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派遣勇者の進む道
159.南方大教会 フィリップ司教
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■バーン 南方大教会
~第15次派遣4日目~
タケル達は武術士に二階の広い応接間に連れて行かれた。4組の応接セットが置いてあるので、サロンのような役割を果たす場所なのかもしれない。勧められたソファに座って待っていると開けっ放しの扉から白髪の男性がゆっくりと入ってきた。
「お前たちが勇者を名乗る者たちなのか?」
白髪の男はソファの前まで来て、座っているタケルを立ったまま見下ろしている。
「ええ、私はスタートスから来たタケル、こっちは仲間のアキラとリーシャです」
「そうか、私はここの司教を務めるフィリップだ。で、先ほどの雨を降らせたのがお前だと報告があったが、お前は水の魔法が得意なのか?」
フィリップはタケル達の向かいにあるソファに腰を下ろして、訝しげにリーシャの顔を見つめたまま質問を重ねた。
「雨は私が魔法で降らせました。少し空気が乾きすぎていたと思ったので・・・、魔法はどれが得意と言う事もありません。土魔法以外はどの魔法も同じように使えます」
「どの魔法も!?・・・、ふむ、そういえば聖教石が赤くなっているそうだが、みせてもらっても良いか?」
「ええ、どうぞ」
タケルは首にかけていた聖教石を外して目の前のテーブルの上に置いた。
「なるほど・・・、教皇が言っていたことは真であったのか・・・」
フィリップは手に取らずにテーブルの上の聖教石を眺めながら、ため息のようにつぶやいた。眉間には深いしわが刻まれて、困り切ったような表情を浮かべていた。
「それで、今度は土の魔法を覚えたいと思っていたんですが、南方州が封鎖されたのでここまで来るのに時間が掛かってしまいました。転移の間も封印されたんですか?」
「うむ、今は転移の間から聖教石を取り外しているから使えないのだ。それで、どうやって州境を通り抜けたのだ?」
タケルがロードとのやり取りを説明するとフィリップの眉間の皺がさらに深くなった。
「そうか・・・、ロードもお前たちを本物だと認めたのだろうな・・・」
「ロードさんは教会ではどういった役割なのですか?」
「副司教のビジョンに次ぐ教会武術士の責任者だ。炎の魔法剣の達人でもある。その者が戦わずにお前たちを通してしまったと言う事はそういう事なのだろう」
「それで、私たちは土魔法を教えてもらいに来たんですが、教えていただくことは可能ですか?」
「お前は土魔法を覚えてどうするつもりなのだ?」
「それは変な質問ですね? 勇者は魔竜を倒すのが役目ですから、土魔法も魔竜討伐で使うために覚えたいのです。他に目的はありません」
他に目的が無いと言うよりは、そもそも土魔法で何が出来るか判らないから、それを知るところから始めなければならないのだ。
「魔竜討伐か・・・、お前たちは本気なんだな?」
「本気も何も・・・、私たちはそれを使命としてこのドリーミアにサイオンさんが送り込んで来ているわけですからね。使命は果たそうと思っています」
バイトの時給で魔竜討伐と言うのもおかしな話だが、給料をもらっている以上は仕事をするのは当然だとタケルは考えていた。
「うーむ。お前たちのような勇者は・・・、いや、お前たちが本当の勇者ならば、これまでここに来ていた者は違ったのだろうな・・・」
「ここに来ていた勇者は魔竜討伐に真剣では無かったのですか?」
「ああ、一度来ると二回目は来なくなる。皆、食事やトイレに不満があったようだな」
異世界あるあるかもしれない。観光気分でこの仕事を引き受けたなら、3日も居れば嫌になるのは間違いない。
「そうでしたか。でも、私たちはこの世界のあり方を受け入れています。それに、この国の人たちが幸せであることを願っています」
「そうか、それはありがたい言葉だな。我らの幸せか・・・、良し、ならば私が土の魔法を教えてやろう。お前たちは土の魔法についてはどのぐらい知っているのだ?」
