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39. ノヴァ神官
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「お兄様、私、聖女にはなりたくない」
「うーん。気持ちはわかる。でも、リーナが聖女になるって言わなければ聖女に成らなくて済むんだし、第一、魔王の封印が解けなければ聖女の出番はないよ。ピンク頭には王家の影を付けて怪しい行動は止めてくれるって王様が言っていたじゃないか」
「としても、今、魔王が復活しなかったとしても40年後には封印はとけるのよ。その時私は53歳。53歳の聖女なんてありえないわ」
「プっ、アハハ。年取った聖女!」
「笑いごとじゃないわ。平凡な幸せを目指しているのに」
「ハハハ、聖女の杖だって若い子のほうがいいからその時は選ばれないよ。きっと。でも、40年後でもリーナだったらチートで最強かも。やっぱ、選ばれるか!」
「もう、ふざけないで! 魔王が復活するとしても、その時までずっとこの聖女の杖を持っているの? ノヴァ神官は私の事、今代の聖女って呼ぶし、陛下だって聖女って言いかけては口ごもるのよ」
「いや、40年もレベルを上げれば瞬殺だって。瞬殺はまずいか、封印だから手加減の練習だな」
「もう、お兄様の加護を聖女の光って書き換えようかしら」
「聖女の光ってどんな加護だよ~。とりあえず、心配しなくても何とかなるって。まだまだ時間はあるし、そのうちに何か思いつくさ」
お兄様は能天気に言い放つと大きく口を開けてアップルパイにかじりついた。
私達はタウンハウスでアップルパイを食べていた。飲み物はアップルティー。リンゴを見つけた時に嬉しくて沢山アップルパイを作ったのだ。
アイテムボックスの中には大量のお菓子が売るほど入っている。
貯めこむばかりではなく消費しないと、ひょっとしてこの『隠蔽』の加護が消えてしまうかもしれない。
ノヴァ神官は既にこの加護が一時的なモノではなく、固有の加護になっている可能性があるのでそんなに心配しなくて大丈夫だと言ってくれたけど、私達はこの『隠蔽』の加護に凄く助けられて、依存している自覚がある。
『隠蔽』の加護があっての逃亡計画だし。
何より私の『液体』の加護はまだ秘密にしている。それに『液体』って聞いた感じが「えっ。何それっ?」って人に言われそうな名称だし。本当にこの『液体の加護』には助けられているし、これから先も手放せないけど、もっと聞こえのいい名称だったら良かったのにとちょっと思う。
「なぁ、リーナ。このパイ、ほんとサクサクして美味いな。このパイの中のファイリングっていったっけ、これを肉にしたらミートパイになるんだよな」
「何、お兄様、ミートパイが食べたいの? 人がこんなに悩んでいるのに」
「食べたい。できれば幾つか味変していただけたら嬉しいです。カレーとか、ミネストローネとチーズとかお願いします。リーナ様」
食欲の前にプライドを無くしたお兄様が私を拝み始めたので、仕方ないので作ってあげる事にした。何か作っていると不安な気持ちも忘れられるし。
という事でミートパイ各種が焼きあがって良い匂いが漂っている時に来客があった。
「こんにちわ。とても良い匂いがしていますね」
「わかります? ちょうどパイが焼きあがったばかりなんですよ。良いところに来ましたね」
お兄様はご機嫌にノヴァ神官を迎えた。
このタウンハウス、基本的に男性は立ち入り禁止でお茶会の時にも警備の人間が付いてくる、のに、ノヴァ神官は一人でここに来てしまった。
ノヴァ神官はメイド服を着ていた。とてもお似合いです。でも、本当は男性なのに良いのでしょうか。
「諸々の手続きが午前中に終わりましたので、今日から週3でお世話になります」
「週3ですか?」
「さすがに全ての業務を丸投げ、とはいかなかったのです。私の生体認証も済ませていますからここで過不足なくお仕事をさせていただけると思います」
ノヴァ神官は美味しそうにミートパイを食べると
「これは初めて食べる味ですね。アルファント殿下が『パンの木』の加護が欲しいと言っていましたがこの中のカレーですか、夢中になってしまうのもわかりますね」
「そうでしょう。やっぱり、カレーは特別ですよ」
「転生者の方にとっての故郷の味という事でしょうか?」
「うーん。ある意味、おふくろの味かもしれません」
お兄様、ノヴァ神官とカレー談義で盛り上がっているけど、アルファント殿下のお口が軽いって事じゃないの?
