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勇者候補たちの想い

98.北の洞窟 中編

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■シベル大森林北の洞窟 
~第9次派遣2日目~

ここの洞窟は大きくて暗い。
タケルが感じている暗さは、単に光が届かないと言うだけではなかった。
空気自体がどんよりと重く感じるのだ。
風が無いおかげで肌に当たる空気自体は外より温かく感じる。
聖教石ランプや、炎の刀、炎の槍で明るさは確保されているはずだ。
それでも暗く、そして重く感じる。
この異世界に来て、初めて感じている本当の恐怖なのかもしれない。

タケル以外の前を歩く三人もそれを感じているのだろう、背中が丸くなって、キョロキョロと辺りを見回しながら進んでいる。

タケル達の恐怖はすぐに現実となって襲ってきた。
上から、重たい物が突然いくつも降ってくる!

「ウァッ! 痛い!!」

「ワッ!」

「大丈夫! アッツ!」

先を行くダイスケ達に声を掛けたが、タケルの首筋にも重たい何かが落ちてきて、左肩に激痛が走った、太い針で指されたような感触だ。

痛みをこらえて振り払い地面に落ちた物にヤリを突き立てる。
炎の先でのた打ち回っていたのは、牙が飛び出している大きなムカデだった。

- 上か!

「ナカジー! 火炎風で天井を焼き払って!」

「え、どうして?」

「良いから、早く!」

タケルはナカジーを追い越して、ダイスケとアキラさんのフォローに向かう。

「ファイアウィンド!・・・ キャー!!」

ナカジーの悲鳴で後ろを振り向くと、火炎風の先には天井いっぱいにうごめくムカデの黒いうねりが広がっている。

ナカジーの動揺で火炎風の火が弱くなり天井まで届かなくなった。
タケルは二人のフォローを後回しにして、天井へ炎の槍を突き上げた。

「ファイアウィンド!」

巨大な火炎風がタケルの槍先から天井に向かって迸った!

伸びる炎の先で天井を何度もなぎ払うと焦げ臭い匂いとともに、大量のムカデが落ちてくる。

「キャァッ! キャアー!!」

ナカジーは悲鳴を上げて走り回っているが、噛まれては居ないようだ。

「ナカジー、落ち着いて! 落ちたヤツを焼いといて!」

タケルは右肩の痛みを我慢しながら、ダイスケとアキラさんの状態を確認する。
二人とも動きはぎこちないが体にムカデはついていない。
ダイスケは刀で、アキラさんは足で、それぞれ地面に落ちたムカデに止めを刺している。

タケルはもう一度天井にムカデが残って居ないことを確認してから、足元のムカデを槍で掃討し始めた。
一度刺したぐらいでは動きが止まらない、頭の付け根辺りを刺さないと胴体が半分になっても動き続けている。

ナカジーはムカデを避けながら火を放っているが、周りには半焼けだが生き残っているムカデが沢山蠢いていた。
これではキリがない、一気に焼くべきだ。

「ナカジー、ダイスケのところまで来て!」

指示通りにナカジーが前方へ走って、タケルの後ろまで来たところで、地面に向かって槍から火炎風を放った!

「ファイアーウィンド!」

長い炎が火炎放射器のように伸びて行き、地面のムカデを焼いていく。
しばらく炎を出し続け、ムカデの蠢きが無くなってからようやく炎を止めた。

ダイスケ達のほうも足元に動くムカデはいなくなったようだ。

タケルは自分の肩を見ると2箇所に血が滲んだ後がある。
噛まれた後は熱を帯びてズキズキと痛む。

右手を肩にあてて、光の神へ祈りを捧げる。

「癒しの光!」

自分自身に治療をするのは初めてだったが、左肩の痛みは直ぐに消えていった。

「ダイスケ達の怪我は?」

「俺も肩をやられました」

ダイスケは右肩を抑えて背中を丸めている
かなり痛いようだ、アキラさんも背中を気にしている、どこか噛まれているのだろう。

「ナカジー、アキラさんの治療をヨロシク」

タケルはダイスケの肩に向けて治療魔法を使った。
ダイスケもアキラさんもすぐに痛みはなくなった、肩をぐるぐる回して動きを確認しているが、表情は明るくなった。

「タケル、虫はいやだよ~!」

ナカジーの言う通りだ。
見た目は気持ち悪いし数が半端無い。
焼かれて地面に落ちているムカデは50匹を楽に越えているだろう。

「確かに気持ち悪いね。でも、死ぬほどじゃあないからさ。引き続き上にも気をつけて。これからも、もっと凄いのが出てくると思うから。アキラさん、聖教ランプをもう一つ渡すからダイスケと横に並んで先頭を行ってもらえますか?アキラさんは足元を、ダイスケは壁と天井に注意して進んで」

アキラさんは二つ目の聖教ランプを腰につけて、ダイスケと並んで奥へ進み出した。
先頭の二人が横に並んだとことで、明かりが届く範囲がだいぶ広がった。

タケルは時折後ろを振り返りながら、天井を中心に警戒してついて行く。
メンバーがこれほど怪我を負うのは初めてだ。
自分自身への脅威も感じているが、リーダーとして三人には出来るだけ怪我をして欲しく無い思いが強い。
いっそ引き返そうかとも思うが、この程度が倒せなければ魔竜の討伐などは不可能だろう。
これがゲームなら、メンバーの痛み等無視してガンガン行くが、目の前で血を流し苦痛の表情を浮かべている。
引き際を見極めて、どこまで進むかの判断もリーダーとしての重たい役割だという事をタケルは改めて感じていた。

暗い洞窟の奥に何があるかはまだ見えない。
無口になった4人の足音だけが洞窟に響いている。

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