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派遣勇者の進む道
155.南方州へ (2)
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■シモーヌ川
~第14次派遣1日目~
川を下る船旅は退屈だった。代わり映えのしない畑が延々と続いて行く景色を眺めても中々時間は過ぎない。敷皮の上で昼寝をしても、すぐに目が覚めてしまった。タケル以外のメンバーも同じようだったが、アキラさんはゆっくりと寝ているようだ。
ダイスケの時計で14時を過ぎたころにようやくチタの町に到着して積み荷を全部下した。ここから先は運ぶ荷物は無く、タケル達だけを運んで行くことになっている。船頭が言うには2時間ほど下ると桟橋は無いが岸に着けて降りられる場所があるので、そこで降りる予定にしていた。
少し急がないと想定している場所に日没までにたどり着けないかもしれない。
「船頭さん、帆を張ってもらえないでしょうか?」
「いやぁ、今は向かい風だから帆は張らねえよぉ」
気の良さそうな船頭はニッコリ笑いながら首を横に振っている。タケルが素人で判らずに言っていると思ったのだろう。タケルも笑顔を向けながら精霊の腕輪に触って、船の後ろから吹く強い風をイメージした。
突然、髪の毛がなびくほどの風が後ろから吹き始めた。船頭と船員は驚いて船の後方をみている。
「こ、これは!?」
「もう少し弱い風になりますけど、到着するまで吹き続けますから、帆を張ってください」
「わ、わかったよ」
船頭たちは何が起こったかは判らずに怯えながら、ローブで滑車にぶら下がっていた帆を引っ張り上げた。
タケルは少し風を抑えて、同じ強さの風が船を運んで行くイメージを頭の中で描く。精霊の腕輪は風を操ると言う感覚よりは空気を動かしている感覚でイメージした方が伝わりやすいようだった。今は、船の周りの空気が川下に向かって移動している。
加速した船は2時間の予定を30分ほどで上陸ポイントまで着くことが出来た。足場の悪い岸辺にコーヘイが先に降りてくれて人数分の荷物を降ろした。全員リュックを背負って、敷皮や食べ物を入れている。タケルはそれに加えて、聖教石を多めに持って来ていた。今回の旅は1日では終わらないから、何度も転移ポイントを作って行くことになる予定だったが、ポイントは回収せずに残しておくつもりだ。道中で何があるかわからないので中間地点に戻りたくなる可能性も考慮していた。
船頭に礼を言い、岸から手を振って船を見送った。風は本来の下流から上流に向かって吹く風になっているので、今日は楽に上流へ戻ることが出来るはずだった。
「じゃあ、ここから荒れ地を西に歩くと街道があるはずだから、まずは街道を目指そう」
岸辺から土手を上がって西の方を見ると耕されていない荒れ地が続いている。コンパスの示す方向だけを頼りに西へ向かって歩き始めた。
「いやぁー、でも、のどかと言うか、退屈な船旅でしたね」
「だけど、楽なのはここまでだよ。ここからは三日間歩きと馬車だからね。コーへイは長い時間の馬車に乗ったことないんじゃないの?」
「ええ、ゲイルで少し荷馬車の荷台に乗せてもらった程度ですね」
「馬車はねぇ、楽だけど体が痛くなるからね、サスペンションとかが無いから、路面の凸凹は全て体で吸収しないといけない」
「マジッすか。結構大変なんですね」
ドリーミアでの移動は馬車か徒歩が基本だ。旅をすると言うのは現世のように甘いものでは無かった。転移魔法が使えるから夜は違う場所で寝ることが出来るが、本来なら馬車と野宿で過ごさなければ州を越えた移動はできないのだ。
比較的歩きやすかった荒れ地を30分ほど進むと街道に合流した。だが、街道には人も馬車も全く通る気配が無かった。南に進んだ先で検問があるためにこの街道を通る人間が殆どいなくなっているのだろう。
「リーシャの目は遠くまで見えるよね?」
「遠くまで? ああ、お前たちよりは良く見えるかもしれないな。狩りをするためには良い目と良い耳が必要だからな」
「じゃあ、先頭を歩いて街道の先に人や物が見えたらすぐに教えてよ」
「わかった。お前の言う通りにしよう」
リーシャと並んで街道を日暮れまで歩いたが、残念ながら検問のある場所まではたどり着くことが出来なかった。タケルは街道から少し入った場所に転移ポイントを作ってスタートスに帰ることにした。
予定より歩けていないのかもしれないが、夜に移動すると検問でトラブルになる可能性が高い。
