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派遣勇者の進む道

129.南へのみちのり

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■西方州都 ムーア
 ~第12次派遣1日目~

 ナカジ―に送ったメッセージは既読にもならず、月曜日は出勤してこなかった。やっぱり、行くのが怖くなっているかもしれない。それでも、タケル達はいつものように西條の転移魔法によって、スタートスへやって来た。最初のメンバーが来ないのは、少し寂しいがこれはアルバイトとは言え立派な仕事だ。仲良し気分だけでやっているわけではないから仕方ないだろう。

 午前中はコーヘイとマリンダにマユミの面倒を任せて、タケルはムーアのレンブラント商会へやって来た。

「ご無沙汰しております。タケル殿。今日はどのような?」

 レンブラントはいつもどおり、丁重にタケルを迎えてくれた。

「ええ、南の大教会に行きたいのですが、途中まで船を出していただきたいのです」
「南ですか!? それはまた、どういった理由で?」
「はい、向こうの大司教と会ってみたいんですよ」
「なるほど・・・、しかし、ご存知の通り、街道も川も南方大教会の人間が州境で行き来できないように見張っていらっしゃいます」
「その手前までで結構です。そこから先は私たちだけで行こうと思っています」
「ですが、船を降りてからもかなりの陸路がありますよ?歩いて行かれるのは大変だと思いますが?」

 確かにそうだが、馬車の手配が難しければ歩いて行くことも覚悟していた。

「ええ、どこかで馬車が借りられれば良いのですが・・・」
「それでしたら、一度スモークの町へお立ち寄りください。スモークの町はバーンまで馬車で5日ぐらいの場所ですが、そこには私が親しくている馬車屋があります」
「ありがとうございます。スモークまでは州境からどのぐらいかかりますか?」
「徒歩なら3日ぐらいだと思います」

 それなら船で1日、残り3日を歩けば4日の派遣期間中にスモークまでたどり着けそうだ。

「それでお願いします。8日後に出発したいと思いますので、旅の支度も併せてお願いできますか?」
「もちろんです、必要な代金は帳簿から差し引きしておきます。現金は必要ありませんか?」

 今度エルフの里に行くときにはもっと土産を買っていきたいと思っていたところだった。

「では、小銀貨5枚、大銅貨と小銅貨を10枚いただけますか?」

 レンブラントから受け取ったお金は日本円なら30万円ぐらいだがこの世界では年収ぐらいの大金だ。これだけあれば食品以外の服や食器等もたくさん買っていける。タケル達が見てきたエルフの里は長い間の隔離生活で生活用品が不足しているように思えた。この遠征の最終日には精霊の魔法具も出来ているだろうから、そのお礼を兼ねてもう一度みんなで里に行ってみたいと思っている。

■スタートス 聖教会裏空き地

 ムーアから教会に戻るとマユミはマリンダと一緒に風魔法の練習をしていた。

「どう?風の威力は強くなった?」
「どうやろ?なったような、なってないような・・・そんな感じですわ」

 マユミの関西的な乗りでは進歩が全然わからなかった。

「マリンダから見てどうなの?」
「ええ、どんどんお上手になられていると思いますよ」
「ほんまですか!? 別嬪さんに褒められたら得した気分ですね。タ・ケ・ルさん?」

 マユミは何か意味ありげな目でタケルを見たが黙殺しておいた。

「アキラさんとコーヘイは何処に行ったの?」
「お二人は奥の林で練習すると仰っていました」

 そうか、そうすると俺はマユミのお守りに戻った方が良いかもな。

「じゃあ、マリンダとマユミは俺と一緒に風の丘へ上がろうか?」
「風の丘?」
「ああ、風の魔法を練習するためのパワースポットだよ」

 タケルなりの解釈だが、風の魔法を練習するにはあの丘が良いと思い込んでいた。
 二人を連れて上がって来た丘の上には今日も気持ちの良い風が吹き抜けている。

「うわー、ここは気持ちが良いですねぇ。スタートスの町もよく見えるし・・・、思ったより小っちゃいんですね!?」
「そうだね、大きな町じゃないな。教会が出来たから町になったらしいよ」
「へえー、それで、此処でどないするんですか?」

 タケルは自分が最初に来た時の事を思い出していた。風の魔法も水の魔法も同じだ。体で感じることから始めた。

「まずは、目を瞑ってから両手をひろげて全身で風を感じてみようか?体の周りを空気が流れて行くのを全身で捕まえるイメージで」
「全身で? 捕まえる?・・・、やってみます!」

 マユミは疑問があったようだが、両手を左右に伸ばして目を瞑った。

「そのままで、風の神ウィン様に力を貸してもらうように頭の中でお願いしてみて」
「はい!」

 タケルも一緒になって、ウィン様に祈りを捧げた。

 -ウィン様、お力に感謝しています。ですが、我々はもっと強くなる必要があるのです。

「神様とお話しできた?」
「はい、丁寧にお願いしときました」

「じゃあ、俺が最初に見本を見せるから。その強さを目に焼き付けて、自分でやるときもそれをイメージしてね」
「わかりました!隊長!」

 マユミはニヤリと笑ってタケルを見ていた。タケルは首を横に振りながら、30メートルぐらい離れた木に向かって右手を伸ばして、頭の中で太い枝だけが吹き飛ぶ細くて強い風をイメージした。

「ウィンド!」

 掛け声とともにタケルの右手から強い風が唸りを立てて走った。太い枝は弾けるような音で幹から飛ばされていった。

「スゴッ! 今の風ですか? あの枝だけ狙ったんですよね?」
「ああ、少し細くて強い風をイメージして送ってみた」
「細いかぁ・・・、なるほど! 強さだけや無いんですね!」
「うん、ぶつける物の大きさで風を細くすると威力が上がると思う」
「わかりました! やってみます!」

 マユミのやる気はメンバーで一番かもしれない。ちょっと落ち込み気味だったタケル達にとって、良いムードメーカーになってくれそうだ。

 タケルと同じようにマユミが右手を上げたところで声を掛けた。

「マユミは炎のロッドを使ってやってみてよ。風の石が助けてくれるからさ」
「そうですね、やってみます!」

 一旦目を瞑ってから、ロッドを木の方向に向けた。

「ウィンド!」

 ロッドの周りから唸りが聞えて、風が木に向かってぶつかった。狙った太い枝は大きくしなった後に付け根から折れて飛んで行った。

「おおー、良いじゃない! イメージ通りだよ」
「ありがとうございます! 急に上手くなった気がします。やっぱ、先生がええからでしょうね」
「いや、生徒が良いんじゃない?」
「ほんまですか!? やっぱ先生でしょ?」
「いやいや、生徒が・・・」

「先生も生徒も優秀で良かったですね」
「・・・」

 タケルとマユミが褒めあっているのを見ていたマリンダは、冷ややかなコメントで二人のじゃれ合いを終わらせた。
 やばい、マリンダがちょっと怒ったかも・・・
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