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派遣勇者の進む道

141.トカゲ退治

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■獣人の村 
 ~第12次派遣3日目~

 獣人達が必死でこっちに走って来るのが見えている。タケル走りづらい密林の下草を槍で払いのけながら、50メートル程向こうの獣人達へ懸命に駆け寄った。だが、黒い影が突然獣人達にかかったと思ったとたん、大きな翼で羽ばたく翼竜の口に後ろを走っていた獣人が咥えられた。

 まだ30メートル以上離れているから、ファイアランスでは届かないか、間違って獣人を殺してしまう。

 -風の神よ、強い力をお貸しください。

「ウィンド!」

 タケルは走りながら槍を真っすぐ翼竜の翼に向けて突き出す。突風が槍から迸り、翼竜の開いた翼に叩きつけられた。翼竜はバランスを崩して、密林の木に翼と体をぶつけながら、もう一度飛び上がろうとしているが、咥えた獣人はまだ離していない。

 -ウィン様、もう一発、お願いします!

「ウィンド!」

 槍からの突風は翼竜の胴体に叩きこまれ、大きく息を吐き出して獣人を口から離した。更に近寄って、とどめを刺そうとした時に後ろから声が聞えた。

「危ない! 左!」

 タケルが左を見るのとトカゲの口から炎が噴き出すのがほぼ同時だった。伸びてくる炎を左手でかばいながら、横っ飛びにかわそうとしたが、左腕に炎を浴びてしまった。二の腕の外側全体に激痛が広がる。服に燃え移るほどでは無かったが、焦げ臭い匂いが自分からしているのが判る。地面を転がりながら、トカゲの方を見るとコーヘイが走り込んで首をはねている。翼竜は既に上空へ舞い上がろうとしていた。タケルは周りを警戒しながら、左腕の状態を確認したが軽いやけどのようだった。

「癒しの光を!」

 自分の治療魔法で祈りを捧げるとすぐに痛みは治まった。コーヘイを見ると、あと1匹残っていたトカゲの炎をかわしながら、切り込もうとしている。

「アイスバレット!」

 水のロッドで氷塊をトカゲの胴体に叩き込むと、こちらを向いたトカゲの首がコーヘイの刀で綺麗に落ちるのが見えた。

「大丈夫ですか!?」
「ああ、俺は大丈夫だけど、獣人を見に行かないと」

 タケルは地面に落とされた獣人に駆け寄った。肩から胴体にかけて大きな切り傷がたくさんあって大量に出血している。まだ息はあるが意識を失っていた。

「癒しの光を!」

 タケルは治療用ロッドを使って、アシーネ様へ祈りを捧げた。いつもの温かい空気が獣人に向かって流れて行く。獣人の出血が止まって、口から唸り声のようなつぶやきが漏れてきた。

「どうやら、助けられたみたいだ。出血が多いからしばらく寝かせておく方が良いと思うけど」
「ハンザ達が来ましたから、担架を作って運んでもらいましょう」

 コーヘイはハンザ達に指示をして、2本の木の棒とロープを使った即席の担架を作らせてから、怪我人を運ばせた

「でも、あのコンビプレーは本能なんですかね」
「どうなんだろうね、音とかで相手が襲われているのが判るのかもね」

 今回はトカゲが翼竜を呼んだのではなく、翼竜の攻撃にトカゲ達が便乗してきた。トカゲの炎は思ったより強烈だった。10メートルぐらいは届く火炎が開いた口から一気に伸びてくる。タケルは自分が炎を浴びて、今まで焼いて来た数々の魔獣の気持ちが少しだけわかった。致命傷にならないにせよ、少しでも炎を浴びると皮膚に激痛を感じるのだ。敵がチームプレーで来る以上は自分達も単独で戦うのは危険と言う事だ。もう少し慎重に戦う必要があることをタケルは思い知らされた。

 ハンザは持って帰るべき獲物を一か所に集めてから全員で村に向かって戻り始めた。長い隊列になったので、先頭にコーヘイ、真ん中にアキラさんとマユミ、しんがりをタケルが守る形で進んで行った。獲物を持ち帰った後も、倒した木を回収するために密林の中を何度も往復した。獣人達は見た目通りの力持ちで。大きな木をロープで持ち上げて、3~4人で担いで運んで行く。邪魔になる枝の部分はコーヘイが刀で切り落として運びやすくしてやった。

「これだけの木材が手に入ったのは久しぶりです。壁の補強にも使えるから、しばらくは安心です」
「それは良かった。短くしたり、細くしたりしたかったら、剣士に頼んでください。木工所並みの加工技術をお見せしますから」
「ありがとうございます。斧も鋸も不足しているので助かります」

 ハンザはすっかり従順な態度でタケル達に接するようになっていた。タケル達の戦闘力と獣人を救ったことが人間という種をみる目を根底から覆したのだろう。

 結局、その日のトカゲ退治は材木の搬出で終了してしまった。明日は派遣四日目で結界の中に戻らないと・・・、タケルにもどうなるのかは判っていなかった。

■獣人の村 
 ~第12次派遣4日目~

 前日はトカゲ肉の焼肉パーティーでやし酒をたらふく飲んで、そのまま浜辺で寝ることにした。板間よりも砂浜の方が柔らかくて寝心地がよさそうだったからだ。念のために、四方には炎の魔法石で大きなかがり火を焚いておいたが、炎の明るさが気になることも無く熟睡することが出来た。

 今日も日の出ともに支度を始めて、昨日とは反対の密林に足を踏み入れた。昨日と同じように捜索隊が見つけてくるトカゲ達を魔法と剣、そして拳のコンビネーションで快調に倒していく。トカゲの炎は顔が向いている方向にしか飛んでこないので、フットワークの良いアタッカーの二人に炎が当たることも無かった。俺達が戦っている間はマユミが上空を警戒していたが、首がだるくなっただけで成果は無かった。

「今日は飛んできませんね?」
「ああ、アイツも疲れて居るはずだからね」

 村のこちら側には翼竜のねぐらがある岩山があるが、今日は飛んでこないとタケルは思っていた。致命傷を与えられなかったが、タケルの風魔法は木を折る破壊力だから、翼や胴体にはかなりのダメージになったはずだ。タケルは岩山を眺めながら、翼竜のねぐらがどうなっているかを想像していた。

 -ねぐらがあるなら、こっちから仕掛けるか・・・

「よし、一通りトカゲも狩り終わったから、翼竜のねぐらを見に行くことにしよう」

 既に昨日を上回る数のトカゲを倒している。戻り時間の事も気になるし、空の脅威を排除するのがこの村にとっては一番重要だ。今やれるベストを尽くす、それが神の思し召しだとタケルは信じていた。

 -アシーネ様、それで良いですよね?
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