「じゃあ、続きは明日の日の出とともにこの場所から」
タケルは4人と自分に言い聞かせて、スタートスに戻った。
§
翌朝は宣言通り、日の出とともに街道を南に向かって歩き始めた。30分も行かないうちに、リーシャが前方に小屋があるのを見つけてくれた。
「小屋と街道に柵のようなものを立てているな。人も何人か周りに立っている」
リーシャが教えてくれた場所に何かがあるのはタケルにも見えていたが、建物や人の区別は出来なかった。やはり、エルフの視力はタケル達よりも随分と良いようだ。
近づいて行くと、リーシャの言った小屋が街道の横に立っていて、その前と街道の柵に居る男達がタケル達を見ているのが判った。
-歩いてここまで来る人間は不審者だと思っているのだろう。
10メートルぐらいの距離まで近づくと、街道に立っている3人の男から誰何された。
「お前たちは何者だ? まさか、南方州へは入れないことを知ら無い訳ではあるまい」
真ん中の背の低い、がっしりした体格の男が鋭いまなざしでタケル達を見ている。服装は強化武術士のそれだから、ブラックモア達と同類なのだろう。
タケルは更に近づいてから、真ん中の男に向かって話し始めた。
「私はスタートスの勇者タケルです。枢機卿の証明書がありますので、確認をお願いします」
背中のリュックから書状を取り出して男に手渡した。渡された男は書状を見て複雑な表情を浮かべた。
「確かに、書状は本物のようだな。だが、お前たちが勇者だと言う証にはならん。どこかで書状を奪っただけかもしれないからな。それに・・・、スタートスの勇者がなぜここに?」
「私は南方大教会の司教に土の魔法を教わりたいのです」
「土の魔法? 何のために土魔法を覚えるのだ?」
-何のため? 勇者の目的は一つのはずだが?
「それはもちろん、魔竜討伐に役立てるためですよ」
「魔竜討伐!? 本気で言っているのか?」
-本気でって、むしろ勇者として派遣したのは教会なんですけど!
「ええ、本気ですよ。教皇とも話しましたが土魔法を教わるなら南に行けと言われました」
「教皇様と! ・・・本当にお会いしたのか?」
「ええ、最近3回お会いしました」
「3回も・・・、ふむ。良いだろう、お前たちが本当に勇者ならここを通してやろう」
-あれ? このくだりは前にも会ったパターンでは?
「ただし、お前たちが勇者の力を見せることが出来たらだ!」
-やっぱりそうですか・・・
「良いですけど、何をすれば良いですか?」
「魔法が少しは使えるのか?」
「ええ、少しですけどね。マユミ、頭上に5メートルぐらいの火球を出してよ」
「任せてチョーだい! -ファイア!-」
マユミが腰に差していたロッドを抜いて叫ぶと巨大な炎が頭上に浮かんだ。タケル達を囲んでいた教会の人間は炎を見上げて呆然としていた。
「じゃあ、今度は水の魔法を私が・・・ -ウォーター-」
「ワァアッ! お前たちは本当に!?」
炎と同じぐらいの巨大な水球をタケルが並べると、ようやく目の前の男は本物だと納得してくれたようだ。
「ええ、本当に勇者ですよ。このぐらいの魔法なら彼女は10日もかからずに使えるようになっていますからね」
「10日!? 我らは一生かかってもあの大きさは・・・」
「ご納得いただけましたか? 私たちは南の司教に会いたいだけです。他の目的はありませんから」
「あ、ああ。判った。通って良いが、俺が通行証を発行してやるから待っていろ。この先にも何か所か検問があるからな」
男は両側の二人の男に小さくうなずいて、小屋の方に歩いて行った。意外と物分かりが良い門番で良かったとタケルが思っていると、リーシャがタケルの傍によって来て、小声でささやいた。
「後ろに3人回り込んできたぞ。我らを捕らえるつもりだ」
リーシャの方を振り返って後ろを見ると、確かに剣を腰に差した男達がいつの間にか離れた場所に立っていた。男が向かった小屋からも5人の男が現れた。
なるほど、力を見せても納得しなかったのか・・・、むしろ危険だと判断されたのかもしれないな。タケルは戦いになることを覚悟して、コーヘイとアキラさんを見ると二人はマユミを守れる場所へ立ち位置を変えていた。
「お前たちの力は判ったが、通行証を出すためには、もう少し詳しく話を聞く必要がある。大人しく小屋の中に入ってもらえるか?」
話していた男は小屋から出てきた5人を連れて戻って来て、タケル達を前から囲もうとしている。
やはり、話し合いで納得してもらうのは難しいのか・・・、タケルは残念な気持ちを持ちながら精霊の腕輪を握った・・・。
~第14次派遣1日目~
