5 / 18
5. 喫茶『AYASHI』
しおりを挟む
そうして、リナは無事にコールセンターのバイトを辞めて、喫茶『AYASHI』でアルバイトをする事になった。
喫茶店でのリナの呼び名は『RI』。普段はリーちゃんと呼ばれる事となった。
この喫茶店では皆、本名ではなくアルファベットの頭文字で名前を呼び合っている。何故かというと、本名を力の強い妖怪に知られると良くないから。
たまに、ハグレの妖怪がフラリとこの喫茶店に立ち寄る事があって、店員を気に入るとそのまま連れて行こうとすることがあるそうだ。
店員Aは妖狐だが皆から店員Aと呼ばれているし、アルバイトも不定期に現れるものもいるので、新しく採用されたら欠番になっているアルファベットを選ぶ。なので、リナは欠番からRを選び、Iを付けてリーにした。
「リーちゃん、って可愛い呼び方ですね」
「猫みたいだけど、猫、飼っていた?」
「猫、飼いたかったんですけど、実家はマンションで飼えなかったんです」
「それで、自分が猫になったのか」
「いえ、呼び名がリーになっただけで」
「ひょっとすると、猫系の変化をするかもしれないね」
「化け猫とか?」
「ええっ! 止めて下さい」
喫茶店のアルバイト達は新しく入った初々しいリナの事を気に入って、色々と構ってくるので、リナはかなり、戸惑っていた。
「全く、さぼってばかりいないで、仕事しろ。店員AとB! ほら、コーヒーとミートソース」
「あーっ、すみません。普通のコーヒーで良いですか? 今日はマスターがいないので」
「ああ、構わん。お前も少しは飲めるコーヒーを淹れられるようになってきたからな」
「ナキンさん以外だと美味しいって言って貰えるんですよ」
店員Aはそう言いながら手際よくコーヒーをセットして、リナにミートソースの準備を頼んだ。
ミートソースは大量に作って冷凍してあるので温めて出すだけだが、ここのミートソースはかなり美味しい。リナも作った時に味見させてもらったが、ケチャップから手作りしているし、どうも、材料の野菜からして違うらしい。ここの喫茶店の軽食は物凄く美味しい。
「ここのパンとかパスタとかも全部手作りで余計なモノは入ってないし、卵も肉も専門牧場から運んでいるから、普通とは違うんだ」
「こんなに、美味しいと行列ができて満員御礼になりそうなものですけど、程々にしかお客様は来ないんですね」
「そりゃ、いつもケルベロスのナキンさんがいるから、小物は来られないよ。そうでなくても、他の常連も力のあるモノばかりだから、いくら美味しくてもビビッてしまって味がしないんじゃないかな」
ミートソースのスパゲッティには小さなサラダと野菜スープが付く。
今日のサラダはレタスにポテトサラダがのっているが、大き目の角切りハムがゴロゴロしていた。ざっくり切ったゆで卵が入っているのも美味しそうだ。スープは透き通ったコンソメに色取り取りの千切り野菜が浮いている。
リナが来る夕方に、仕込みをする事はないが、ほとんどの下ごしらえはマスターの自宅で行っているそうだ。
「りーちゃん、家で料理をしている? 割と手際がいいね」
「はい。自炊していますから」
「じゃぁ、ここの材料を持って帰ると良いよ。マヨネーズも手作りだから日持ちはしないけど美味しいから」
「いいんですか。有り難うございます。ほんと、ここの材料とか料理とか凄いですね。こだわりの逸品とかもありそう」
「マスターが料理好きで凝り性だから、時々、手の込んだ料理も出すんだ。それに月に一度だけどフルコースの食事会があるよ。完全予約制で2年先まで予約は埋まっているけど」
「フルコースって、あの、お高いんでしょう? 材料費もかかってそうだし」
「ここ、普段は時価だけど、一応、フルコースは5万円って事になっているんだ。ただ、ここの会計が時価なのはお金がなくて払えない人外もいるし、裕福な人外もいるから、相互助け合いって感じになっているせい」
「あの、普通の人間と人外の人とは同じ物をたべるんでしょうか?」
「人外の種類によるね。俺とかは基本、食べなくても平気。食事は単に味を楽しむだけ。高位の人外は割と食事はいらないのが多い。ナキンさんも食事はいらないはずだよ。よく色々食べているけど」
「そして、ナキン様は必ず試食に現れるお得意様」
