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派遣勇者の進む道

136.獣人達の敵

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■獣人の村
 ~第12次派遣2日目~

「そいつらは硬い鱗で覆われた魔獣なのだが、近寄ると火を吐くのだ」

 -ドラゴンか!? ひょっとして魔竜?

「そいつは大きくて空を飛ぶんですか!?」
「いや、空を飛ぶのは別の魔獣だ。火を吐く魔獣は我らより少し大きいぐらいじゃ」

 虎系族長の話だとドラゴンや魔竜と言われるものではなさそうだ。

「走るのが早いんですか? 2本足で走ったりするとか?」
「いや、早くは無い。走れば逃げることは出来るのだが、空を飛ぶものと一緒に襲ってくるのだ」

-上と下からのコンビプレーなのか・・・

「空の魔獣はどんなヤツですか?」
「大きい。わしらを咥えて飛ぶことが出来る大きさだ」

-獣人を咥えてって、鳥のレベルじゃない大きさだ。

「みなさんは、どんな武器で戦っているんですか?」
「この村には武器は殆ど残っておらん。我らには武器を作る技が無いのだ。昔から残っている古い剣や槍では、あいつらの硬い鱗には歯が立たんから、見付ければすぐに逃げるようにしておる」

 ドリーミアと切り離されて、獣人達の生活は退化しているという事か。俺達を囲んだ獣人も木の棒に石をくくり付けた槍だった。

「その魔獣は沢山いますか?」
「飛ぶやつは多くないが、火を吐くやつらはどんどん増えてきた」
「わかりました、私たちが明日からその魔獣を狩りに行きましょう。道案内を何人かつけてもらえますか?それと、条件が一つあります」

「条件? 条件とはなんじゃ?」

「あなた達が私たちを見て“奴隷”と言いましたけど、他にも同じような人間が居るんですね?」
「ああ、居る。霧の向こうに戻れなくなった者と海から流れてきた者たちがな」
「奴隷と言う事は、酷い扱いを受けているんですよね?」
「うむ・・・、手先が器用なので、こまごまとした下働きをさせておるが、言う事を聞けば殴ったりはせぬし、食事も与えておる」
「では、その人たちに自由を与えてください」
「自由と言うのは?」
「住む場所も何をするのも自分達で決めさせてください」

-ダッハッハ!

 タケルの言葉を聞いて、狼族長達が笑い出した。

「構わぬぞ。自由にしてやろう。だが、何処にも行けぬだろう。我らでさえ村の外に出るのは危ないのだ。奴隷が外に出れば3日、いや1日も持たずに魔獣に食われるだろうよ」
「この村から出るかどうかは、その人達の判断ですから構いません。まずは、その人達に会わせてもらえますか?」
「良いだろう。ハンザよ、奴隷たちの・・・」
「それと、奴隷と言う呼び方もやめてください。“人”か“人間”と呼んでください」
「わかった、ならば人間たちの所へ連れて行ってやれ」

 §

 ハンザと呼ばれた獣人はタケル達を小屋が並んでいる海の近くに連れて行った。どの小屋も屋根に穴が開きボロボロになっている。見えている砂浜には木の船が引き上げられていて、獣人ではない人が船の横で網を繕っている。

「おい、お前ら! 中に居る奴隷は全員出て来い!」
「“奴隷”は無しです」
「お、おい、早く出て来ねえか!」

 ハンザには、奴隷と呼んではいけない理由は判らないようだが、その言葉をつかうのはやめてくれた。

 小屋の中からやせ細った人たちがぞろぞろと出てくる、全部で30人ぐらい居る。年齢層はバラバラだが、50前後の男女が多いように見える。服は何とか上半身から膝を覆える程度の布を巻きつけているだけだ。

「だれか、皆さんを取りまとめる人は居ませんか?」
「サムス、お前が奴隷の取りまとめ役だったな」
「はい、今度は何をすればよろしいんで?」

 サムスと呼ばれた白髪交じりの男はハンザを怯えながらうかがっていた。横に居るタケル達に興味があるようだが、同じ奴隷だとは思って無いようだ。

「みなさんは、今日から奴隷では無くなりました。何をするのも自由です」
「自由? それはどういう意味でしょうか?」
「ここに住む獣人・・・、毛のある人達のいう事を聞く必要は無くなったという事です。村から出たければ出ても良いですし、この中で好きなように暮らしてください」

 村人たちは顔を見合わせて、理解できない表情を浮かべている。生まれた時から奴隷扱いされていて、自由と言うのが判らないのかもしれない。

「じゃあ、船で出て行っても構わないんですか?」

 後ろの方に居たタケルと同じぐらいの年の男が声を上げた。

「船はダメだ! あれは俺達の物だからな。持って行かせねぇ」
「・・・」

 声を上げた男は俯いてしまった。

「船を作って出て行くことは出来ますよ?ですけど、船でどこに行くんですか?」
「俺達は船が難破して、ここに流れ着いたんだ。何とか国に戻りたいんだよ」
「国?ドリーミアから船でここに来たんですか?」
「いや、俺達はプロイツから来た。ここに流れ着いて5年程になるはずだ・・・」

 -ドリーミアの外か! 結界を通り抜けて来られた外の人が居たんだ!

ハンザは船で出て行く話には興味を示さずに現実的な質問をタケルにしてきた。

「それで、私たちはこれからどうしたら・・・」
「ハンザさん、私はタケルと言います。皆さんは自由になりましたが、まずは食べる物が必要ですよね? 皆さんは漁をされるのですか?」
「ええ、私たちが漁で獲った魚を別けてもらったり、貝を探して食いつないでいます」

 船は獣人の物で奴隷だから、漁での取り分も少ないのだろう。

「ハンザさん、これからは漁で獲ったものの半分は船に乗った人たちの物にしてください」
「そんなこと俺に言われても・・・」
「さっきの族長の所に行って、話をつけて来てください」
「ああ、わかったよ」

 ハンザは不満そうだったが、走って立ち去った。

「獲れた魚の半分が皆さんの物なら食べて行けますか?」
「いや、それが・・・。今は沖まで出られないから、近場の小さな魚しか獲れないんだ」
「沖まで出られないのは何故ですか?」
「空を飛ぶヤツに見つかるからだよ」

 なるほど、漁にも影響が出ているのか。

「漁は朝だけしか出ないんでしょうか?」
「いや、行けるなら夕方にも行きたいが・・・」
「じゃあ、今から沖に行きましょうよ」

 日が沈むまではまだ2時間ぐらいありそうだった。時間の制約が無いなら、早めに食糧問題を解決したかった。タケル達の手持ち食料も明日ぐらいまでしか持ちそうにない。

「だけど、空のヤツが・・・」
「そっちは任せてくださいよ。私が焼き払いますから」
「焼き払う? それはどうやって?」

 百聞は一見に如かずだな、見てもらう方が早い。

「上を向いてください。 -ファイアウィンド!-」

 タケルは叫びながら槍を空に向かって突き上げた、穂先から炎の柱が上空へ伸びて行く。

 -オォー!!

 村人たちは感動、いや恐怖を覚えたようだ。何人かは逃げ出して小屋の中に入ってしまった。

「皆さんの事は、私が守りますから。行きましょう!」

 奴隷から解放するためには手に職を持たせなければならない。これはそのための最初の一歩だとタケルは考えていた。
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