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Ⅱ-162 ネフロス国6

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■ネフロス国 密林

 警戒していた夜襲は無く、シェルターの中で無事に次の日の朝を迎えた。猿人たちには果実とパン、シルバーには高級ドッグフードを用意して、俺達もサンドイッチで朝食を済ませてから密林を鉱山に向かって出発した。

 道中でサリナは射撃練習を続けていた。主砲の35㎜機関砲だけでなく、砲塔の横に装備されている対戦車誘導弾も試している。照準も発射手順も難しくなかったが、砲弾の装填を車外で行わないといけないのが面倒だった。練習熱心なのは良いことだが20発撃って再装填してからは主砲と7.62㎜機銃で我慢してもらうことにした。

 洞窟までは2時間ぐらいと見ていたが、1時間ほど進むと偵察に出ていたシンディと猿人たちが全員戻って来て何やらわめきだした。みんな怯えているように見える。装甲戦闘車を停止させて、後部の兵員室にいたメイを呼び出して言い分を聞いてもらうことにした。

「メイ、何を言っているんだ?」
「・・・、変な死神竜が沢山いるって」
「変って、どう変なんだ?」

 -キィーゥ! キイエイッ!

「仲間を殺して引きずっている・・・、頭の色が変」

 なるほど、俺の赤頭ラプトルもこっちに来ていたのか。あいつらには獲物は船に連れて行けと言っていたから、船が無くなって何処に行けば良いのか判らなくなったんだろう。

「シンディ、そいつらはどっちの方向に居るんだ?」

 -キィィ!? ・・・キィ!

 シンディはまさか行くんですか?と言わんばかりの態度だったが、西の方角を指さしてくれた。

「大丈夫だよ。あの死神竜は俺の手下だから」

 -ギャァアーオッ!

 シンディは猿人たちの所に駆け戻って行くと、なにやら猿人の会議を行ったようだが、喜んでいる感じでは無かった。やっぱり怯えているようだ・・・、今度は俺に対して。

 気にせずに装甲戦闘車を西に方向転換して30分ほど進むと、途方に暮れた赤頭のラプトル達を見つけた。赤頭達はかなり傷ついて前足が無い奴らもたくさんいたが、俺と再会して喜び・・・はしない。呆けてその場に突っ立っている。こいつらの仕事は生きているラプトルを狩って俺が居る作業船の所に運んでくることだったから、狩った後に目標が無くなって何もできなくなったのだ。既に狩って来たラプトルは20頭ぐらい、赤頭は50頭ぐらいいる。

 狩ってきた方はリンネが居ないと精神注入ができないから、ストレージに収納した。赤頭達には新しい指示を与えると、速やかに密林の中へと走り込んで行った。俺達と猿人軍団は当初の目標である鉱山へと進路を戻して密林を進んで行く。

 鉱山の手前1㎞ぐらいの地点で相手に発見された。砦のようになっている鉱山の物見台から狼煙のろしがあがると、いつもの亀さんたちが飛んでくるのが見えた。ミーシャは見えたと同時に撃ち始めている。装甲戦闘車は走行中なのだが、ミーシャは気にしなかった。揺れる砲塔の上で50口径の対物ライフルを構えて、確実に相手を打ち落としていく。10体ぐらいの亀を打ち落とすと、新たに飛びあがって来る亀は居なくなった。

 特に指示はしなかったが、猿人たちは亀が飛ばないのを見て砦の守備隊に向かって襲い掛かろうと先行し始めた。援護のために主砲で柵と物見台を粉々に破壊しておく。だが、猿人たちが砦の手前にたどり着いたときに、空から矢が大量に降り注いできた。猿人たちは木が生い茂っている場所まで戻って来たが、何匹かの体には矢が刺さっているようだ。頭は黄色いヘルメットで守られているから致命傷にはならないだろうが、魔法が使えないから治療してやることは出来ない。付き合いは短いが友軍が傷つくのは気持ちの良い物ではない。

「サリナ! 止めろって言うまで主砲を撃ちまくれ! あの柵を全部壊すつもりでやれ!」
「任せて!」

 返事と同時にサリナは砲塔を少しずつ回転させながら水平射撃を続けて砦の柵とその向こうに居るはずの弓兵達を破壊し始めた。轟音が密林の中に響き渡り、猿人たちは怯えて俺達の後ろまで戻って来たが、音が怖いのか見えないところまで遠ざかった。

 50発ほど主砲を撃ちこんだところで砦まで300メートルぐらいの距離まで近づいたが、弓の攻撃は飛んでこなくなっていた。だが、油断はできない。3人とも車両の中に入って7.62㎜機銃を撃ちながら、既に破壊されている木製の柵を乗り越えて砦の中に侵入した。動く兵士を見つけては銃弾を叩き込み、満足できた段階でシンディたちを呼び寄せた。

「シンディ、死人の兵士をここに集めてくれ。鉱山の奥にいる奴らも頼むよ。兵士以外には危害を加えないように・・・って、判るか?」

 -キィーッ! 

