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5歳児の涙
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■リーブル宮殿
廊下にいる黒狼と白虎が滲んで見える。
あふれ出る涙が止まらん。
駄目だ、我慢をせねば・・・
格好良い皇帝にならねば・・・
そんなこと、今は無理だ・・・ 泣くしかない・・・
膝をついて俺を乗せようとする白虎にすがりついた。
呻き声と涙がとめどなく続く。
周りの目など気にならない、今はただ悲しくて、寂しいのだ。
それ以外のことは・・・知らぬ!
■リーブル宮殿
廊下で泣きじゃくった俺は、寝所へ一度戻って顔を洗った。
ハンスには近衛兵が伝えたようだが、俺には何も言わなかった。
マリーを見守ってくれていた黒狼が俺を迎えに来た、だが白虎は急がせなかった。
誰に教えてもらわなくとも、それが全てなのだ。
黒狼は今朝から判っていた、だから俺を見なかった。
だから、俺も覚悟をしていたつもり・・・
二人を連れて、歩いてマリーの部屋へ入った。
「陛下」
「部屋から出て行け」
薬師は静かに部屋から出て行った。
ベッドに登って見たマリーの横顔は朝と同じように綺麗だ。
だが、もう息をしていない。
握った手が冷たい。
マリーの前では泣かぬつもりで、部屋で顔を洗った。
しかし、やはり無理なのだ。
涙は我慢できん・・・
「マリィィー・・・」
「俺にはお前しかおらんと言ったのに・・」
俺の手とマリーの手に、止まらぬ涙が落ち続ける。
嗚咽で体の震えも止らぬ。
黒狼と白虎が俺に体を寄せてくれた。
二人の優しさと温もりを感じるが涙も嗚咽も止まらん。
もう、マリーとは話も出来ん。
茶も飲めん。
笑顔も見ることが出来ん・・・
死んだものは生き返らん。
判っていたことだ・・・
そう、判っていた、頭の中だけで・・・
俺はマリーの横で涙が止まるまで泣き続けることにした。
決して、我慢はせぬのだ。
今はマリーも許してくれるはずだ、俺は5歳なのだから・・・
■リーブル宮殿謁見の間
日が昇る前に即位式の礼服を着て、マリーへ別れを告げてきた。
「マリーよ、誰が見ても立派で格好良い皇帝陛下であろう」
俺のマリーは笑顔で絶対こう言った筈だ。
「はい、陛下。陛下は世界で一番立派で格好良い皇帝陛下です」
「うむ、そうであろう。では今から即位式へ向かう」
-もう、マリーの返事も笑顔も無い。
謁見の間で俺の前には、黒玉ばかりの領主達が膝を突いて並んでいる。
王冠を戴き王笏を持つ5歳の俺が、即位の宣誓を行うのを待っているのだ。
「余が第18代リーブル皇帝 エリック・フォン・ローエングラムである。これよりそなた達の忠は我のみに捧げると誓え!」
<<我らの忠は全て皇帝陛下のために!!>>
綺麗に揃った声が謁見の間に響き渡った。
だが、この中にマリーへ毒を盛ったやつ、いやこの俺に毒を盛ったやつがいる。
そいつらを必ず見つけ出して処断せねばならん。
絶対に容赦はせぬ。
そして、大好きなマリーとの約束も必ず果たす。
俺は世界一立派な格好良い皇帝になる!
絶対にだ!!
-第一部完-
廊下にいる黒狼と白虎が滲んで見える。
あふれ出る涙が止まらん。
駄目だ、我慢をせねば・・・
格好良い皇帝にならねば・・・
そんなこと、今は無理だ・・・ 泣くしかない・・・
膝をついて俺を乗せようとする白虎にすがりついた。
呻き声と涙がとめどなく続く。
周りの目など気にならない、今はただ悲しくて、寂しいのだ。
それ以外のことは・・・知らぬ!
■リーブル宮殿
廊下で泣きじゃくった俺は、寝所へ一度戻って顔を洗った。
ハンスには近衛兵が伝えたようだが、俺には何も言わなかった。
マリーを見守ってくれていた黒狼が俺を迎えに来た、だが白虎は急がせなかった。
誰に教えてもらわなくとも、それが全てなのだ。
黒狼は今朝から判っていた、だから俺を見なかった。
だから、俺も覚悟をしていたつもり・・・
二人を連れて、歩いてマリーの部屋へ入った。
「陛下」
「部屋から出て行け」
薬師は静かに部屋から出て行った。
ベッドに登って見たマリーの横顔は朝と同じように綺麗だ。
だが、もう息をしていない。
握った手が冷たい。
マリーの前では泣かぬつもりで、部屋で顔を洗った。
しかし、やはり無理なのだ。
涙は我慢できん・・・
「マリィィー・・・」
「俺にはお前しかおらんと言ったのに・・」
俺の手とマリーの手に、止まらぬ涙が落ち続ける。
嗚咽で体の震えも止らぬ。
黒狼と白虎が俺に体を寄せてくれた。
二人の優しさと温もりを感じるが涙も嗚咽も止まらん。
もう、マリーとは話も出来ん。
茶も飲めん。
笑顔も見ることが出来ん・・・
死んだものは生き返らん。
判っていたことだ・・・
そう、判っていた、頭の中だけで・・・
俺はマリーの横で涙が止まるまで泣き続けることにした。
決して、我慢はせぬのだ。
今はマリーも許してくれるはずだ、俺は5歳なのだから・・・
■リーブル宮殿謁見の間
日が昇る前に即位式の礼服を着て、マリーへ別れを告げてきた。
「マリーよ、誰が見ても立派で格好良い皇帝陛下であろう」
俺のマリーは笑顔で絶対こう言った筈だ。
「はい、陛下。陛下は世界で一番立派で格好良い皇帝陛下です」
「うむ、そうであろう。では今から即位式へ向かう」
-もう、マリーの返事も笑顔も無い。
謁見の間で俺の前には、黒玉ばかりの領主達が膝を突いて並んでいる。
王冠を戴き王笏を持つ5歳の俺が、即位の宣誓を行うのを待っているのだ。
「余が第18代リーブル皇帝 エリック・フォン・ローエングラムである。これよりそなた達の忠は我のみに捧げると誓え!」
<<我らの忠は全て皇帝陛下のために!!>>
綺麗に揃った声が謁見の間に響き渡った。
だが、この中にマリーへ毒を盛ったやつ、いやこの俺に毒を盛ったやつがいる。
そいつらを必ず見つけ出して処断せねばならん。
絶対に容赦はせぬ。
そして、大好きなマリーとの約束も必ず果たす。
俺は世界一立派な格好良い皇帝になる!
絶対にだ!!
-第一部完-
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