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派遣勇者の進む道

145.エルフの自立

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■皇都セントレア 
  ~第13次派遣1日目~

 タケル達は来たときと同じ手順で皇都セントレアまで戻って来た。途中のスタートスではタケルとアキラさんが持参してきている焼酎を忘れずにリュックへ入れた。セントレアでは大量の肉と野菜や酒のほかにも、バーベキュー用の焼き網を5枚ほど追加で買っておく。

 買物の後にメンバーの3人をエルフの里まで送ってから、タケルは一人でセントレアに戻って来た。皆には宴会の準備をしてもらって、その間に教皇と面談をするためだった。大教会の事務室に行くと顔を覚えてもらっているようで、すぐに応接室へ通されたが、しばらく待っていてほしいと言われて、所在なさげに硬い長椅子に座っていた。

 -ヒメ? 俺の傍にいるんだよね? 頭の中で話しができるかな?
 -はい、いつもそばにいますよ。

 時間を持て余したので、頭の中でヒメに話しかけると会話が成立した。口に出さなくても通じるなら、もっと早く言って欲しいものだ。

 -ヒメは水の神の使いなんだよね? やっぱり水の魔法が使えるの?
 -人が使う魔法とは異なりますが、神の恩恵を実現することが出来ます。
 -じゃあ、雨を降らせたりもできるの?
 -もちろんできます。大雨にすることも出来ます。
 -氷も作れるの?
 -氷も雪も作れますよ。
 -魔獣と戦ったりもしてくれる?
 -もちろんです、私はタケルの願いをすべて叶えます。
 -それは・・・、ありがとう。 また後でね
 -はい。

 教会士がタケルを迎えに来てくれたので、無言の会話を終了させて応接室を後にして教皇の部屋に向かった。部屋に入ると教皇はいつもの微妙な笑顔を浮かべてタケルを座ったまま迎えてくれた。今日も座るように促したまま、30秒ほど見つめた後に口を開いた。

「なるほど、結界の外に出たのですね。獣の人々はどうしていましたか?」
「ええ、かなり苦労しているようでした・・・」

 タケルは鉄や工具等がないために生活水準が低下している事と、見たことのない魔獣が増ええていることを教皇に伝えた。

「そうでしたか・・・、彼の者たちは結界を解いてほしいと言っていましたか?」
「いえ、彼らはそれが出来るとは思っていないので、その話はしていません」
「あなたはどう考えているのですか?」
「私は・・・、やはり結界は解いた方が良いと思います。彼らには私たち人間と共存できるだけの知性や分別があると思いますので」

 教皇はタケルの返事を聞いて小首を傾げたが、何も言わずに黙って見ていた。

「それで、結界の外にはどうやって出たのですか?」
「ええ、その事なんですが・・・、ヒメ、姿を見せてくれる?」

 ヒメはソファーに座っているタケルの横に突然現れた。だが、教皇は驚く表情も見せずに笑みを浮かべてじっと見ている。

「これが精霊の加護なのですね・・・」
「ええ、たぶんそういう事だと思います。水の神様の使いだと聞いていますが、私たちを結界の外側にあった獣人の村まで導いてくれました」
「神はあなたに判断を委ねたのでしょうね」
「私に判断を?」
「ええ、あなたを結界の外に送り、その目で確かめてもらったのでしょう」

 -神が俺に? 話のスケールが大きくなってきた。

「では、教皇は結界を解いてくださるのでしょうか?」
「私はまだその時ではないと思っています。ですが、いずれは・・・」

 ■エルフの里

 タケルは皇都大教会からパパスの小屋へ寄って、パパスと一緒にエルフの里に転移してきた。

「ノルドさんとは仲良くしてくれたんですか?」
「勿論だ! 神様相手に仲良くっていうのも変だが、毎日一緒に小屋で鍛冶仕事をさせてもらったぜ。夜も毎晩が酒盛りだしな」
「やっぱり、ノルドさんは鍛冶の神様なんですか?」
「ああ、凄いぞ。神様が炉の前に座ると中で炎が自在に踊るんだ。最高の温度で打ち始めて完璧に仕上げて行く」

