上 下
326 / 343

Ⅱ-165 ネフロス国9

しおりを挟む
■ネフロス国 鉱山

 鬼はこのミッドランドやドリーミアに人族が増える前の太古の時代に生息していた。体高は3メートルから大きなものは5メートルで、強靭な肉体に俊敏性を兼ね備え炎を操ることのできる種族だった。人族が洞窟などで暮らしていたころから人肉を好んで喰い、人にとって天敵の一つだった。だが、やがて人族が増加すると鬼の一族はすぐに滅んでしまった。

 それは人族が強くなったからでは無く、単純に生殖能力と免疫の問題だった。鬼の寿命は100年から200年程度で人族よりも長寿だったが、その寿命の中で産む子供の数は1~2と非常に少ない。人族が30年から40年の間に3~5の子供を産むのに対して圧倒的に少なかったのだ。それに人族は人口が増加するにつれて活動圏を大きく広げて行った。そして活動圏の広がりは生物に害をなす様々な病原菌ウィルスの移動も引き起こした。中には人族でさえ滅ぼしかねない大流行を起こした病原菌ウィルスもあったが、人族はその人口の多さで抵抗力のある種が生き残り、鬼族はその個体数の少なさゆえに滅んでしまったのだ。

 鬼の血を飲んで鬼人化した兵士達は鬼の個体よりは小さく体高2メートル程だったが、強靭な肉体と俊敏性、それに炎を操る能力はそのまま受け継いでいた。透き通るような高熱の青い炎を猿に向けて放ち、炎に立ちすくんでいる体の急所を爪で切り裂いた。ほとばしる血潮に飢餓感が襲ってきたが、食事は狩りの後と本能が教えてくれた。

 -次の獲物は・・・、あそこか!

 木の柵がある方向へ逃げる猿を見つけて炎を放ち、火の中で悶える猿に向けて駆け寄る。密林から開けた空き地のような場所へ飛び出したところで、体が後方へ弾けとんだ。

 -一体何が?

「お前達! 走り続けろ!」

 サトルは青い炎に包まれる猿人たちに、装甲車から拡声器で指示をだした。敵の炎魔法はサリナの火炎風と違ってその場所で燃えているだけだ。走れば炎がついて来るわけでは無い。だが、猿人たちはその場に立ちすくんで炎を引きはがすかのように悶えているだけだった。走り続けた猿人は炎に一瞬包まれても、すぐに炎から抜け出して体毛が少し焦げた程度で済んでいる。

 サリナは砲塔の中から走って来る猿人と青い炎、そしてその後ろの“赤く大きいの”を見て、サトルの指示を待たずに主砲を発射した。練習の成果もあり、狙い通りに胸の中心へ35mm機関砲がさく裂して、上半身を破壊しながら相手を吹き飛ばした。

「良いぞ!サリナ! どんどんやれ!」
「うん! 任せてよ!」

 サトルに褒められてご機嫌になったサリナは次のターゲットを求めて砲塔を回転させた。

 -居た!

 ”赤い大きなの”が左から現れた。すぐに照準を合わせようとしたが、あっという間に視界から消えて行った。

「サトル! 早くて狙いがつけられない!」
「やっぱりそうか、人型の魔獣みたいだけど、ゴーレムとは比べ物にならない速さだ。装甲車の武器じゃ戦いにくいかもしれないな・・・、よし、一度後退する。サリナは機銃を森の方に向けて掃射してくれ!」
「わかった!」

 装甲戦闘車のギアをリバースにして、アクセルを全開にして後退した。キャタピラが土と砦の残骸を踏みつぶしながら鉱山の入り口付近まで車両を戻した。俺の目には敵がちらちらと見えていたが、左右にステップしながら素早くミーシャの銃弾をかわして・・・いない。ミーシャは砲塔の上から身を乗り出してアサルトライフルで7.62㎜弾を胸のあたりに叩き込んでいるのだが、相手は全く動じていない。

「ミーシャ、どうなっているんだ?」
「うん、死人の兵士と同じじゃないかな?それに、すぐに傷がふさがっているようだ。サリナが最初に撃ったやつはまだ倒れているが、私が撃っている2匹は当たっても平気みたいだ。当たると木の陰に隠れるがすぐに出て来る」
「そうか、じゃあ大きい方に変えるか?」
「そうだな・・・、だが、そうすると相手の動きについて行けないかもしれないな」