 メイは通訳してくれなかったが、猿人たちはすぐに行動を起こしたので理解してくれたようだった。砦の中にあった建築物はほとんど破壊されている。地面には手足や胴体がズタズタになった死人兵が大勢横たわっているが、少しでも動いている奴がいると猿人たちのチタン棒でタコ殴りにされている。猿人たちは容赦なく痛めつけてひきずって来たので、俺は片っ端からストレージに入れて行くことにした。

-大した敵はいないが、敵の主力はここじゃないだろう・・・。

■ネフロス神殿

 兵士長と魔法士達は水晶球を通じて、サトル達の動きを見ていた。敵は神殿を狙ってくると思い武装したゴーレムを立ち上げる準備を整えていたが、鉱山に向かう事は予想していなかった。

「何故、鉱山なのだろう? あいつ等も鉱石を狙っているのだろうか?」
「いや、違うようだな。鉱夫たちを開放したいようだ」
「ふむ。しかし、鉱夫たちはドリーミアの人間は無いのだぞ」
「確かにな、だが、それ以外に理由があるだろうか?」
「ゴーレム魔法士を鉱山に向かわせるか?」
「だが、鉱石を持って行くには・・・」

 ゴーレムを操るためには、ある程度近づいておく必要があった。神殿から離れた鉱山のゴーレムを操ることが出来ないから、鉱山で戦うためには魔法士も送らなければならない。だが、兵士長が考えている時に、神殿の入り口を守っている守備隊から想定外の急報が飛び込んできた。

「兵士長! 襲撃です。死神竜が神殿に入ろうとしています!」
「何!? 何故、死神竜が!? いつもの毒槍を使って追い払え!」

 死神竜は恐ろしい敵ではあったが、魔亀まきを使って空から毒の短槍を投げる事で今までは追い払っていたし、学習した死神竜が神殿を襲うことは無かった。

「それが、毒槍が効かないのです! 既に10本ぐらい刺してある死神竜でも、走り続けています!」
「何だと!?」
「このままだと、ここまで入ってくるかもしれません!」

 兵士長達はゴーレムを使った守備隊を指揮するために神殿の一階奥にあった大きな部屋にいた。毒槍が効かない理由は判らなかったが、看過できない状況のようだ。

「止むを得ん、ゴーレムを2体動かそう! 今すぐだ!」
「了解した」

 4人の土魔法士が隣にある祈りの部屋へ移動して、地面に刻まれたネフロスの紋章の中心にボルケーノ鉱石でできた人型の傀儡くぐつを置いて祈りを捧げた。祈りに連動して神殿の入り口で並んでいた巨大な石柱が突然崩れて砂山に変わった。そして砂山が盛り上がり始め・・・、巨大なゴーレムがそこに立ち上がった。

 ゴーレムの表面は黒く輝くボルケーノ鉱石に覆われ、その両手には鉱石で作られた剣が生えていた。入り口付近で兵士に襲い掛かっていた死神竜-ラプトル達は背後に現れたゴーレムを見て・・・無視した。

 ラプトル達はサトルから神殿に居る兵士を襲えと指示を受けていた。それ以外の指示は無かったから、ゴーレムを襲おうとも逃げようともしない。兵士は長槍でラプトルを遠ざけようと頑張っていたが。兵士と同じように既に死んでいるラプトルは痛みを感じずに止まろうとしない。槍がずぶずぶと体に刺さって行っても、そのまま前進して来る。

 ゴーレムを操る魔法士達は戸惑っていた。死神竜と兵士達の距離が近すぎてゴーレムの剣を振り回すことが出来なかったのだ。

「何をしている!早く、ゴーレムで死神竜を追い払わんか!」
「しかし、兵士との距離が近すぎます!」
「構わん! 兵は後で治療すればよい! まずは追い払って、神殿の入り口から奴らを遠ざけろ!」
「はい!」

 兵士長が与えた冷徹な指示を実行し、ゴーレムは剣を使って地面に居た兵士ごと死神竜を薙ぎ払った。死神竜も兵士も斬られた、というよりは体を腰あたりで破壊された状態で10メートル程吹き飛んで行く。2体のゴーレムが剣を使って地面を掃除するかのように敵味方を薙ぎ払って、神殿の入り口へ陣取った。

 動けるラプトルは動けなくなるまで入り口目指して突っ込んだが、神殿の守護者となったゴーレムの足元を通り抜けることは出来なかった。
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