上 下
322 / 343

Ⅱ-161 ネフロス国5

しおりを挟む
■ネフロス国密林

 猿人部隊には装備を与えて半数をキャンプで休憩させて、残りの半数を連れてメイが暮らしていた農場へ向かうことにした。装備といっても与えたのは最大サイズの工事用ヘルメットとチタンの棒だ。ヘルメットは防護の意味もあるが、間違えて撃たないように黄色い目印で安全第一という事だ。チタン製の鋼材は単なる棒だが直径5㎝、長さ1メートルで猿人たちの膂力りょりょくなら人間の頭蓋を破壊するには十分な武器になるはずだった。装備を貰った猿人たちは大喜びで木を飛び回りながら、いろんなものをしばき上げていた。

 密林の中にある農場についてメイの通訳で猿人たちから情報を集めたが、密林には4か所の農場があり、メイが居た場所は獣人ばかりが集まっている農場と言う事ぐらいしか猿人たちは知らなかった。

「ミッドランドに獣人は沢山いるのか?」
「いや、ミッドランドには居ない。俺は洞窟で初めてメイを見た時はシンディの子供だと思ったが、話せるから違う種族だと判ったぐらいだ」

 ミッドランドに獣人が居ないなら、メイ達は何処から連れて来られたんだろうか?俺達が居たドリーミア? あるいは他の世界?

 農場の近くまで来ると、亀兵士が飛んできたがミーシャがすかさず撃ち落として、落ちた兵士を猿人たちがタコ殴りにしていく。最初から死人の兵士は血を流すことも無いが、顔の原型はとどめていなかった。猿人たちの知能は俺の意思を伝えるには十分で、チタンの棒だけで思った以上の戦力になってくれる。更に俺が頼むと農場の柵を乗り越えて中から扉を開けてくれたので、装甲戦闘車のまま乗り入れて中にいた兵士へ7.62㎜機銃で銃撃を浴びせた。

 農場には亀で飛んできたのも入れて18人の兵がいたが銃で撃たれるか猿人に殴られるかして、あっという間に無力化された。猿人は倒れた兵士を引きずりまわして俺の前まで連れて来てくれる。とりあえず3人残してからストレージに放り込んでおいた。

 3人の兵士は仲間の兵士が目の前で消えたところを見て、十分に怯えてくれたので聞きたいことの大部分を聞き出すことが出来た。用が済むと仲間がいるストレージの個室に追加していく。既にどのぐらいの死人を預かっているか判らなくなりつつあるが、時間のある時に確認することにしよう。

「メイ、お前はここに残るか?この農場には知り合いがいるんだろ?」
「ここには居ない・・・、お母さんもお父さんも神殿に・・・」

 可哀想なことを聞いてしまったのかもしれない。

「じゃあ、シンディと一緒に来てくれるか? 戦いに行くから危ないかもしれないけど、居てくれると助かるんだ」
「うん! 連れて行って!」

 メイは農場に残ってもいいと言った時とは全く違う笑顔でついて行くことを喜んでくれた。幼子を連れて戦いに行くのは危険だが、この世界に安全な所はそんなに多くない。農場にいるよりも装甲戦闘車の中でシンディが守ってくれる方が安全かもしれない。捕らわれていた獣人たちにパンと干し肉を中心に食料をふんだん置いてから次の農場へと向かった。

 メイ達が居たところは第4農場と言うところだったが、。続いて第2農場、第1農場と回ってベースキャンプへと戻った。猿人たちは襲撃が成功して活躍できたのでご機嫌だったが、俺は農場で集めた情報にめぼしい物が無く、神殿の攻略をどうするか悩んでいた。だが、既に日没の時間になり、夕食を食わせてから猿人たちには交替で見張りに出てもらうことにした。

 休憩する猿人のために外壁に使っているコンテナの中にマットレスを敷いてやると、狂ったように喜んで転がりまくっていた。メイによると食事も寝床も最高なので狼様と俺の言う事は何でも聞くと言っているらしい。

 俺達はメイとストックと一緒にシェルターの中に入って夜を過ごすことにした。明日以降の作戦を練る必要があるからだったが、外への警戒のために赤外線カメラを3台設置して、モニターで監視しながら食事をとることにした。