川を下る船旅は退屈だった。代わり映えのしない畑が延々と続いて行く景色を眺めても中々時間は過ぎない。敷皮の上で昼寝をしても、すぐに目が覚めてしまった。タケル以外のメンバーも同じようだったが、アキラさんはゆっくりと寝ているようだ。
ダイスケの時計で14時を過ぎたころにようやくチタの町に到着して積み荷を全部下した。ここから先は運ぶ荷物は無く、タケル達だけを運んで行くことになっている。船頭が言うには2時間ほど下ると桟橋は無いが岸に着けて降りられる場所があるので、そこで降りる予定にしていた。
少し急がないと想定している場所に日没までにたどり着けないかもしれない。
「船頭さん、帆を張ってもらえないでしょうか?」
「いやぁ、今は向かい風だから帆は張らねえよぉ」
気の良さそうな船頭はニッコリ笑いながら首を横に振っている。タケルが素人で判らずに言っていると思ったのだろう。タケルも笑顔を向けながら精霊の腕輪に触って、船の後ろから吹く強い風をイメージした。
突然、髪の毛がなびくほどの風が後ろから吹き始めた。船頭と船員は驚いて船の後方をみている。
「こ、これは!?」
「もう少し弱い風になりますけど、到着するまで吹き続けますから、帆を張ってください」
「わ、わかったよ」
船頭たちは何が起こったかは判らずに怯えながら、ローブで滑車にぶら下がっていた帆を引っ張り上げた。
タケルは少し風を抑えて、同じ強さの風が船を運んで行くイメージを頭の中で描く。精霊の腕輪は風を操ると言う感覚よりは空気を動かしている感覚でイメージした方が伝わりやすいようだった。今は、船の周りの空気が川下に向かって移動している。
加速した船は2時間の予定を30分ほどで上陸ポイントまで着くことが出来た。足場の悪い岸辺にコーヘイが先に降りてくれて人数分の荷物を降ろした。全員リュックを背負って、敷皮や食べ物を入れている。タケルはそれに加えて、聖教石を多めに持って来ていた。今回の旅は1日では終わらないから、何度も転移ポイントを作って行くことになる予定だったが、ポイントは回収せずに残しておくつもりだ。道中で何があるかわからないので中間地点に戻りたくなる可能性も考慮していた。
船頭に礼を言い、岸から手を振って船を見送った。風は本来の下流から上流に向かって吹く風になっているので、今日は楽に上流へ戻ることが出来るはずだった。
「じゃあ、ここから荒れ地を西に歩くと街道があるはずだから、まずは街道を目指そう」
岸辺から土手を上がって西の方を見ると耕されていない荒れ地が続いている。コンパスの示す方向だけを頼りに西へ向かって歩き始めた。
「いやぁー、でも、のどかと言うか、退屈な船旅でしたね」
「だけど、楽なのはここまでだよ。ここからは三日間歩きと馬車だからね。コーへイは長い時間の馬車に乗ったことないんじゃないの?」
「ええ、ゲイルで少し荷馬車の荷台に乗せてもらった程度ですね」
「馬車はねぇ、楽だけど体が痛くなるからね、サスペンションとかが無いから、路面の凸凹は全て体で吸収しないといけない」
「マジッすか。結構大変なんですね」
ドリーミアでの移動は馬車か徒歩が基本だ。旅をすると言うのは現世のように甘いものでは無かった。転移魔法が使えるから夜は違う場所で寝ることが出来るが、本来なら馬車と野宿で過ごさなければ州を越えた移動はできないのだ。
比較的歩きやすかった荒れ地を30分ほど進むと街道に合流した。だが、街道には人も馬車も全く通る気配が無かった。南に進んだ先で検問があるためにこの街道を通る人間が殆どいなくなっているのだろう。
「リーシャの目は遠くまで見えるよね?」
「遠くまで? ああ、お前たちよりは良く見えるかもしれないな。狩りをするためには良い目と良い耳が必要だからな」
「じゃあ、先頭を歩いて街道の先に人や物が見えたらすぐに教えてよ」
「わかった。お前の言う通りにしよう」
リーシャと並んで街道を日暮れまで歩いたが、残念ながら検問のある場所まではたどり着くことが出来なかった。タケルは街道から少し入った場所に転移ポイントを作ってスタートスに帰ることにした。
予定より歩けていないのかもしれないが、夜に移動すると検問でトラブルになる可能性が高い。
「じゃあ、続きは明日の日の出とともにこの場所から」
タケルは4人と自分に言い聞かせて、スタートスに戻った。
§
翌朝は宣言通り、日の出とともに街道を南に向かって歩き始めた。30分も行かないうちに、リーシャが前方に小屋があるのを見つけてくれた。
「小屋と街道に柵のようなものを立てているな。人も何人か周りに立っている」
