上 下
94 / 103

番外編②-1 双子7歳 双子は悪戯ざかり(アーク視点)

しおりを挟む
 夜半、久々に帰ってきた王宮に静かに忍び込むと、弾丸のように小さな女の子が飛びついてきた。こっそり入ったはずなのに、どうしてわかってしまったのだろう?

「アーク兄様、お帰りなさい」
「ああ、ただいま。ちょっと見ない間に随分と大きくなったね」
「そうでしょう。もう、魔法も使えるのよ」
「えっ! まだ7歳だよね。母様から教えてもらったのかい?」
「まさか! もちろん内緒で覚えたのよ。だからね、お父様とお母様には内緒、ね」
「内緒って……」
「だって、まだ魔法は早いっていうんですもの。ルクもこっそり使ってるわ」
「いや、それは……」

 いやいやいや、王宮で魔法を使うのはダメだろう。
 なんでバレてないんだ?
 この7歳になる姪っ子は跳ねっ返りで何をするか分からないところがあるし、ちょっと目を離すと直ぐに問題を起こす。全く誰に似たのやら。
 今も突然、俺の前に現れたという事は隠密系の魔法が使えるのかもしれない。まさか、もう加護に目覚めたとか……、ありえるのが怖い。

 もうひとりの双子の片割れはこの子に比べれば少しはましだけど、気づくとトンでもない事をしでかしている。そして、この二人はいつも俺にくっ付いてくる。
 本当は伯父なんだけどリーナがお兄様と呼ぶものだから、子供たちまで兄さま、と呼び出して俺もおじ様と呼ばれるよりはいいかな、と兄さま呼びになってしまった。

「ねぇ、リル。子供はもう寝ている時間じゃないかな。どうやって此処に来たの?」
「アーク兄さまの気配がしたら起きられるように願いをかけたの。そして、アーク兄さまの所まで虹を飛ばしたのよ」

 これは……突っ込みどころが!? 願いに虹! どういう事だろう? ちょっと離れている間にこいつらは、もう。

「願いって何かな?」
「うんとね。女神様、お願いってすごくお願いすると桜の花びらが浮かんでくるの。それで、花びらにお願いするとお菓子を持ってきてくれたり、行きたい場所とか浮かんでくるの。そうしたら、そこまで虹を渡すと行けるの。虹を渡る時は誰にも見えないのよ」

 おう! 思っていたより大ごとだ。いつでも抜け出し放題。

「その虹の上に乗れるの?」
「うん。乗れるよ」
「その虹に兄さまも乗れるかな?」
「うん、もちろん。人を乗せたことはないけど大丈夫だと思う。一緒に乗って遊びに行こう!」
「リル、もう夜だよ。遊びに行くなら昼間じゃないと。夜は寝ないと昼間に遊べない」
「あっ、そうか。じゃぁお部屋に戻る。明日、遊ぼうね」

 そう言うとリルは両手をパンと合わせた。すると桜の花びらが一枚フワリと現れ、その花びらに向かってリルの小さな両手から虹がかかり、そのままリルの身体が宙に浮かんだかと思うと虹の上を走って行ってしまった。
 これは夢? 白昼夢? いや、もう夜だけど。俺はしばらく呆気に取られてリルが消えた場所を見つめていた。

 リーナと陛下の間には5人の子供がいるけど、この3番目の姪っ子は何というか、とんでもない。これはどうしたらいいんだろう。
 とりあえず、ちゃんと部屋に戻ったのかどうかを確認しよう。

 此処は俺の離宮の入口だけど、ご連絡鳥に『リルがお迎えに来たけど、自分で虹に乗って帰った。部屋に居るかどうか確認してほしい』と口述して送ってから離宮に入ると転移陣の部屋まで急いだ。

