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派遣勇者の進む道

150.選ばれし者

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■風の谷 
 ~第13次派遣3日目~

 今朝はコーヘイ達3人とリーシャをムーアに送ってから、マリンダを連れてエルフの里にやって来た。コーヘイ達には獣人の村へ持っていく物の買い出しを頼んである。今日は食材を中心にレンブラントの倉庫に持って行ってもらう予定だった。

 マリンダを連れてきたのは・・・、誤解?を解くためだ。エルフの里へは遊びに来て居る訳ではないのだから、冷たい目で見るのはやめてほしかった。一緒に来てくれれば、リーシャに対してあらぬ疑念を抱くことも無いだろうと思っていた。

 ノックス司祭もマリンダが同行することを快諾してくれて、マリンダも素直に喜んでくれたから、良かったと思っていたのだが・・・。

「タケル様、この里は女性が多いのではないでしょうか?」

 いつものように里の女エルフ達がサトルを笑顔で迎えてくれたのを見て、マリンダが眉を寄せていた。

「あ、ああ、そうらしいよ。男性よりも女性の方が多いんだって」
「それに、若くて・・・」
「いや、それはそうでもないよ。リーシャの歳も200歳は超えているそうだからね」
「いつまでも、若くいられると言う事ですね・・・」

 -なるほど! 確かに!

 マリンダが余計なことを考えないようにノルドの小屋へと急いだ。小屋の近くまで来ると中から金槌を振るう音が外にまで聞えてくる。心地よいリズムが静かな森の中に響いている。扉を開けて中を覗くと、ノルドがすぐに気が付いてタケルの方を見た。

「少し待っておれ、切りの良いところまで叩いておく」
「はい、ここで待っています」

 タケル達は静かに作業小屋に入ってノルドの鍛冶仕事を見ることにした。ノルドは金槌とやっとこを器用に使いながら、細かいリズムで角度を変えながら叩き続けて行く。叩いている真っ赤なものはタケルが頼んだ山刀のようだった。炉の中に戻して熱してから叩く作業を何度も繰り返しながら、ようやく満足のいく形になったのか、山刀を炉に近い台の上に置いて木の椅子から立ち上がった。

「待たせたな、では行こう」
「あの山刀はあのままで良いんですか?」
「ああ、あのまま熱が落ちるのを待って、もう一度叩くのじゃ」

 詳しくは知らないが、鉄の粘りや強度を上げるためのプロセスでそんなのがあったような気がしてきた。

「ノルドさん、こちらは私がお世話になっている教会の方です」
「マリンダと言います。よろしくお願いします」
「うむ、そうか」

 ノルドは何も言わずにマリンダの顔をみつめていた。タケル達と最初に会った時も中々口を開かなかったので、ノルドは人見知りをするのかもしれないとタケルは思った。

「じゃあ、行きますか?」
「うむ、わしが案内しよう」

 コンパスによると北の方に行けば良いはずだが、地元民に任せた方が確実だ。ノルドは小屋を出て森の中を滑らかに歩いて行く、年齢による衰えなどは全く感じさせない。むしろ、タケルとマリンダはノルドのペースについて行くのがやっとで、森を抜けて谷の入り口に着いたときには二人の息が上がっていた。

 森を抜けると足元の草が無くなって、ようやくノルドの横に並んで歩けるようになった。

「ノルドさん、この谷には良く来ていたのですか?」
「うむ、それほど数が多い訳ではない。季節が変わる前に来ておった程度じゃ」
「昔の魔竜を討伐するときにも風の精霊は力を貸してくれたんですよね?」
「ああ、わしらの戦士も一緒に戦っておったからな・・・、時にリーシャは一緒に来なかったのか?」
「はい、今日は町を見てもらおうと思って他の仲間と一緒にムーアの町に居ます」
「そうか・・・」

 ノルドは何か気になることがあるようだったが、それっきり口を噤んだ。タケルも気になったが、ピラミッド状に積まれた場所に着いたのでノルドとの会話を打ち切り、ブーンに声を掛けた。

「ブーンさん、エルフの長と一緒に来ましたよ」

 ブーンは子供の姿でふわりとノルドの前に浮かんで現れた。

 -久しぶりだね。里のみんなは元気なの?
「いや、前に会った時よりは活気が無くなっておった」
 -外の人と離れて暮らすことを望んだのを後悔している?
「後悔はしておらんが、霧が晴れてうれしくは思っておる」

 ブーンはタケルとノルドの頭の中に直接話しかけ、ノルドは声に出して返事をしている。マリンダが怪訝な顔をしているから、ひょっとするとブーンの声が聞えていないのかもしれない。

「ブーンさん、今日は教会で世話になっているマリンダさんも一緒に来ています。マリンダさんにはブーンさんの声は届かないのでしょうか?」
 -うん、聞こえないし、見えないはずだ。彼女は選ばれていないから。

「選ばれると言うのは?」
 -神の声が聞える人っていう事だよ。

 -選ばれたのには理由があるんだ。僕の風の力でも、魔の力が払えなくなってきている。
「魔竜の復活が近いんですか!?」
 -それは・・・、判らない。だけど、人と森の民が力を合わせなければならない。
「無論じゃ、わしらはこのタケルのために力を貸すつもりじゃ」
 -うん、腕輪を見たから、君たちの気持ちは判ってるよ。
「私も、エルフの皆さんと一緒に魔竜を倒すつもりです」
 -それもわかっているよ。だから、神は君たちを選んだんだ。魔の力を打ち払うには人と人ならざる者の力を合わせる必要があるんだよ。
「具体的にはどうしたらよいのでしょうか? それに魔竜とはどのような物なのでしょうか?」

 タケルは最初から疑問に思っていて、いまだに解決できていない根本的な質問をした。

 -それは・・・、判らない。君が旅をすればその答えは見つかるはずだ。

 旅? ヒメも俺の旅を手伝うと言っていたが・・・、南への遠征の事だろうか?

「南方州への旅の事でしょうか?」

 -さあ? だけど、君は自分の信じた通りにやれば神はその手助けをするよ。

 やはり、答えはもらえない。いまだに魔竜が何か、いつ、どこに復活するのは謎のままだ。旅・・・、魔竜を見つけること自体が旅なのか?
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