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13. 父の思惑
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加護の儀が終わり、私とお兄様は本館の客間に案内された。
本館は初めて来たけど、とても立派だった。これまで別館はあちこちウロウロしていたけど本館は警備もしっかりしているし、いくら『隠蔽』の加護があっても見つかるかもしれない危険は冒せないので眺めるだけにしていた。
客間でお茶とお菓子を頂いてしばらくしたら、それぞれ呼ばれて私は新しいドレスに着替えさせられた。
儀式の為の衣装と会食の為のドレスは違うらしい。
本館の侍女に湯あみをさせられ、着付けをされ髪を結いあげられた。
さて、会食。
領主であるお父様はとても上機嫌だった。
「ふむ、マナーも完璧だな。教育もキチンとできていると聞いた。しかし、まさかの水の加護とはな。これなら四大公爵であるウオーター家の正室に嫁ぐことができそうだ。ちょうど、嫡男が一つ上の学年だ。学園に行く前に連絡して婚約、いや、どのみち加護の件はすぐに伝わるだろうから向こうから正室に欲しいといってくるだろう。いや、めでたい」
「でも、あなた様、私たちの血筋に水魔法は出なかったはずですわ。不思議ですわね?」
正妻が少し小首をかしげながら疑問を投げかけた。
「確かにそうだ。だが、元をたどれば貴族の血筋は一つ、魔法を使える女神様の子孫だ。ここにきて血脈が表に出てきたのかもしれない」
「そうですか」
正妻は少し不満そうだ。魔法関連の加護が側室からでたのが納得いかないらしい。
正確には魔法の加護じゃないんだけど、これはどこまでごまかせるのか不安だし、四大公爵家の正室なんて恐ろしいワードが出てきてかなり心配。
婚約なんてしてしまったらどうやって逃げればいいんだろう。
「まぁ、正式な婚約はまだ先としてもしっかり勉学と社交に励むと良い」
「でも、この子はそういった社交についての訓練何かはしておりませんよ」
「学園にいったら個別に教師を雇ってしっかり学ばせよう。そうだ。侍従と専属の侍女がいるな」
「それでしたら、今日一緒に加護の儀を受けた、ほら、何といいましたか、アーク?」
「アークか。なかなかの魔力量だったな。加護はパンの木か……。おい、アーク」
お父様は大きな声でアークを呼んだ。
「はい。なんでしょうか」
「加護を見せてみよ。パンの木と声にだせばよい」
「はい。かしこまりました。パンの木」
お兄様は不安そうにパンの木と唱えた。すると、レベル1のパンの木が食卓の横にニョコリと生えてきた。
パンの実は一つしかなってない。
「ほう。それがパンの木の加護か。結構大きいな。おい、その実を持ってこい」
執事がパンの実を取ってお父様のところへ持って行った。
「ふん。ただの大きな木の実に見えるな」
そう言いながら拳でコンコンと叩いている。
「ナイフ、いや包丁を持て」
しばらくして料理人がワゴンにまな板と包丁を持って現れた。
「よし、その実を割ってみよ」
料理人がまな板の上で恐る恐るパンの実に包丁を入れるとパカンと実が割れ、中から丸パンが3つコロンと転がった。ホカホカと湯気が立って出来立てのように見える。
「いつも食べている普通のパンに見えるな。しかし、熱そうだ。おい、ケラン、これを食べてみろ」
お父様がパンを一つ取り上げると執事に差し出した。
「いただきます」
そういうと執事はパンを受け取り、少しちぎるとフーと息を吹きかけ一口食べた。
「これは焼き立てのパンでございますね」
「焼き立てか」
「はい。かなり熱うございますから」
「ふうん。ただのパンなら大して役には立たないが焼き立てが食べられるのは良いな。それと……木の加護はいずれ他のモノに変化する事もある。かなり後だが」
「さようでございますね。草木の加護からバナナの加護に進化した例もございます」
「まだわからんな。しかし……」
お父様は少し腕を組んで考えた。
「よし、お前は従僕としてリーナについて魔法学園に行け。もし、学園にいる間に加護が進化したら正式に家に迎えてやろう。進化しなくても家に置いて様子見をしてやる。その時は何か役目を考えなくてはならんな。ケラン」
「かしこまりました。そのようにいたします」
「ふふん。全く期待してなかったが上出来ではないか。公爵家の正室にバナナの候補者か。良いではないか。次回の集まりが楽しみだ」
お父様は楽しそうに食事を続け、時折食卓にいる家族に話しかけデザートが終わると、さっさと立ち上がり去って行った。
どうやら、水魔法は公爵家にとって貴重な加護らしい。
でも、私の加護は『液体』なんだよ。水魔法じゃない。だけど。このままだと、公爵家の嫡男と婚約させられてしまいそう。何としても公爵家に加護がバレル前に逃げ出さなくては。
でも、学園には行きたい。この世界の常識と魔法の知識は系統立てて勉強しておきたいし。なんせ、私の知識は別館に置いてあった本とお兄様に届けられた子供用の教科書、それに、こっそりと聞き耳を立てて集めた雑学から得たものだ。