 さすがのミーシャ様も動きの速い相手を50口径の対物ライフルで追い回すのは難しいようだった。

「じゃあ、相手の動きを止めてミーシャの射線に入るようにするよ。爆薬を用意するから、それまではその銃で相手を追い払っておいてくれ」
「了解した」
「サリナも当たらなくていいから、撃ち続けろ」
「はーい♪」

 緊張感の無いサリナの返事を聞いてから、ドローンを2機取り出して上空へ飛ばした。鬼の動きは早いがおおよその位置は掴めている。二人は近寄って来ないように右にいる方をサリナが、左にいる方をミーシャが分担して撃っている。サリナが撃っている方は警戒しながらもこちらへ少しづつ近づきつつあった。

「ミーシャ! 右の方から行くからな。1.2.3で吹き飛ばすぞ!銃を持ち替えてくれ!」
「了解だ!」

 ドローンをそれぞれの鬼の後方に着陸させて、右のドローンに搭載した10kgのC4爆薬にセットした雷管へ信号を送るリモコンを握った。

「1.2.さーん!」

 -ドグォォオーン!

 爆音と爆風が吹き荒れて、右側の奴がこっち向かって飛んできた。ミーシャは素早くトリガーを引いて首筋に3発の銃弾を叩き込んだ。頭部が千切れかかったところで、俺は相手の正体がようやくわかった。

 -鬼だったのか・・・、それも不死の鬼だな。

「よし、もう一丁! 1.2.さーん!」

 左に居た鬼も最初の爆発で態勢を崩していたところへ横から爆風を受けて地面を転がった。ミーシャは砲塔から身を乗り出して、対物ライフルの銃弾を首筋から背中に向けて5発撃ちこんだ。銃弾が当たるたびに鬼の体が弾かれたように震えている。

「良し!トドメを刺しに行くぞ。念のために周囲を警戒してくれ!」
「はーい♪」
「了解した」

 ギアを前進に入れてフルスロットルで左側の鬼が倒れているところへ装甲戦闘車で突っ込んで行く。トドメはこの30トン近い重量を誇る車両のキャタピラを使った。キャタピラで踏まれ、潰され、肉も骨もズタズタに崩されて行く。1匹、2匹、3匹目は最初に主砲で倒した鬼だったが、恐ろしいことに胸の大部分を破壊されても立ち上がって来ようとしていた。だが、結局は先の2匹と同じようにミンチ状になって地面と一体化した。

 3匹が立ち上がれないことを確認できたので、車両から飛び降りてストレージに3匹とも格納する。不死で再生能力のある鬼だが、俺のストレージに入れておけば現状維持で復活するリスクはゼロだった。

「ミーシャ、もう大丈夫かな?」
「うん・・・、大丈夫みたいだな。他には居ないと思うぞ」
「そうか、じゃあ逃げている猿人たちを呼び戻そうか。・・・おーい! 無事な奴は戻って来いよー!」

 大きな声で猿人たちを呼んでから、装甲戦闘車を鉱山前に戻して猿人たちの帰還を待つことにした。もちろん、怖がって戻って来ない可能性もあるが、それを咎めるつもりは全くない。俺だってあんな牙や角がある化け物相手に鉄の棒で戦うのは絶対お断りだ。銃があっても怖いぐらいなのだから。

 -動きの速い相手・・・、対策が必要かもな。

 猿人の戻りを待ちながら、小道具をいくつか作る準備を始めることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

転生したら武器に恵まれた

醤黎淹
ファンタジー
とある日事故で死んでしまった主人公が 異世界に転生し、異世界で15歳になったら 特別な力を授かるのだが…………… あまりにも強すぎて、 能力無効!?空間切断!?勇者を圧倒!? でも、不幸ばかり!? 武器があればなんでもできる。 主人公じゃなくて、武器が強い!。でも使いこなす主人公も強い。 かなりのシスコンでも、妹のためなら本気で戦う。 異世界、武器ファンタジーが、今ここに始まる 超不定期更新 失踪はありえない

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第六部完結】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

処理中です...