「バイトは試食ができるのが役得だけど、食事会の時は忙しくて大変なんだ。リーちゃんもいずれ、食事会の時は手伝いに入ると思うけど、人型じゃない、まさに妖怪って言う風体の人外もいるからその時は驚かないでね」
「あの、普通の人間はいないんですか?」
「マスターは人間だよ。後、いわゆる突然変異の超能力者もたまに来る。マスターの知り合いだけど人間らしいよ。でも、見た目が人型だったらそんなに人外って言っても気にならないでしょ」
「ええ、そうですね。刑事の御大さんなんて、大柄な人にしか見えません」
「ああ、あれは鬼だから、角さえ隠せば人をそんなに変わらない。ところで、何か、連絡あった?」
「いえ、時々、電話がきますけど、元気ならいいって」
リナは一応、殺人事件の重要参考人だけど、担当が鬼の御大で、多分巻き込まれただけだろう、という事で特に何もなく過ごしている。
ただ、赤い靴を渡してきた知人女性と殺害の犯人の繋がりがわからないので、万が一、赤い靴の関連で何かあるといけないので、わざわざ毎日、店員Aが大学と喫茶店、自宅までの送り迎えをしてくれている。
申し訳ないと遠慮するリナにこれは通勤手当だから、と言う店員Aは人がいない所でこっそり転移をしているので特に負担はない。
リナは喫茶店の人外たちのおかげで今の所、平穏な日々を過ごしていた。
喫茶店でのリナの呼び名は『RI』。普段はリーちゃんと呼ばれる事となった。
この喫茶店では皆、本名ではなくアルファベットの頭文字で名前を呼び合っている。何故かというと、本名を力の強い妖怪に知られると良くないから。
たまに、ハグレの妖怪がフラリとこの喫茶店に立ち寄る事があって、店員を気に入るとそのまま連れて行こうとすることがあるそうだ。
店員Aは妖狐だが皆から店員Aと呼ばれているし、アルバイトも不定期に現れるものもいるので、新しく採用されたら欠番になっているアルファベットを選ぶ。なので、リナは欠番からRを選び、Iを付けてリーにした。
「リーちゃん、って可愛い呼び方ですね」
「猫みたいだけど、猫、飼っていた?」
「猫、飼いたかったんですけど、実家はマンションで飼えなかったんです」
「それで、自分が猫になったのか」
「いえ、呼び名がリーになっただけで」
「ひょっとすると、猫系の変化をするかもしれないね」
「化け猫とか?」
「ええっ! 止めて下さい」
喫茶店のアルバイト達は新しく入った初々しいリナの事を気に入って、色々と構ってくるので、リナはかなり、戸惑っていた。
「全く、さぼってばかりいないで、仕事しろ。店員AとB! ほら、コーヒーとミートソース」
「あーっ、すみません。普通のコーヒーで良いですか? 今日はマスターがいないので」
「ああ、構わん。お前も少しは飲めるコーヒーを淹れられるようになってきたからな」
「ナキンさん以外だと美味しいって言って貰えるんですよ」
店員Aはそう言いながら手際よくコーヒーをセットして、リナにミートソースの準備を頼んだ。
ミートソースは大量に作って冷凍してあるので温めて出すだけだが、ここのミートソースはかなり美味しい。リナも作った時に味見させてもらったが、ケチャップから手作りしているし、どうも、材料の野菜からして違うらしい。ここの喫茶店の軽食は物凄く美味しい。
「ここのパンとかパスタとかも全部手作りで余計なモノは入ってないし、卵も肉も専門牧場から運んでいるから、普通とは違うんだ」
「こんなに、美味しいと行列ができて満員御礼になりそうなものですけど、程々にしかお客様は来ないんですね」
「そりゃ、いつもケルベロスのナキンさんがいるから、小物は来られないよ。そうでなくても、他の常連も力のあるモノばかりだから、いくら美味しくてもビビッてしまって味がしないんじゃないかな」
ミートソースのスパゲッティには小さなサラダと野菜スープが付く。
今日のサラダはレタスにポテトサラダがのっているが、大き目の角切りハムがゴロゴロしていた。ざっくり切ったゆで卵が入っているのも美味しそうだ。スープは透き通ったコンソメに色取り取りの千切り野菜が浮いている。
リナが来る夕方に、仕込みをする事はないが、ほとんどの下ごしらえはマスターの自宅で行っているそうだ。
「りーちゃん、家で料理をしている? 割と手際がいいね」
「はい。自炊していますから」
「じゃぁ、ここの材料を持って帰ると良いよ。マヨネーズも手作りだから日持ちはしないけど美味しいから」