婚約、したくないなぁ。
公爵家の嫡男に嫌われるといいかも。
そもそも、公爵家の嫡男ってどんな人なんだろう
本館は初めて来たけど、とても立派だった。これまで別館はあちこちウロウロしていたけど本館は警備もしっかりしているし、いくら『隠蔽』の加護があっても見つかるかもしれない危険は冒せないので眺めるだけにしていた。
客間でお茶とお菓子を頂いてしばらくしたら、それぞれ呼ばれて私は新しいドレスに着替えさせられた。
儀式の為の衣装と会食の為のドレスは違うらしい。
本館の侍女に湯あみをさせられ、着付けをされ髪を結いあげられた。
さて、会食。
領主であるお父様はとても上機嫌だった。
「ふむ、マナーも完璧だな。教育もキチンとできていると聞いた。しかし、まさかの水の加護とはな。これなら四大公爵であるウオーター家の正室に嫁ぐことができそうだ。ちょうど、嫡男が一つ上の学年だ。学園に行く前に連絡して婚約、いや、どのみち加護の件はすぐに伝わるだろうから向こうから正室に欲しいといってくるだろう。いや、めでたい」
「でも、あなた様、私たちの血筋に水魔法は出なかったはずですわ。不思議ですわね?」
正妻が少し小首をかしげながら疑問を投げかけた。
「確かにそうだ。だが、元をたどれば貴族の血筋は一つ、魔法を使える女神様の子孫だ。ここにきて血脈が表に出てきたのかもしれない」
「そうですか」
正妻は少し不満そうだ。魔法関連の加護が側室からでたのが納得いかないらしい。
正確には魔法の加護じゃないんだけど、これはどこまでごまかせるのか不安だし、四大公爵家の正室なんて恐ろしいワードが出てきてかなり心配。
婚約なんてしてしまったらどうやって逃げればいいんだろう。
「まぁ、正式な婚約はまだ先としてもしっかり勉学と社交に励むと良い」
「でも、この子はそういった社交についての訓練何かはしておりませんよ」
「学園にいったら個別に教師を雇ってしっかり学ばせよう。そうだ。侍従と専属の侍女がいるな」
「それでしたら、今日一緒に加護の儀を受けた、ほら、何といいましたか、アーク?」
「アークか。なかなかの魔力量だったな。加護はパンの木か……。おい、アーク」
お父様は大きな声でアークを呼んだ。
「はい。なんでしょうか」
「加護を見せてみよ。パンの木と声にだせばよい」
「はい。かしこまりました。パンの木」
お兄様は不安そうにパンの木と唱えた。すると、レベル1のパンの木が食卓の横にニョコリと生えてきた。
パンの実は一つしかなってない。
「ほう。それがパンの木の加護か。結構大きいな。おい、その実を持ってこい」
執事がパンの実を取ってお父様のところへ持って行った。
「ふん。ただの大きな木の実に見えるな」
そう言いながら拳でコンコンと叩いている。
「ナイフ、いや包丁を持て」
しばらくして料理人がワゴンにまな板と包丁を持って現れた。
「よし、その実を割ってみよ」
料理人がまな板の上で恐る恐るパンの実に包丁を入れるとパカンと実が割れ、中から丸パンが3つコロンと転がった。ホカホカと湯気が立って出来立てのように見える。
「いつも食べている普通のパンに見えるな。しかし、熱そうだ。おい、ケラン、これを食べてみろ」
お父様がパンを一つ取り上げると執事に差し出した。
「いただきます」
そういうと執事はパンを受け取り、少しちぎるとフーと息を吹きかけ一口食べた。
「これは焼き立てのパンでございますね」
「焼き立てか」
「はい。かなり熱うございますから」
「ふうん。ただのパンなら大して役には立たないが焼き立てが食べられるのは良いな。それと……木の加護はいずれ他のモノに変化する事もある。かなり後だが」
「さようでございますね。草木の加護からバナナの加護に進化した例もございます」
「まだわからんな。しかし……」
お父様は少し腕を組んで考えた。
「よし、お前は従僕としてリーナについて魔法学園に行け。もし、学園にいる間に加護が進化したら正式に家に迎えてやろう。進化しなくても家に置いて様子見をしてやる。その時は何か役目を考えなくてはならんな。ケラン」
「かしこまりました。そのようにいたします」
「ふふん。全く期待してなかったが上出来ではないか。公爵家の正室にバナナの候補者か。良いではないか。次回の集まりが楽しみだ」
お父様は楽しそうに食事を続け、時折食卓にいる家族に話しかけデザートが終わると、さっさと立ち上がり去って行った。
どうやら、水魔法は公爵家にとって貴重な加護らしい。
でも、私の加護は『液体』なんだよ。水魔法じゃない。だけど。このままだと、公爵家の嫡男と婚約させられてしまいそう。何としても公爵家に加護がバレル前に逃げ出さなくては。
でも、学園には行きたい。この世界の常識と魔法の知識は系統立てて勉強しておきたいし。なんせ、私の知識は別館に置いてあった本とお兄様に届けられた子供用の教科書、それに、こっそりと聞き耳を立てて集めた雑学から得たものだ。
婚約、したくないなぁ。
公爵家の嫡男に嫌われるといいかも。
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