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魔竜とは
174.教会の役割
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■皇都セントレア
~第17次派遣一日目~
今回の派遣はダイスケが休み(今のところは)になっているので、アキラさん、マユミ、コーヘイとタケルの4名となった。西條は新しい求人を募っているが、派遣に適した人材は中々見つからないようだった。タケルはナカジーにも毎日のようにショートメールを送っているのだが、返事は今のところなかった。あまり送るとストーカーのようになるので、そろそろ諦めた方が良いのかもしれなかった。
今回の派遣も獣人の村とエルフの里を往復しながら現地で修練を積むことにしている。初日はセントレアに来てタケルは教皇と会い、それ以外のメンバーは買い出しに行ってもらった。マリンダもセントレアに連れてきたが、皇都大教会へはタケル一人で向かった。
今日は教皇の、いや教会の考えを聞いておきたかったので、マリンダいない方が率直な話が出来ると思っていたからだ。タケルは南方州の件で教皇のやり方に不満を感じていて、手を打ってもらうように頼むつもりだったから、マリンダ達からすると雲の上の存在である教皇であっても、はっきりと自分の意見を伝えるつもりで来ていた。
皇都大教会はいつものように人で賑わっている。大広間の奥の事務室に行くと、タケルを見つけた責任者の男が奥から小走りに出てきた。
「スタートスの勇者様、お待ちしておりました。教皇からお越しになればすぐにお連れするようにと言いつかっております」
-教皇が? 待っていた・・・
タケルは言われるがままに教皇の部屋まで連れて行かれて中に入ると、教皇は今日もソファーに座ってタケルを黙って見つめた。
-いつも無言なんだよな・・・
勧められなかったが勝手に向かいに座って、タケルも黙って教皇を見つめ返した。
-この人はこの国を一体どうするつもりなんだろうか?
「私が来ると思っていたそうですが、何かお話しがあったのでしょうか?」
「・・・」
教皇は少し笑みを浮かべたようだったが、口を開くことは無かった。
「私たちは南方州へ行って、フィリップ司教とビジョン副司教にお会いしてきました」
「・・・」
「フィリップ司教に土魔法を見せていただいたので、ある程度は使えるようになりました。魔竜と戦う時には土魔法は役に立ちそうです」
黙っていた教皇が、頷いて口を開いた。
「それは良かったです。フィリップはあなた達の事を認めたのでしょう。ですが、昨日も南と西の間で諍いがあり、大勢の武術士が命を落としています」
「えっ!? 死んだ人が居るのですか!?」
「はい、詳しい話はこちらには伝わっていませんが、大勢で乗り込んだ西方州側に死者が多いようです」
セレナ教皇は人ごとのように淡々と話しているが、この国の責任者としての態度とは思えなかった。タケルはいらだち、少し大きな声で教皇を質した。
「それで、教皇はどうするおつもりなんですか? そもそもなんでこんなことに!?」
「私は何もするつもりはありません。こうなったのも全て神のお導きですからね」
「何もするつもりが無いって・・・、国を指導する立場なら、争いを仲裁するのも仕事じゃないんですか!?」
「それは違います。私は神の声を聴いてそれを教会から伝えるのが役割です。私自身が判断をして何かを決めているのではありません」
「そんな・・・、無責任な!」
タケルはセレナの言っていることが全く理解できなかった。国の責任者である以上、この国のあり方を考えるのが仕事のはずだと思っている。
「無責任・・・ですか・・・、なるほど、あなたの考えでは私や教会がこの国を導くべきだと・・・、そう考えているのですね?」
憤るタケルに教皇は淡々と問いかけた。
「もちろんそうです! このドリーミアでは教会が全てを動かしているじゃないですか?教皇が指示を出せば教会の中での争いはすぐに終わるのではないのですか?」
「確かに私が話せば、一旦は争いが収まるかもしれません。ですが、争いは人の心が起こすものです。その心根が変わらなければ同じことがすぐに起こってしまうでしょう。それに・・・、争いも含めて神が導かれているのですよ」
-神が導く? 神が死者を出す争いを? そんなことが!?
「では、神は一体この世界をどうしたいと思っているのですか? 争いを増やして死者を出したいとでも!?」
「神が何をお考えなのかは私にもわかりません。ですが・・・、この世界を変えようとされているのは間違いないでしょう。この国の勇者が幼くして亡くなったのもしかり、あなた方を迎え入れるようにされたのもその一つですからね」
「この世界を変える? どんな風に変えるつもりなのですか?」
「それもわかりません。それを決めるのは全ての人々です。教会の中の人もそれには含まれています」
「ですが、教会や教皇が導かなければ、この国の人たちはどうして良いのか判らないのでは?今までは教会が導いて来たのでしょう!?」
「私たちは神の声を聴き、聖教典の教えを伝えるのが役割です。ですが、私たち自身が意思を持って導いているわけでは無いのです。神が教会を要らないものと判断したのなら、その考えに従うだけです」
-教会が要らない!? この国でそんなことになったら・・・、大変なことに!