 タケルには判らないが、名工と言われるパパスが言うのだから凄いのだろう。

「この間は時間が無くてお礼も出来なかったので、今日はエルフの里でたっぷり飲んでください。酒も肉もたっぷりと買ってきましたから」
「そいつは楽しみだ!」

 里の広場では大量の肉と野菜が準備されていて、バーベキューの網も5か所で火がついている。既に飲み始めている人たちもいたが、いつものしきたり通りに乾杯が必要だった。

「では、無事に精霊の腕輪が完成したことを祝してカンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」

 エルフ達もタケルの発声に合わせて、大きく声を上げてカップをぶつけてくれている。乾杯の文化はエルフにも定着するかもしれない。

 タケルはノルドが飲んでいる横に座って、渡された腕輪を眺めていた。腕輪は薄く延ばされた金属を丸く曲げたもので、表面には草のつるのような模様が細かく彫り込まれている。綺麗に磨きあがられた腕輪は、たき火の光を受けて赤く光っているように見えた。

「腕輪の使い方は自分で考えるんでしょうか?」
「うむ、風の谷へ行けば精霊が教えてくれるはずじゃ」

 -魔法と同じで大雑把な説明だが、信じれば力を貸してくれるのだろう。

「以前にも作ったことがあるんですよね?」
「ある。もう何年前かも覚えておらんがな」
「その腕輪は誰が使っていたんですか?」
「大昔の戦士じゃ。その時はお前たちのように我らも魔竜と戦っておったのじゃ」
「それは、人間と一緒に戦ったと言う事ですか!?」
「そうじゃ、その時は人との間に諍いは無かったのでな」

 -昔は共闘していたのに、何処で諍いが始まったんだろう?

「どうして、人との間で争うようになったんでしょうか?」
「もはや、あいまいじゃが・・・、些細なことからであろう。種が違う事でお互いを蔑むものがおれば口論になり、それが段々と激しくなり、お互いを傷つけて行く・・・」

 -現世でもある話だ。人種や宗教上の対立からやがて戦争に・・・

「これからは、そういう事が無い世界にしたいですね。ところで、ノルドさんは獣の顔をした人について聞いたことがありますか?」
「南の方で暮らす者たちの事じゃな? 会ったことは無いが、お前たちともめ事を起こしていると聞いておった。我らが結界の中に閉じ込められる前に、南でも激しい戦いになっていたと聞いた」

「獣人達が住む村も結界で霧の向こうにあったんですけど、神の思し召しで行けるようになりました」
「そうなのか? して、獣の人はどのように暮らしておった?」
「鉄や道具が不足して暮らしていくのが大変になっています」
「やはり、そうであったのか」

 ノルドが皺だらけの顔を曇らせた。

「ここも道具は不足していたんですか?」
「うむ、鍛冶仕事をするにしても鉱石が無ければ何もできん。それでも、古い物を加工することが出来るから、何とかなってはおったが。いずれはそれも終わりが来る」
「この村で不足しているのは何でしょうか?」
「布と鉱石じゃな。鉱石さえあれば、どんな道具も作れる。それに布は森の中では綿が無いので作ることが出来なかったんじゃ」
「わかりました、鉱石と布をたくさん持ってきましょう。風の腕輪のお礼です」

 霧の結界が無くなったとはいえ、人間との交易はすぐには復活しないだろう。当面は物資の支援をして生活を支えてやりたいが、永遠と言うわけにもいかない。

「ありがたい話じゃが、無理はせんでよい。腕輪はわし等からの礼じゃからな」
「いえ、その代わりにお願いがあります」
「なんじゃ?」
「皆さんが作ったものを私が外の世界に売ってきますから、色々作ってほしいんです」
「何を作ればよいのじゃ?」
「ノルドさん達は武器を作るのが得意なんでしょうか?」
「うむ、それはそうじゃが、外の者に武器を売るのは気乗りがせん」
「だったら、よく切れる包丁とか? 大工道具はどうでしょうか? 鉱石は私が持ってきますから、皆さんはそれで道具を作る。売ったお金で布や食料品を買えば、この村も豊かになるはずです」
「ふむ、お前がそう言うならそうなのであろう。鉱石があればいくらでも作ってやろう。その代わりに・・・」

 ノルドはそう言ってカップの焼酎を飲み干してタケルに差し出した。

「また、一緒に此処で酒を飲む約束をしてくれ」

 タケルは出されたカップに一升瓶で焼酎を並々と注いだ。

「もちろんです。この酒を持って何度も来ますよ」

 ノルドはカップの酒をあおって笑みを浮かべている。タケルは気の良いエルフ達が自立できるようにしておきたかった。金があるから物を与えることも出来るが、人間と同じ国で生活するためには交易が必要だ。

 エルフの技術をこの国に伝えて認知させる。そうすれば人間との諍いも減るはずだ。
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