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派遣勇者の進む道

125.北へ? 南へ?

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■皇都セントレア
 ~第11次派遣2日目~

 セレナ教皇との面会を終えた後は、みんなとの集合時間までタケルとマリンダは皇都のデートを楽しんだ。デートと言っても、皇都をぶらぶらして武器や雑貨を見て回った程度だ。店の数や品ぞろえは多いが、皇都でも嗜好品は少ない。良い髪飾りがあればマリンダにプレゼントしたかったのだが、前にチタの町で買ったものがあるので新しいものは欲しくないそうだ。この世界の人は欲がないというか、物を大切にするというのか、新しい物を欲しがらない。タケル達の世界と違って、欲求の総量が少ないような気がする。ひょっとすると戦争等が起こらないのも、その所為なのかもしれないと思っていた。仕方がないので、革製のスリッポンを買って二人でお揃いにしてみた。言うまでも無くマリンダは大変喜んでくれた。

 夕方には教会前に集合して、以前にみんなで行ったマリンダ推薦の食堂に向かった。今日はナカジ―が居ないので、コーヘイにオーダーを任せると、豚、鳥の肉串を何種類も注文してきていた。

「タケルさん、やっぱり食い物も皇都は色々な種類がありますね」

 コーヘイはエールをあおりながら、肉をかじっていた。

「そうだね、この国で一番大きな町だからね、人、モノ、カネすべてが集まっているよ。ダイスケはイースタンと小麦粉プロジェクトの話は進んでるの?」
「いやぁ、やっぱり南の問題があって、先送りになりそうな感じです。イースタンさんも物が予定通り動かないんで、予定が狂いっぱなしみたいスよ」

 -南の問題はあちこちに影響を与えるのだろう。

「それで、タケルさん。エルフの精霊具が出来るまではどうするんですか?スタートスで自主トレですかね?」
「それを相談しようと思ってたんだけど、北の洞窟にもう一度行くか、南の大司教に会いに行くかどちらかにしようと思ってる」

 タケルはダイスケの顔を見ながら話していたが、北の洞窟と聞いて表情を曇らせていた。

「ダイスケは北の洞窟はもう行きたくないかな?」
「いや、そんなことは無いですよ。今度は躊躇なく切るつもりですから」

 強がりかも知れないが、避けて通れないから早めにトラウマは取り除いた方が良いだろう。そうすれば、ナカジ―にも良い影響があるはずだと思っていた。

「じゃあ、明日と明後日は北の洞窟へ行くことにしよう。南へ行くのは次の遠征で考えるよ。南方州は遠いから、1回の遠征ではたどり着かない可能性もあるしね」
「どのぐらい遠いんですか?」

 マユミがハイピッチでエールを飲みながらタケルに質問する。

「セントレアから馬車で10日以上かかるらしい」
「10日!? 一回の派遣で4日しかおられへんのに?」
「そう、だから途中までを船で行けないかと思ってるんだ。レンブラントさんに頼めば、近くまで行けるような気がする。それでも、かなりの距離を陸路で行くから、何処かに転移ポイントを作って、その次は其処からスタートだろうね」

「南の方って、入れないように街道とかを塞いでいるって聞きましたけど?」
「そう、ダイスケの言う通りだけど、南の司教に会いに来たって言えば何とかならないかなと思ってね。教皇もそんな風に言ってたから」
「せやけど、いきなり捕まったりしませんかね?」

「ああ、可能性あるかもね。みんな身を守る覚悟はしておいてね。戦うつもりはないけど、襲われたらやるしかないからね。これは冗談じゃないんだ」
「「「!」」」

 そう、冗談ではない。いろんな人のいろんな思惑の中で、突然現れた勇者ご一行を温かく迎えるかどうかは判らない。タケル自身もこの世界の人と戦うことが出来るのかを悩んでいた。

■北の洞窟
 ~第11次派遣3日目~

「じゃあ、今日もコーヘイとダイスケ先頭でよろしく。マユミはこの間と同じように天井に炎を出しながら進んでね。アキラさんと俺は後ろを警戒するから」

 タケル達の派遣三日目は朝から北の洞窟の中に転移して始まった。前回ダイスケが大けがをした空間に転移ポイントは残っていた。洞窟は来るたびに変化しているはずだが、これも神の思し召しなのかもしれない。

 洞窟の中は風もなく外より気温は高いが、スタートスよりも10度近く低いだろう。全員毛皮のブーツ等の防寒をしている。コーヘイもダイスケも、炎の刀に火をともして松明のように掲げて二つある通路の右を選んで奥へ進んで行く。

 右の通路は奥に向かって下って行たが、すぐに右に大きく曲がっていた。曲がり角の手前で止まっているダイスケ達の前から、タケルは火炎風を見えない通路に向かって放つ。

「ファイアウインド!」

 炎の槍先を右に振って、見えない空間から通路の奥に火炎風が唸りながら迸ると、通路の奥から獣の叫びともに大きな鹿が飛び出してきた!

「ハァッ!!」

 コーヘイは右手に持っていた炎の刀を両手で握り直して、突っ込んできた氷に覆われた鹿の首へ袈裟がけに振り下ろす。炎の刃が大きく伸びて、鹿の首が綺麗に切り落とされた。鹿は首があった場所から大量の血を吹き出しながら横倒しになっている。

「コーヘイは炎の刀をもう使いこなせるんだね」
「いや、まだまだですよ。間合いもわからないし、今は普通の刀の刃先が少し伸びたぐらいに思ってます」

 今でも十分だとは思うが、風も使えるようになれば炎の刃を飛ばせるだろう。やはり実戦練習は重要だ。

 その後も飛び出してくる氷に覆われた鹿、猪、蝙蝠と天井にうごめくムカデを切り、焼き、吹き飛ばして奥まで進んで行く。通路は大きさを変えずに右左に曲がっていくが、一本道でどんどん下っていく。長い距離を歩き暗い洞窟の中で揺れる炎が届かない暗闇が重くのしかかりだした頃に、大きなホールのような場所に出てきた。

 転移してきたところよりも大きな空間だった。ホールに入る前に天井に炎を放ったが、さらに上があるようだったので、火炎風で確かめると30メートル以上の高さがあるようだ。天井には何もいないので中に入って奥の方を炎で確認すると。奥に続く通路の入り口が2か所見えた。今までの通路と同じぐらいの大きな通路と、人の背丈ぐらいの小さな通路だ。

「さあ、マユミさん、大きな通路と小さな通路ならどっちが良いかな?」
「えぇー、私が選ぶんですかぁ!? せやなぁ、・・・ここはちっちゃい方で!」
「よし、じゃあそうしよう。みんな通路から何か出てくるかもしれないから、気合い入れてよ!」

 マユミの選んだ根拠を確認しなかったが、右側にある小さな通路に向かてコーヘイが進んで行く。タケルは後ろともう一つの通路を警戒しながら小さな通路に入って行った。だが、小さな通路は50メートルほど進むと行き止まりになっていた。

「タケルさん、行き止まりですね。隠し通路みたいなのもなさそうです」
「石板とかそう言うのも無いの?」
「見たところ・・・、壁にも床にも・・・、天井にもないですね」

 単なる行き止まり・・・、別に不思議でもないか。そう思っていたタケルの耳に重たい音が聞えてきた。大きなものを地面に落としたような音だ・・・、だがその音が何度も続きだした。

-まさか、足音なのか!? 
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