い、痛いっ」
「それはそうでしょう。耳も身の内ですから」
「あの、か、鏡とかは」
「あー、ハイハイ。気になるよね」

 そう言いながら、店員Aが手鏡を持ってきた。その手鏡を受け取り、鏡をのぞき込んだ高校生は混乱している。

「ウソー、ウソだ! 犬、犬の耳になった!」
「いや、それ、狼だから」
「ええ! 狼男! 満月になると変身してしまうのは嫌だ!」
「いや、それはお話に中での事ですから、実際の狼人間は自分の意志で変身します。耳とシッポも自由意志です」
「そう、こんな風にね」

 と言いながら、ピコンと店員Aが狐の耳を生やして見せた。高校生は

「耳!? なんで?」
 混乱している。

「普通の人は獣耳ができたら驚きますよ。でも、お札が付喪神みたいになっているのでしたら、そちらでコントロールできるはずですけど」
「ああ、おい! 出てこい!」

 ナキンの呼びかけに高校生の中から3つの文字が出て来た。『山、川、炎』という文字だけがそのまま空中に浮いている。そして、文字がでてくると同時に高校生の獣耳は引っ込んだ。すかさず手鏡を見せてやると

「耳がない、シッポも! 良かった」
「なるほど、文字を取り込むと耳とシッポが出てくるわけですね。どうしましょう」
「いや、きちんとコントロールできると、耳とシッポ、変身も自在にできる、はず」
「あー、君、いざという時はこのお札が助けてくれて、狼男になれるから、そうしたら身体能力が飛躍的に上がって、何かと対処しやすくなる」
「でも、普段はこのお札は? というかお札が文字だけになっていますけど」
「この文字が何かに付けられるといいわけだな」
「あの、ハンカチでもいいんでしょうか?」

 そういって、リナが白いハンカチを差し出してきた。端に可愛いチューリップの刺繍がしてあるシンプルなハンカチだ。

「ああ、ちょうどいいかもしれない」

 そう言いながらナキンがハンカチを広げて空中に浮かぶ文字に

「ここに入れ!」

 と言うと文字はハンカチに吸い込まれるように入って行き、白いハンカチに『山、川、炎』と山は茶色、川は青、炎は赤色に文字が刺繍された。

「このハンカチは肌身離さず持っているよいに。距離が開くと、文字が寄ってきて耳とシッポがでてくるぞ」
「あ、あっ、ハイ、わかりました。あ、有り難うございます。良かった、耳がない」

 高校生は手鏡を見て耳が無くなっているのをみてホッとしたようだ。

「さて、これからしばらくはここに通って妖力のコントロールを身に付けて、それから山のお社に行ってみようか」

 という事で高校生のオオカミ少年、大賀敬は喫茶『AYASHI』に臨時のアルバイトとして雇われる事となった。呼び名は『店員K』である。
 しばらくはオオカミ少年になった事でかなり戸惑っていたようだが、そのうちに開き直ったようで、賄いを楽しみに通うようになった。
 店員Kは妖力も使えるようになり、変身もかなり上手になったが、リナのほうは、特に変わりはない。ただ、赤い靴と赤い兜が思い通りに変化してくれるようになっただけである。今は赤い靴は茶色のローファーとなり、赤い兜は赤いバレッタとなっている。

「おい、店員K。妖力の使い方も慣れてきたようだから山の社に行くか」
「えっ、社に、ですか?」
「そう、その社の面倒は君が頼まれているらしいけど、多分その社に何かがいると思うんですよね。それを確認して山に通うのは大変だから持ってこれるモノならもって来て、何かが封印されているならそれも確認したいですし」
「お祖父さんの家は山の麓?」
「はい。山に登る道の手前になります」
「じゃ、今度の休みに行こう」
「あの、付いて来てもらえるんですか?」
「ひよっこの面倒を見るのも先輩の務めってね」

 店員Aが偉そうにいうので

「気を付けて行ってきてください」
 とリナが声をかけると

「何、言ってんの。リーちゃんも一緒に来るんだよ」
「えっ、でも私は関係ないような」
「いや、まだ、リーちゃんはこれから能力が開花するわけだから、何かイベントがありそうな場合は出かけたほうが良いよ」
「ええー、何かが起こるのですか?」
「山のお社、とか三枚のお札とか、山姥が出てくるかもしれないし」
「山姥とか怖いから行かなくていいです」
「大丈夫。ナキン様も一緒だから瞬殺。俺もマスターもかなり強いから安心して怪異を見に行こう」
「そうですね。せっかくだから一緒にいきましょう。山の社でしたら何か、隠されているモノもあるかもしれないですし」

 という事で『喫茶AYASHI』のいつものメンバー、マスター翼に店員A、リナにケルベロスのナキンとオオカミ少年の店員Kを加えてオオカミ少年の祖父の山に出かける事となった。
 リナは(何事も置きませんように)と心の中で願っていた。
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