「明日は鉱山に捕らわれている人を解放しようと思っていますが、ストックさんはどうしますか? ここに残ってもらっても良いですし、農場に居てもらっても構いませんよ」
「そうだな・・・、迷惑でなければ一緒について行けないだろうか?ミッドランドの人間が捕らえられているなら、手助けしたいと思う。無論、連れて帰ることが出来れば謝礼が貰えると言う事もある」
「わかりました。その代わり自分の面倒はお願いします。解放した人間についても同じです。我々はミッドランドまでお連れすることは出来ませんから、農場の人達と一緒に自力で戻ってください」
「ああ、判っている。いずれにせよ感謝しているよ」

 農場で集めた情報では農場にいるのは子供と老人だけで、男達は鉱山で作業をさせられていると言う事だった。そして、女性の多くは年齢にかかわらず生贄となったと・・・。鉱山には100人ぐらいが働いているらしいが、入り口は神殿の北側に位置する場所にあって、捕虜と同じぐらい兵士がいる。

 農場や神殿を襲撃しているのは敵の戦力を確認するためだった。今の所手応えのある敵はいなかったが油断はできない。神殿には数百の死人兵が居る以外にも様々な仕掛けや土魔法を使える魔術師がいるらしいのだ。そう、この世界では魔法は土魔法しか使えない・・・。

「ストックさん、この世界にも神様はいるんでしょうか? 神を信仰する教会はある?」
「もちろん神はいるよ。ミッドランドには太陽神ラムー様を信じる神殿があるし、王家はラムー様の血を受け継いでいると言われている」

 -ラムー。ドリーミアとは違う神様ってことか。俺の“神”とも違うんだろう。

「ラムー様は魔法の恩恵を与えてくれないんですか?」
「それは俺には判らんな。傭兵の中には土魔法を使える者は居たが、太陽の魔法ってのは聞いたことが無い」
「そうですか・・・」

 今のところは土魔法だけを警戒しておけばいいと言う事だろう。それよりも大きな問題があった。どうやってドリーミアに戻るかという事だ。集めた情報から俺がネフロスについて導き出したのは、ネフロスの信者達はいろんな世界に祭壇を移動させることで行き来しているのではないかという仮説だった。兵士達は祭壇はこの世界から消えている時がある、そして、辺りの景色が突然変わることがあると言っていた。実際にあるはずの第3農場は無くなっていたし、その場所はドリーミアの森が持って来たようになっている。

 -パラレルワールドなのか? しかし、地面が移動するのか?

 一つだけ確かなのは、このミッドランドのネフロスにも、ドリーミアにもボルケーノ火山があり、火山から見て同じ場所に神殿があると言う事だ。火山とネフロスの神殿になにか秘密が隠されているような気がするが、確証があるわけでもない。

 -親玉を殺さずに捕まえないと・・・、帰れないかも・・・。

「サトル、明日は鉱山が終わったら神殿に行くのか?」
「それは時間次第かな。鉱山がすぐに片付けば、そのまま行っても良いけど。慌てないようにしたいと思っている。武器の訓練もしないといけないしね」
「そうか、判った」
「ミーシャとサリナは心配じゃないのかな? その・・・、ドリーミアに戻れないかもしれないだろ?」
「ふむ。戻れないか・・・、大丈夫だろう。お前もシルバーもいるのだしな」
「そう! サトルが居るから大丈夫!」
「そ、そうか・・・」

 俺以外の二人が何の心配もしていないのが解せないが、信頼されているなら頑張らないと・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

現代兵器で異世界無双

wyvern
ファンタジー
サバゲ好き以外どこにでもいるようなサラリーマンの主人公は、 ある日気づけば見知らぬ森の中にいた。 その手にはLiSMと呼ばれるip〇d似の端末を持たされていた。 これはアサルトライフルや戦闘機に戦車や空母、果ては缶コーヒーまで召喚できてしまうチート端末だった。 森を出た主人公は見る風景、人、町をみて中近世のような異世界に転移させられと悟った。 そしてこちらの世界に来てから幾日か経った時、 主人公を転移させた張本人のコンダート王国女王に会い、 この国がデスニア帝国という強大な隣国に陸・海・空から同時に攻められ敗戦色濃厚ということを知る。 主人公は、自分が召喚されたのはLiSMで召喚した現代兵器を使ってこの国を救って欲しいからだと知り、 圧倒的不利なこの状況を現代兵器を駆使して立ち向かっていく! そして軍事のみならず、社会インフラなどを現代と引けを取らない状態まで成長させ、 超大国となったコンダート王国はデスニア帝国に逆襲を始める そしてせっかく異世界来たのでついでにハーレム(軍団)も作っちゃいます笑! Twitterやってます→https://twitter.com/wyvern34765592