『お兄様、お帰りなさい。リルが虹に乗っていたの? 取り合えず、侍女に確認に行ってもらったわ。お兄様はそのまま、こちらの居間に来てくれる?』

 リーナからのご連絡鳥が早い。
 王宮のプライベートの居間に行くとアルファント陛下とリーナが待ち構えていた。
 アルファント殿下が30歳になると同時に前王陛下が退位した。ので、二人は国王陛下と王妃になった。
 だけど、俺たちの関係は公式の場では弁えるけど、プライベートでは家族そのものだ。一応アプリコット家という血の繋がった家はあるけど、あちらは全く家族の気がしない。

「お帰り。アーク」
「お兄様、お疲れ様。リルがお迎えに行ったんですって?」
「ただいま。驚いたよ。いきなり、離宮の入り口で飛びついてきたんだ」
「今夜、帰ってくるって話はしていたけど、まさか迎えにいくなんて。それも虹に乗って?」
「そうなんだ。俺も自分の目で見なければ信じられない。リル、虹に乗ってどこでも行けるみたいな事を話していた」

 俺が見聞きした事を話すと二人はため息をついた。元々、かくれんぼが得意で直ぐに居なくなる双子だが、最近は特に見つけにくくなっていたらしい。

 コンコン。扉を叩く音がして許可を出すと双子の世話役の侍女が入って来た。双子はベッドの中で眠っていたが、リルのほうは寝たふりをしていたそうだ。

「とりあえず、ベッドに入っているのならいいわ。お兄様、良かったら日本酒と肉ジャガでちょっと飲まない?」
「おー、良いね。リーナの肉じゃが、久しぶり」
「リーナのお酒も美味いからな」

 そのまま、肉ジャガの他にも変わりギョーザ(中身が不明で色々入っている、例えばエビチリとか鶏の餡掛けとかチーズベーコンとか)を摘まみに3人でお酒を飲んだ。さっぱりとしたトマトのサラダにウメンのお茶漬けで締めて凄く満足した。
 やはりリーナの作るご飯は美味い。

 リーナは16歳の時に日本酒とワイン、17歳の時にウイスキーとブランデーが出せるようになった。お酒の味は良く分からないと言っていたけど、前に飲んだことのある銘柄を思い浮かべる事でその味が再現できていた。
 おかげで俺とアルファント殿下、じゃない陛下はとても美味しい思いをさせてもらっている。

 しかし、リーナも俺も、ついでに陛下も20歳を過ぎると途端にレベルが上がらなくなった。「打ち止めじゃないか」と陛下が言っていたけど俺はともかくとして、『液体の加護』はちょっと凄すぎるからレベルが上がらなくなってリーナは安心したみたいだ。

『液体の加護』は未だ名称を隠したままだけど、何かあった時の為に陛下にも本当の加護の名前は秘密にしている。リーナは陛下が毒に倒れたのがトラウマになっているらしい。

 それにしても、明日はリーナと一緒に双子にお説教をする事になったけど、何を言えばいいのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました

上野佐栁
ファンタジー
 前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。

婚約破棄の現場に遭遇した悪役公爵令嬢の父親は激怒する

白バリン
ファンタジー
 田中哲朗は日本で働く一児の父であり、定年も近づいていた人間である。  ある日、部下や娘が最近ハマっている乙女ゲームの内容を教えてもらった。  理解のできないことが多かったが、悪役令嬢が9歳と17歳の時に婚約破棄されるという内容が妙に耳に残った。  「娘が婚約破棄なんてされたらたまらんよなあ」と妻と話していた。  翌日、田中はまさに悪役公爵令嬢の父親としてゲームの世界に入ってしまった。  数日後、天使のような9歳の愛娘アリーシャが一方的に断罪され婚約破棄を宣言される現場に遭遇する。  それでも気丈に振る舞う娘への酷い仕打ちに我慢ならず、娘をあざけり笑った者たちをみな許さないと強く決意した。  田中は奮闘し、ゲームのガバガバ設定を逆手にとってヒロインよりも先取りして地球の科学技術を導入し、時代を一挙に進めさせる。  やがて訪れるであろう二度目の婚約破棄にどう回避して立ち向かうか、そして娘を泣かせた者たちへの復讐はどのような形で果たされるのか。  他サイトでも公開中

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

処理中です...