「ですが、人々も教会が無くなったら困るのではないですか? 人々を救う事も教会の使命ですよね?」
「それはその通りですが・・・、今までの教会とは違う役割に変わることが神の意思なのかもしれませんね」
教皇と話をしていてタケルは強い違和感を覚えていたが、それは教皇自身の考えや意思のようなものが全く感じられなかったからだった。
-すべてを人ごとのように話している。
「教皇も一人の人間ですよね? 教皇個人としては、この国がどうなったら良いと思われているのですか?」
「それは・・・」
微笑みを絶やさなかった教皇の表情が少し引き締まって、タケルの質問に答えようとしていた。
~第17次派遣一日目~
今回の派遣はダイスケが休み(今のところは)になっているので、アキラさん、マユミ、コーヘイとタケルの4名となった。西條は新しい求人を募っているが、派遣に適した人材は中々見つからないようだった。タケルはナカジーにも毎日のようにショートメールを送っているのだが、返事は今のところなかった。あまり送るとストーカーのようになるので、そろそろ諦めた方が良いのかもしれなかった。
今回の派遣も獣人の村とエルフの里を往復しながら現地で修練を積むことにしている。初日はセントレアに来てタケルは教皇と会い、それ以外のメンバーは買い出しに行ってもらった。マリンダもセントレアに連れてきたが、皇都大教会へはタケル一人で向かった。
今日は教皇の、いや教会の考えを聞いておきたかったので、マリンダいない方が率直な話が出来ると思っていたからだ。タケルは南方州の件で教皇のやり方に不満を感じていて、手を打ってもらうように頼むつもりだったから、マリンダ達からすると雲の上の存在である教皇であっても、はっきりと自分の意見を伝えるつもりで来ていた。
皇都大教会はいつものように人で賑わっている。大広間の奥の事務室に行くと、タケルを見つけた責任者の男が奥から小走りに出てきた。
「スタートスの勇者様、お待ちしておりました。教皇からお越しになればすぐにお連れするようにと言いつかっております」
-教皇が? 待っていた・・・
タケルは言われるがままに教皇の部屋まで連れて行かれて中に入ると、教皇は今日もソファーに座ってタケルを黙って見つめた。
-いつも無言なんだよな・・・
勧められなかったが勝手に向かいに座って、タケルも黙って教皇を見つめ返した。
-この人はこの国を一体どうするつもりなんだろうか?
「私が来ると思っていたそうですが、何かお話しがあったのでしょうか?」
「・・・」
教皇は少し笑みを浮かべたようだったが、口を開くことは無かった。
「私たちは南方州へ行って、フィリップ司教とビジョン副司教にお会いしてきました」
「・・・」
「フィリップ司教に土魔法を見せていただいたので、ある程度は使えるようになりました。魔竜と戦う時には土魔法は役に立ちそうです」
黙っていた教皇が、頷いて口を開いた。
「それは良かったです。フィリップはあなた達の事を認めたのでしょう。ですが、昨日も南と西の間で諍いがあり、大勢の武術士が命を落としています」
「えっ!? 死んだ人が居るのですか!?」
「はい、詳しい話はこちらには伝わっていませんが、大勢で乗り込んだ西方州側に死者が多いようです」
セレナ教皇は人ごとのように淡々と話しているが、この国の責任者としての態度とは思えなかった。タケルはいらだち、少し大きな声で教皇を質した。
「それで、教皇はどうするおつもりなんですか? そもそもなんでこんなことに!?」
「私は何もするつもりはありません。こうなったのも全て神のお導きですからね」
「何もするつもりが無いって・・・、国を指導する立場なら、争いを仲裁するのも仕事じゃないんですか!?」
「それは違います。私は神の声を聴いてそれを教会から伝えるのが役割です。私自身が判断をして何かを決めているのではありません」
「そんな・・・、無責任な!」
タケルはセレナの言っていることが全く理解できなかった。国の責任者である以上、この国のあり方を考えるのが仕事のはずだと思っている。
「無責任・・・ですか・・・、なるほど、あなたの考えでは私や教会がこの国を導くべきだと・・・、そう考えているのですね?」
憤るタケルに教皇は淡々と問いかけた。
「もちろんそうです! このドリーミアでは教会が全てを動かしているじゃないですか?教皇が指示を出せば教会の中での争いはすぐに終わるのではないのですか?」
「確かに私が話せば、一旦は争いが収まるかもしれません。ですが、争いは人の心が起こすものです。その心根が変わらなければ同じことがすぐに起こってしまうでしょう。それに・・・、争いも含めて神が導かれているのですよ」
-神が導く? 神が死者を出す争いを? そんなことが!?
「では、神は一体この世界をどうしたいと思っているのですか? 争いを増やして死者を出したいとでも!?」
「神が何をお考えなのかは私にもわかりません。ですが・・・、この世界を変えようとされているのは間違いないでしょう。この国の勇者が幼くして亡くなったのもしかり、あなた方を迎え入れるようにされたのもその一つですからね」
「この世界を変える? どんな風に変えるつもりなのですか?」
「それもわかりません。それを決めるのは全ての人々です。教会の中の人もそれには含まれています」
「ですが、教会や教皇が導かなければ、この国の人たちはどうして良いのか判らないのでは?今までは教会が導いて来たのでしょう!?」
「私たちは神の声を聴き、聖教典の教えを伝えるのが役割です。ですが、私たち自身が意思を持って導いているわけでは無いのです。神が教会を要らないものと判断したのなら、その考えに従うだけです」
-教会が要らない!? この国でそんなことになったら・・・、大変なことに!
「ですが、人々も教会が無くなったら困るのではないですか? 人々を救う事も教会の使命ですよね?」
「それはその通りですが・・・、今までの教会とは違う役割に変わることが神の意思なのかもしれませんね」
教皇と話をしていてタケルは強い違和感を覚えていたが、それは教皇自身の考えや意思のようなものが全く感じられなかったからだった。
-すべてを人ごとのように話している。
「教皇も一人の人間ですよね? 教皇個人としては、この国がどうなったら良いと思われているのですか?」
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