「ありがとうございます。でも、私たちは土の魔法については何も知りません。教皇や枢機卿に聞いても南の司教に教えてもらえと・・・」
「なるほど、教皇はお前たちをここに来させたかったのだな。セントレアにも土の魔法士は居る。基本を教えるだけならば事足りたはずだが、あえてセントレアで教えずにここへ来るように仕向けたのだろう・・・」
「教皇が? 何故でしょう?」
「うむ・・・、それはお前と私が会わなければ、私が納得しないことを教皇は理解しておられたのだろうな」
なんとなく、教皇に良いように使われた感じがして釈然としないが、教皇なりに考えがあったのかもしれない。セントレアに行ったら追及させてもらうことにしよう。
「それで、そもそも土の魔法とはどのようなものですか?」
「大地の神ガインの恩恵で土や草木を自在に操る魔法だ。魔法士によっては土を動かしたり、岩を砕いたりするのが得意な者もいれば、草木の成長を助けたりするのが得意な者もいる」
「例えば大地から土の壁を出したりすることも出来ますか?」
「ああ、私ならできるが、かなりの魔法力が必要になって来るな。それでもお前なら・・・」
氷で作る壁も飛び道具相手なら役に立ったが、土の方が大きなものを作れるような気がしていた。それに階段のようなものを作るなら、氷だと滑って危ないかもしれない。
「まあ良い。試してみればすぐにわかる事だ。雨も止んだようだし、修練場へ行ってお前の魔法力を確かめてみよう」
「ええ、是非お願いします。その前に一つお伺いしたいのですが、なぜ州境を閉ざしたのでしょうか? それと、元に戻すつもりはあるのでしょうか?」
「それは・・・、お前たち次第だな。お前達が真の勇者ならば、元のドリーミアに戻ることも出来よう。だが、そうでなければ・・・、新しいやり方で魔竜を討伐せねばならぬ。州境を閉じたのはそのためだ。私だけでなく副司教が納得する力を見せてくれ」
フィリップ司教は思わせぶりなセリフを吐いて、ソファから立ち上がり扉に向かって歩き始めた。
-副司教? ロードも言っていたが、その人物が今回の州境閉鎖に深くかかわっているのだろうか?
~第15次派遣4日目~
タケル達は武術士に二階の広い応接間に連れて行かれた。4組の応接セットが置いてあるので、サロンのような役割を果たす場所なのかもしれない。勧められたソファに座って待っていると開けっ放しの扉から白髪の男性がゆっくりと入ってきた。
「お前たちが勇者を名乗る者たちなのか?」
白髪の男はソファの前まで来て、座っているタケルを立ったまま見下ろしている。
「ええ、私はスタートスから来たタケル、こっちは仲間のアキラとリーシャです」
「そうか、私はここの司教を務めるフィリップだ。で、先ほどの雨を降らせたのがお前だと報告があったが、お前は水の魔法が得意なのか?」
フィリップはタケル達の向かいにあるソファに腰を下ろして、訝しげにリーシャの顔を見つめたまま質問を重ねた。
「雨は私が魔法で降らせました。少し空気が乾きすぎていたと思ったので・・・、魔法はどれが得意と言う事もありません。土魔法以外はどの魔法も同じように使えます」
「どの魔法も!?・・・、ふむ、そういえば聖教石が赤くなっているそうだが、みせてもらっても良いか?」
「ええ、どうぞ」
タケルは首にかけていた聖教石を外して目の前のテーブルの上に置いた。
「なるほど・・・、教皇が言っていたことは真であったのか・・・」
フィリップは手に取らずにテーブルの上の聖教石を眺めながら、ため息のようにつぶやいた。眉間には深いしわが刻まれて、困り切ったような表情を浮かべていた。
「それで、今度は土の魔法を覚えたいと思っていたんですが、南方州が封鎖されたのでここまで来るのに時間が掛かってしまいました。転移の間も封印されたんですか?」
「うむ、今は転移の間から聖教石を取り外しているから使えないのだ。それで、どうやって州境を通り抜けたのだ?」
タケルがロードとのやり取りを説明するとフィリップの眉間の皺がさらに深くなった。
「そうか・・・、ロードもお前たちを本物だと認めたのだろうな・・・」