「いいんですか。有り難うございます。ほんと、ここの材料とか料理とか凄いですね。こだわりの逸品とかもありそう」
「マスターが料理好きで凝り性だから、時々、手の込んだ料理も出すんだ。それに月に一度だけどフルコースの食事会があるよ。完全予約制で2年先まで予約は埋まっているけど」
「フルコースって、あの、お高いんでしょう? 材料費もかかってそうだし」
「ここ、普段は時価だけど、一応、フルコースは5万円って事になっているんだ。ただ、ここの会計が時価なのはお金がなくて払えない人外もいるし、裕福な人外もいるから、相互助け合いって感じになっているせい」
「あの、普通の人間と人外の人とは同じ物をたべるんでしょうか?」
「人外の種類によるね。俺とかは基本、食べなくても平気。食事は単に味を楽しむだけ。高位の人外は割と食事はいらないのが多い。ナキンさんも食事はいらないはずだよ。よく色々食べているけど」
「そして、ナキン様は必ず試食に現れるお得意様」
「バイトは試食ができるのが役得だけど、食事会の時は忙しくて大変なんだ。リーちゃんもいずれ、食事会の時は手伝いに入ると思うけど、人型じゃない、まさに妖怪って言う風体の人外もいるからその時は驚かないでね」
「あの、普通の人間はいないんですか?」
「マスターは人間だよ。後、いわゆる突然変異の超能力者もたまに来る。マスターの知り合いだけど人間らしいよ。でも、見た目が人型だったらそんなに人外って言っても気にならないでしょ」
「ええ、そうですね。刑事の御大さんなんて、大柄な人にしか見えません」
「ああ、あれは鬼だから、角さえ隠せば人をそんなに変わらない。ところで、何か、連絡あった?」
「いえ、時々、電話がきますけど、元気ならいいって」
リナは一応、殺人事件の重要参考人だけど、担当が鬼の御大で、多分巻き込まれただけだろう、という事で特に何もなく過ごしている。
ただ、赤い靴を渡してきた知人女性と殺害の犯人の繋がりがわからないので、万が一、赤い靴の関連で何かあるといけないので、わざわざ毎日、店員Aが大学と喫茶店、自宅までの送り迎えをしてくれている。
申し訳ないと遠慮するリナにこれは通勤手当だから、と言う店員Aは人がいない所でこっそり転移をしているので特に負担はない。
リナは喫茶店の人外たちのおかげで今の所、平穏な日々を過ごしていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
瑠菜の生活日記
白咲 神瑠
キャラ文芸
大好きで尊敬している師匠コムが急に蒸発して死んだのだと周りから言われる瑠菜。それを認めることはできず、コムは生きているんだと信じているが、見つけなければ信じ続けることもできない。
そんなことを考えていたある日、瑠菜の弟子になりたいという少女サクラが現れる。瑠菜は弟子を作ることを考えたこともなかったが、しつこいサクラを自分と重ねてしまいサクラを弟子にする。
サクラの失敗や、恋愛というより道をしながらも、コムを見つけるために瑠菜はコムがいなくなった裏側を探る。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
あばらやカフェの魔法使い
紫音@キャラ文芸大賞参加中!
キャラ文芸
ある雨の日、幼馴染とケンカをした女子高生・絵馬(えま)は、ひとり泣いていたところを美しい青年に助けられる。暗い森の奥でボロボロのカフェを営んでいるという彼の正体は、実は魔法使いだった。彼の魔法と優しさに助けられ、少しずつ元気を取り戻していく絵馬。しかし、魔法の力を使うには代償が必要で……?ほんのり切ない現代ファンタジー。
天使のスプライン
ひなこ
キャラ文芸
少女モネは自分が何者かは知らない。だが時間を超越して、どの年代のどの時刻にも出入り可能だ。
様々な人々の一生を、部屋にあるファイルから把握できる。
モネの使命は、不遇な人生を終えた人物の元へ出向き運命を変えることだ。モネの武器である、スプライン(運命曲線)によって。
相棒はオウム姿のカノン。口は悪いが、モネを叱咤する指南役でもある。
モネは持ち前のコミュ力、行動力でより良い未来へと引っ張ろうと頑張る。
そしてなぜ、自分はこんなことをしているのか?
モネが会いに行く人々には、隠れたある共通点があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる