冷女が聖女。

サラ

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15. 海が見たい。

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相変わらず忙しい日々は続いていたけど、パン屋の親戚が家族でパン屋の仕事を手伝う事になって移住してきたし、新しい従業員も雇ったので、彼らに仕事を引き継いだ。

 私の主な仕事はリンリコの実を使ったパン酵母の作成になっていたけれど、その仕事は私と同じぐらいの年の娘、16歳のマメリとエコトがする事になった。
 パン屋のオバサンやオジサンが作っても酵母がうまくできないのは若い娘じゃないから、と思われたみたい。

 単に私が側にいないせいだと思うけど。私じゃないと良い酵母ができないと思われると、辞めさせてもらえないような気がしたから、アランの手を借りて酵母に手を加えた。
 彼女たちでも私の酵母と変わらないものができる、と思ってくれたのでスムーズに辞めることができた。

「でもさ、玲ちゃんの酵母でパン屋はぼろ儲けしたのに、玲ちゃんへの還元はナシで給料も変わらないっておかしいよ」
「うーん。私もちょっとくらいお給料を上げてくれてもいいんじゃないかな、と思ったんだけど。最初より忙しくなったし、働く時間も増えたから」
「リンリコのパン酵母はあのパン屋のオジサンが考えた事になっているよ」
「そうなんだ……でも、酵母なんて誰でも作れるし」

「誰でも? 回復効果があるのに?」
「作れるわけじゃないかも?」
「そうだよ。回復効果は玲ちゃんが関わらないと付かないけど、それは玲ちゃんが居なくなってから徐々に気がつくね。でも、あいつ等、玲ちゃんがこの村のお嫁さんになったら、パン酵母の権利を言いだすかもしれないから、旅に出るというのは有難いって言っていた」
「そうなんだ……」

「せめて、辞める時に餞別くらい寄こせばいいのに」
「うーん。今日で終わりだし、一応、お給料は少し多かったよ。パンも袋にいっぱい貰えたしね。最近は親戚の人たちから冷たい目で見られるし、まぁいいけど」
「村の人には内緒で出て行くように言われたんだっけ?」
「うん。村長にはパン屋さんから伝えとくから、朝、暗いうちに出ていけって。一応、置手紙は置いておくつもりだけど」
「村長には言わないほうが良いね。村長の弟、村が賑やかになったから帰ってくるらしいし」
「えっ、何それ?」

 アランが言うには村長の弟は来月には帰ってきて結婚式を挙げるそうだ。相手は何と私が予定されていて……、婚約者という事になっているらしい。聞いてないよ。
 婚約者だから村長の弟さんの家に前もって住んでいる、という事に話を持っていくらしい。

 ちなみに村長の弟は30歳で独身。村長の息子が凄く反対して、自分が結婚したいと言っているそうだ。ちなみに村長の息子は15歳。村長が仕方ないから二人で結婚するか、などとほざいていたそうな。でも、この国では一人で二人と結婚するのは有り、らしい。冗談じゃない。

「玲ちゃん、モテモテだね」
「イヤなモテ方ですけど! 何だか、不本意なことになってしまって」
「仕方ない、逃亡生活か」
「別に追われているわけじゃないし」
「まぁ、僕はこの村を出ていけるのは嬉しい。今度はどこに行く?」
「そういえば、最初からこの村から出て行きたいって言ってたね」
「村社会の裏側を見て回ると、色々とね。この村は閉鎖的だよ。玲ちゃんは花嫁候補で優しくされていただけ」

「ううーん。複雑な気分。こんな時には海を見たい、そうね、海に行こう」
「海か、いいね。船もあるし、そのまま外国に行くのも有りだ」
「そう、お魚が私を待っている」
「俺、煮魚が食べたい。お醤油もあるし」
「そういえば、煮魚はしばらく食べてないわ。もう一つの冷凍庫に煮魚があったような気がするけど」
「わーい。でもこの国で取れた魚で煮魚にしようよ。多分、美味しい。干物もいいな」
「そうね。見た事ない魚に会えるかも」

 私達はすっかり魚の気分になって盛り上がった。そして、とりあえず早く寝て夜明け前、というか夜更けに出ていく事にした。
 バイクに乗れるから楽に旅ができるし、次の領都まで急いで行って、そこで早めに宿をとる事にする。荷物もほとんど纏めているし、と言うかアイテムボックスに入れれば良いのだから本当に楽。

 物置にあったベッドもアランが暇に任せて修繕してくれたからそれもアイテムボックスに入れておいた。私のアイテムボックスはかなり優秀で今の所ドンドン入る。
 容量はどうなっているのかしら、と思うけど気にしない事にして、物置の中のいらないかな、と思われるモノも有難く頂くことにした。

 冷蔵庫に触っていると私の姿は見えなくなる。ので、冷蔵庫を出して片面にベッドを引っ付けると、ベッドも見えなくなるのが判明した。見えなくなるだけでなく、透明状態で通り抜けられてしまう。ベッドの上に乗った私も見えなくなる。
 これは村の子供をお家に招待してお家の中でカクレンボをして、冷蔵庫の性能を確認してみたから間違いない。

 子供たちにはマドレーヌとオレンジジュースが凄く喜ばれたけど、村長さんに家が傷むから子供や他の村人は招かないようにと怒られてしまった。子供たちが来る時は偶々見てなかったけど、帰りはしっかり見られてしまったようだ。
 村長さんのお父さんが暇らしくていつも家の前で日向ぼっこをしているから、私の帰りも割と早いせいか、家の出入りもチェックされてしまう。

 さて、大丈夫だと思うけど、ベッドに冷蔵庫をくっつけて休む事にした。これで私の姿は見えない。
 欠点は頭の上にマドレーヌが載ったお盆が見える事だけど、無限マドレーヌは助かっているので、オブジェと思う事にした。尚、冷蔵庫の裏側には回れない。横に行けるのはマドレーヌがあるおかげかもしれない。

 早めに寝たのに夜中、12時ジャストにカチャリという音で目が覚めた。誰かが勝手に家の中に入ってきている。
 まさか、村長の弟さんがこんな夜中に帰宅してきた、とか言わないよね?!
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