リーシャが教えてくれた場所に何かがあるのはタケルにも見えていたが、建物や人の区別は出来なかった。やはり、エルフの視力はタケル達よりも随分と良いようだ。
近づいて行くと、リーシャの言った小屋が街道の横に立っていて、その前と街道の柵に居る男達がタケル達を見ているのが判った。
-歩いてここまで来る人間は不審者だと思っているのだろう。
10メートルぐらいの距離まで近づくと、街道に立っている3人の男から誰何された。
「お前たちは何者だ? まさか、南方州へは入れないことを知ら無い訳ではあるまい」
真ん中の背の低い、がっしりした体格の男が鋭いまなざしでタケル達を見ている。服装は強化武術士のそれだから、ブラックモア達と同類なのだろう。
タケルは更に近づいてから、真ん中の男に向かって話し始めた。
「私はスタートスの勇者タケルです。枢機卿の証明書がありますので、確認をお願いします」
背中のリュックから書状を取り出して男に手渡した。渡された男は書状を見て複雑な表情を浮かべた。
「確かに、書状は本物のようだな。だが、お前たちが勇者だと言う証にはならん。どこかで書状を奪っただけかもしれないからな。それに・・・、スタートスの勇者がなぜここに?」
「私は南方大教会の司教に土の魔法を教わりたいのです」
「土の魔法? 何のために土魔法を覚えるのだ?」
-何のため? 勇者の目的は一つのはずだが?
「それはもちろん、魔竜討伐に役立てるためですよ」
「魔竜討伐!? 本気で言っているのか?」
-本気でって、むしろ勇者として派遣したのは教会なんですけど!
「ええ、本気ですよ。教皇とも話しましたが土魔法を教わるなら南に行けと言われました」
「教皇様と! ・・・本当にお会いしたのか?」
「ええ、最近3回お会いしました」
「3回も・・・、ふむ。良いだろう、お前たちが本当に勇者ならここを通してやろう」
-あれ? このくだりは前にも会ったパターンでは?
「ただし、お前たちが勇者の力を見せることが出来たらだ!」
-やっぱりそうですか・・・
「良いですけど、何をすれば良いですか?」
「魔法が少しは使えるのか?」
「ええ、少しですけどね。マユミ、頭上に5メートルぐらいの火球を出してよ」
「任せてチョーだい! -ファイア!-」
マユミが腰に差していたロッドを抜いて叫ぶと巨大な炎が頭上に浮かんだ。タケル達を囲んでいた教会の人間は炎を見上げて呆然としていた。
「じゃあ、今度は水の魔法を私が・・・ -ウォーター-」
「ワァアッ! お前たちは本当に!?」
炎と同じぐらいの巨大な水球をタケルが並べると、ようやく目の前の男は本物だと納得してくれたようだ。
「ええ、本当に勇者ですよ。このぐらいの魔法なら彼女は10日もかからずに使えるようになっていますからね」
「10日!? 我らは一生かかってもあの大きさは・・・」
「ご納得いただけましたか? 私たちは南の司教に会いたいだけです。他の目的はありませんから」
「あ、ああ。判った。通って良いが、俺が通行証を発行してやるから待っていろ。この先にも何か所か検問があるからな」
男は両側の二人の男に小さくうなずいて、小屋の方に歩いて行った。意外と物分かりが良い門番で良かったとタケルが思っていると、リーシャがタケルの傍によって来て、小声でささやいた。
「後ろに3人回り込んできたぞ。我らを捕らえるつもりだ」
リーシャの方を振り返って後ろを見ると、確かに剣を腰に差した男達がいつの間にか離れた場所に立っていた。男が向かった小屋からも5人の男が現れた。
なるほど、力を見せても納得しなかったのか・・・、むしろ危険だと判断されたのかもしれないな。タケルは戦いになることを覚悟して、コーヘイとアキラさんを見ると二人はマユミを守れる場所へ立ち位置を変えていた。
「お前たちの力は判ったが、通行証を出すためには、もう少し詳しく話を聞く必要がある。大人しく小屋の中に入ってもらえるか?」
話していた男は小屋から出てきた5人を連れて戻って来て、タケル達を前から囲もうとしている。
やはり、話し合いで納得してもらうのは難しいのか・・・、タケルは残念な気持ちを持ちながら精霊の腕輪を握った・・・。
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※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
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