【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール
ホラー
愛しています愛しています 私はあなたを愛しています 恨みます呪います憎みます 私は あなたを 許さない

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗
ファンタジー
〜転生なし、スキルなし、魔法なし、勇者も魔王もいない異世界ファンタジー〜 危険なモンスターが生態系の頂点に君臨。 蔓延る詐欺、盗賊、犯罪組織。 人の命は軽く殺伐とした世界。 冒険者がモンスターを狩り、騎士団が犯罪を取り締まる。 人々は商売で金を稼ぎ、たくましく生きていく。 そんな現実とは隔離された世界で最も高い山に、一人で暮らす心優しい青年鉱夫。 青年はひたすら鉱石を採掘し、市場で売って生計を立てる。 だが、人が生きていけない高度でツルハシを振り続けた結果、無意識に身体が鍛えられ人類最強の肉体を手に入れていた。 自分の能力には無自覚で、日々採掘しては鉱石を売り、稼いだ金でたまの贅沢をして満足する青年。 絶世の美女との偶然の出会いから、真面目な青年鉱夫の人生は急展開。 人智を超えた肉体と、鉱石やモンスターの素材でクラフトした装備や道具で活躍していく。 そして素朴な鉱夫青年は、素晴らしい仲間に支えられて世界へ羽ばたく。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール
恋愛
「リリア、お前は要らない子だ」 「リリア、可愛いミリスの為に死んでくれ」 「リリア、お前が死んでも誰も悲しまないさ」  リリア  リリア  リリア  何度も名前を呼ばれた。  何度呼ばれても、けして目が合うことは無かった。  何度話しかけられても、彼らが見つめる視線の先はただ一人。  血の繋がらない、義理の妹ミリス。  父も母も兄も弟も。  誰も彼もが彼女を愛した。  実の娘である、妹である私ではなく。  真っ赤な他人のミリスを。  そして私は彼女の身代わりに死ぬのだ。  何度も何度も何度だって。苦しめられて殺されて。  そして、何度死んでも過去に戻る。繰り返される苦しみ、死の恐怖。私はけしてそこから逃れられない。  だけど、もういい、と思うの。  どうせ繰り返すならば、同じように生きなくて良いと思うの。  どうして貴方達だけ好き勝手生きてるの? どうして幸せになることが許されるの?  そんなこと、許さない。私が許さない。  もう何度目か数える事もしなかった時間の戻りを経て──私はようやく家族に告げる事が出来た。  最初で最後の贈り物。私から贈る、大切な言葉。 「お父様、お母様、兄弟にミリス」  みんなみんな 「死んでください」  どうぞ受け取ってくださいませ。 ※ダークシリアス基本に途中明るかったりもします ※他サイトにも掲載してます

【完結】浮気者と婚約破棄をして幼馴染と白い結婚をしたはずなのに溺愛してくる

ユユ
恋愛
私の婚約者と幼馴染の婚約者が浮気をしていた。 私も幼馴染も婚約破棄をして、醜聞付きの売れ残り状態に。 浮気された者同士の婚姻が決まり直ぐに夫婦に。 白い結婚という条件だったのに幼馴染が変わっていく。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ
ファンタジー
 極々平凡なサラリーマンの『舞日 歩』は、駄女神こと『アテナ』のいい加減な神罰によって、異世界旅行の付き人となってしまう。  そこで、主人公に与えられた加護は、なんと歩くだけでレベルが上がってしまうというとんでもチートだった。  しかし、せっかくとんでもないチートを貰えたにも関わらず、思った以上に異世界無双が出来ないどころか、むしろ様々な問題が主人公を襲う結果に.....。 これは平凡なサラリーマンだった青年と駄女神が繰り広げるちょっとHな異世界旅行。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

処理中です...