「ロードさんは教会ではどういった役割なのですか?」
「副司教のビジョンに次ぐ教会武術士の責任者だ。炎の魔法剣の達人でもある。その者が戦わずにお前たちを通してしまったと言う事はそういう事なのだろう」
「それで、私たちは土魔法を教えてもらいに来たんですが、教えていただくことは可能ですか?」
「お前は土魔法を覚えてどうするつもりなのだ?」
「それは変な質問ですね? 勇者は魔竜を倒すのが役目ですから、土魔法も魔竜討伐で使うために覚えたいのです。他に目的はありません」
他に目的が無いと言うよりは、そもそも土魔法で何が出来るか判らないから、それを知るところから始めなければならないのだ。
「魔竜討伐か・・・、お前たちは本気なんだな?」
「本気も何も・・・、私たちはそれを使命としてこのドリーミアにサイオンさんが送り込んで来ているわけですからね。使命は果たそうと思っています」
バイトの時給で魔竜討伐と言うのもおかしな話だが、給料をもらっている以上は仕事をするのは当然だとタケルは考えていた。
「うーむ。お前たちのような勇者は・・・、いや、お前たちが本当の勇者ならば、これまでここに来ていた者は違ったのだろうな・・・」
「ここに来ていた勇者は魔竜討伐に真剣では無かったのですか?」
「ああ、一度来ると二回目は来なくなる。皆、食事やトイレに不満があったようだな」
異世界あるあるかもしれない。観光気分でこの仕事を引き受けたなら、3日も居れば嫌になるのは間違いない。
「そうでしたか。でも、私たちはこの世界のあり方を受け入れています。それに、この国の人たちが幸せであることを願っています」
「そうか、それはありがたい言葉だな。我らの幸せか・・・、良し、ならば私が土の魔法を教えてやろう。お前たちは土の魔法についてはどのぐらい知っているのだ?」
「ありがとうございます。でも、私たちは土の魔法については何も知りません。教皇や枢機卿に聞いても南の司教に教えてもらえと・・・」
「なるほど、教皇はお前たちをここに来させたかったのだな。セントレアにも土の魔法士は居る。基本を教えるだけならば事足りたはずだが、あえてセントレアで教えずにここへ来るように仕向けたのだろう・・・」
「教皇が? 何故でしょう?」
「うむ・・・、それはお前と私が会わなければ、私が納得しないことを教皇は理解しておられたのだろうな」
なんとなく、教皇に良いように使われた感じがして釈然としないが、教皇なりに考えがあったのかもしれない。セントレアに行ったら追及させてもらうことにしよう。
「それで、そもそも土の魔法とはどのようなものですか?」
「大地の神ガインの恩恵で土や草木を自在に操る魔法だ。魔法士によっては土を動かしたり、岩を砕いたりするのが得意な者もいれば、草木の成長を助けたりするのが得意な者もいる」
「例えば大地から土の壁を出したりすることも出来ますか?」
「ああ、私ならできるが、かなりの魔法力が必要になって来るな。それでもお前なら・・・」
氷で作る壁も飛び道具相手なら役に立ったが、土の方が大きなものを作れるような気がしていた。それに階段のようなものを作るなら、氷だと滑って危ないかもしれない。
「まあ良い。試してみればすぐにわかる事だ。雨も止んだようだし、修練場へ行ってお前の魔法力を確かめてみよう」
「ええ、是非お願いします。その前に一つお伺いしたいのですが、なぜ州境を閉ざしたのでしょうか? それと、元に戻すつもりはあるのでしょうか?」
「それは・・・、お前たち次第だな。お前達が真の勇者ならば、元のドリーミアに戻ることも出来よう。だが、そうでなければ・・・、新しいやり方で魔竜を討伐せねばならぬ。州境を閉じたのはそのためだ。私だけでなく副司教が納得する力を見せてくれ」
フィリップ司教は思わせぶりなセリフを吐いて、ソファから立ち上がり扉に向かって歩き始めた。
-副司教? ロードも言っていたが、その人物が今回の州境閉鎖に深くかかわっているのだろうか?
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