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18. 入学式と公爵令嬢

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入学式当日はとても良い天気だった。

 私はお兄様にエスコートされて入学式の会場に向かった。このタウンハウスは学園のちかくに配置されている。
 男女でそれぞれ管理棟を挟んで右と左に分かれているが、それぞれの敷地には許可を得ないと入れないようになっている。

 本来は王家、公爵家、侯爵家、辺境伯家までがタウンハウスに入れる事になっていたが、近年、高位貴族の出生率が下がっているせいで、伯爵家もこのタウンハウスに入れるようになった。
 でも、本当は出生率ではなくて魔法の加護が出にくくなってきているらしい。それで、魔法省と神殿がその原因を探るべく必死で研究をしているという話をお兄様がこっそり聞いてきた。

 私の『隠蔽』の加護がレベル7になった時、任意の人(個人)を隠せるというか、見えなくする事ができるようになった。ので、それ以来お兄様は姿を消して「スパイ活動は楽しいよね」と言いながらあちこち偵察に行くようになった。
 楽しそうで何よりである。

 タウンハウスから中庭に出ると、3軒ほど向こうのハウスから侍女と共に出てくる女の子がいた。

 入寮当日に各タウンハウスにはご挨拶を済ませているが、此処は15歳までの高位貴族の学院生が居るところなので今年度はそんなに住んでいる者はいない。今年の入寮は私と公爵令嬢のフルール・フォスキーア様だけである。

 彼女は入学式の前日、つまり昨日に入寮した。侍女を通して挨拶はあったが、来週末、すなわち4月10日の土曜日にご挨拶のお茶会をタウンハウスで行うとのご招待状が届いた。タウンハウスに今入居しているのは

 1年生が私たち2人、2年生が1人、3年生が3人、4年生が2人である。2年生のお姉さまは伯爵家で、3年生は侯爵家が1人、伯爵家が2人、4年生が公爵家1人、侯爵家1人で私たちも入れると合わせて8人になる。

 今年度はこの8人で繋がりを作り、ここに他の貴族を招いて社交のひな型を展開していくことになる。面倒くさい。
 でも、幸いにして公爵家のお嬢様がいらっしゃるので、そちらが中心になるから私はそこまで気を回さなくてもいいかもしれない。

「おはようございます。私、リーナ・アプリコットでございます。辺境伯家の5女になります」

 フルール・フォスキーア様と目があったのでササっと淑女の挨拶をした。

「おはようございます。フルール・フォスキーアです。フォスキーア家の次女ですが、タウンハウスに同学年の方がいらして嬉しいわ。どうぞ、フルールと名前でお呼びになって」

 フルール様は大人しそうだが、綺麗な金髪に伏し目がちな緑の目、透き通るような白い肌が正統派美少女といえる。そしてとても綺麗な声をしていた。

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。リーナとお呼びください」
「私、人見知りなのであまり社交はしたくないの。でも、リーナ様とは仲良くしたいのでよろしくお願いしますね」

 にっこり笑ったフルール様はとても可愛らしかった。
 でも、二人で他愛無い話をしながら校舎に近づくと

「ごめんなさい。私、これから気配を消しますがお気になさらないでくださいね」

 フルール様がそう言ったかと思うとまとう空気が薄くなった。というか気配が薄くなってそこに人がいるのはわかるのだが、はっきりと認識ができなくなってしまったのだ。

「エッ?!」
「ああ、これは消し過ぎました。これではどうですか?」

 少し、気配が濃くなって、フルール様と認識はできるのだがものすごく存在感が薄い人になった。

「あ、あの?!」
「私、実は人が苦手ですの。ですからできれば空気のような存在になれたらと思って。でも、リーナ様が私の事を意識してくださったらそこにいるとわかりますから」

 フルール様は少し、変わった人のようだった。

 会場に着いた時に出欠のチェックがあり、案内をされて私たちは前列の端の方に座った。どうも爵位の順に席が決められているらしいがフルール様の横に座る事ができた。
 同学年での高位貴族は公爵家と伯爵家の人が二人だけだったが、男女の配慮がされているらしく「男性、女性で分けてあります」と案内の人から告げられた。クラス分けは入学式が始まる前に紙が配られた。

 在校生を代表して挨拶をしたのは、第一王子のアルファント・ド・レクシャエンヤ・パール様だった。アルファント様は2学年だが、王家の方が学生になると慣例的に2学年から学生会に入る。

 副会長と会長補佐は同学年から選ぶ為、侯爵家の次男ガーヤ・ジートリス様が副会長、魔法庁長官の三男・リンドン・マジーク様が会長補佐。騎士団長の三男・トーリスト・ガーター様がアルファント様の騎士見習いとして側に着く事になったそうだ。
 後は上級生の書記と会計、庶務が2人の計7名が学生会のメンバーになる。

 入学式は滞りなく行われその後はすぐ解散となったが、フルール様にお茶に誘われてタウンハウスにお邪魔した。

「私、加護が『風魔法』と『霞』の二つありますの。『霞』の加護で自分の存在を限りなく薄める事ができるのです。本当は人が苦手なので学園には通いたくないのですけど、『風魔法』の継承者が私しかいなくて仕方なくここにいます」
「『風魔法』はフルール様しかいないんですか?」
「そうなのです。このままでは私が公爵家を継ぐ事になってしまうので本当に困っているのです。」

 フルール様は悩まし気な顔をしていた。そして、これからも存在感を消していくけどよろしくお願いしますねと頼まれた。
 因みに高位貴族はAクラスに決まっているので一緒のクラスだった。

 とりあえず、存在感は薄いけれどお友達ができたのは良かったと思う。
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