まぁ、私もアルファント殿下とよく一緒に居るせいかとても気安くなってきている、とは思う。殿下は親しみやすい雰囲気を持っていて話題が豊富なので話しやすい。
会議室で密談をしている時などは、前世で好きだった本とかお芝居の話が時々出てきて、ひょっとして同い年くらいだったのかなと、思う時もある。
そういえば、ダンジョンで戦っている時に二の腕の筋肉とかが見えると目が行ってしまう。細マッチョでしなやかな動きなのに鍛えているせいか安定感があって……。
「リーナ、リーナったら」
「えっ、何、お兄様」
「ボーっとして、どうしたのさ。ノヴァ様に見とれていた?」
「えっ、何言っているのよ。そりゃ、ノヴァ様は目福だし見ているとクラクラするけど」
「……」
「……、それはそのありがとうございます」
「あっ、いいえ。そういうわけでは」
「あー、リーナ。大丈夫?」
「ええ、もちろん」
ちょっと殿下の筋肉が目の前というか、頭の中にチラついて不覚をとってしまった。
ノヴァ神官も、ものすごくキレイで見ていると挙動不審になってしまうけど別に私があちこち目移りしているわけではない、よね。
ただ、男の人に慣れてないから落ち着かないだけで。
もう、大丈夫かしら、私。
「うーん。気持ちはわかる。でも、リーナが聖女になるって言わなければ聖女に成らなくて済むんだし、第一、魔王の封印が解けなければ聖女の出番はないよ。ピンク頭には王家の影を付けて怪しい行動は止めてくれるって王様が言っていたじゃないか」
「としても、今、魔王が復活しなかったとしても40年後には封印はとけるのよ。その時私は53歳。53歳の聖女なんてありえないわ」
「プっ、アハハ。年取った聖女!」
「笑いごとじゃないわ。平凡な幸せを目指しているのに」
「ハハハ、聖女の杖だって若い子のほうがいいからその時は選ばれないよ。きっと。でも、40年後でもリーナだったらチートで最強かも。やっぱ、選ばれるか!」
「もう、ふざけないで! 魔王が復活するとしても、その時までずっとこの聖女の杖を持っているの? ノヴァ神官は私の事、今代の聖女って呼ぶし、陛下だって聖女って言いかけては口ごもるのよ」
「いや、40年もレベルを上げれば瞬殺だって。瞬殺はまずいか、封印だから手加減の練習だな」
「もう、お兄様の加護を聖女の光って書き換えようかしら」
「聖女の光ってどんな加護だよ~。とりあえず、心配しなくても何とかなるって。まだまだ時間はあるし、そのうちに何か思いつくさ」
お兄様は能天気に言い放つと大きく口を開けてアップルパイにかじりついた。
私達はタウンハウスでアップルパイを食べていた。飲み物はアップルティー。リンゴを見つけた時に嬉しくて沢山アップルパイを作ったのだ。
アイテムボックスの中には大量のお菓子が売るほど入っている。
貯めこむばかりではなく消費しないと、ひょっとしてこの『隠蔽』の加護が消えてしまうかもしれない。
ノヴァ神官は既にこの加護が一時的なモノではなく、固有の加護になっている可能性があるのでそんなに心配しなくて大丈夫だと言ってくれたけど、私達はこの『隠蔽』の加護に凄く助けられて、依存している自覚がある。
『隠蔽』の加護があっての逃亡計画だし。
何より私の『液体』の加護はまだ秘密にしている。それに『液体』って聞いた感じが「えっ。何それっ?」って人に言われそうな名称だし。本当にこの『液体の加護』には助けられているし、これから先も手放せないけど、もっと聞こえのいい名称だったら良かったのにとちょっと思う。
「なぁ、リーナ。このパイ、ほんとサクサクして美味いな。このパイの中のファイリングっていったっけ、これを肉にしたらミートパイになるんだよな」
「何、お兄様、ミートパイが食べたいの? 人がこんなに悩んでいるのに」
「食べたい。できれば幾つか味変していただけたら嬉しいです。カレーとか、ミネストローネとチーズとかお願いします。リーナ様」
食欲の前にプライドを無くしたお兄様が私を拝み始めたので、仕方ないので作ってあげる事にした。何か作っていると不安な気持ちも忘れられるし。
という事でミートパイ各種が焼きあがって良い匂いが漂っている時に来客があった。
「こんにちわ。とても良い匂いがしていますね」
「わかります? ちょうどパイが焼きあがったばかりなんですよ。良いところに来ましたね」
お兄様はご機嫌にノヴァ神官を迎えた。
このタウンハウス、基本的に男性は立ち入り禁止でお茶会の時にも警備の人間が付いてくる、のに、ノヴァ神官は一人でここに来てしまった。
ノヴァ神官はメイド服を着ていた。とてもお似合いです。でも、本当は男性なのに良いのでしょうか。
「諸々の手続きが午前中に終わりましたので、今日から週3でお世話になります」
「週3ですか?」
「さすがに全ての業務を丸投げ、とはいかなかったのです。私の生体認証も済ませていますからここで過不足なくお仕事をさせていただけると思います」
ノヴァ神官は美味しそうにミートパイを食べると
「これは初めて食べる味ですね。アルファント殿下が『パンの木』の加護が欲しいと言っていましたがこの中のカレーですか、夢中になってしまうのもわかりますね」
「そうでしょう。やっぱり、カレーは特別ですよ」
「転生者の方にとっての故郷の味という事でしょうか?」
「うーん。ある意味、おふくろの味かもしれません」
お兄様、ノヴァ神官とカレー談義で盛り上がっているけど、アルファント殿下のお口が軽いって事じゃないの?
まぁ、私もアルファント殿下とよく一緒に居るせいかとても気安くなってきている、とは思う。殿下は親しみやすい雰囲気を持っていて話題が豊富なので話しやすい。
会議室で密談をしている時などは、前世で好きだった本とかお芝居の話が時々出てきて、ひょっとして同い年くらいだったのかなと、思う時もある。
そういえば、ダンジョンで戦っている時に二の腕の筋肉とかが見えると目が行ってしまう。細マッチョでしなやかな動きなのに鍛えているせいか安定感があって……。
「リーナ、リーナったら」
「えっ、何、お兄様」
「ボーっとして、どうしたのさ。ノヴァ様に見とれていた?」
「えっ、何言っているのよ。そりゃ、ノヴァ様は目福だし見ているとクラクラするけど」
「……」
「……、それはそのありがとうございます」
「あっ、いいえ。そういうわけでは」
「あー、リーナ。大丈夫?」
「ええ、もちろん」
ちょっと殿下の筋肉が目の前というか、頭の中にチラついて不覚をとってしまった。
ノヴァ神官も、ものすごくキレイで見ていると挙動不審になってしまうけど別に私があちこち目移りしているわけではない、よね。
ただ、男の人に慣れてないから落ち着かないだけで。
もう、大丈夫かしら、私。
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