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Ⅱ-154 再び神殿へ6

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■ネフロス国 神殿周辺

 シルバーは文字通り飛ぶように走った。一蹴りで10メートル近くは飛んでいただろう。サリナは振り落とされないようにサトルに覆いかぶさるように腹這いになって、小さな手でふわふわの毛をしっかりと掴んでいた。ミーシャはシルバーの後ろを必死で追いかけたが、どんどんと離れて行ってしまう。それでもあきらめずに両足を大きくストライドさせながら、荒れ地を走り続けた。手に持ったライフルも走りながらスリングで背中に固定して、さらに加速していく。ショーイとママさんもその後を追い掛けていたが、二人ともミーシャの背中が遠ざかっていくのがはっきりと判った。

「チィッ、あいつ病み上がりじゃねえのかよ・・・」

 ショーイはぼやきながら追いかけていたが、振り返ってマリアンヌとの距離が開きすぎた事を確認すると少しスピードを落として近づくのを待つことにした。早歩き程度の速度に落とした時に、地面から伝わる振動を感じた。

 -来る!

 ショーイは刀に手をかけてその場に止まると地面を突き抜けて現れた三つの黒い影に対峙した。

「ぞろぞろと這い出てきやがって・・・、フンッ!」

 一番近い正面に居る巨大ムカデに向かって距離を詰め、間合いに入った瞬間に抜刀した。鞘から抜かれた刀身は炎を纏って伸びて行き、ムカデの腹を綺麗に断ち切った。だが、両側のムカデは口から毒液を同時に飛ばして迫って来る。右の毒液を屈んでかわし、左からの毒液を炎の刀で払いのけたところへ、右のムカデの大きな顎が鋭く迫る。さらに左からも・・・。

 -シュパッ!-シュパッ!-シュパッ!-シュパッ!

 だが、伸びてきた2匹のムカデの顎はショーイに届く寸前で空気を切り裂く風魔法で輪切りにされた。ショーイの両側に輪切りになったムカデが体液を漏らしながら転がっている。

「ありがとうございます。マリアンヌ様」
「手助けは要らないでしょうけどね、次のお客さんが来てますからね」
「上ですね」
「ええ・・・、それ以外も・・・」

 マリアンヌは走りながら風魔法を放って援護したところでショーイに追いついていた。二人が上と言ったのは上空に翼竜が3匹旋回をしているからだった。かなり高い位置を飛んでいて、マリアンヌの風魔法で仕留めるにも距離がありすぎてかわされるだろう。それに翼竜が飛んでいる高度よりも低いところへ黒い雲が湧き出し、雷を伴いながら何かが現れようとしている。さらに右の密林からはステゴもどきが木をなぎ倒しながら、二人の方向へ走って来ているのも見える。

「上は私が対応します。あなたは走って来る大きいのをお願いします」
「わかりました、ここで仕留めます」

 ショーイはマリアンヌと離れるのを避けて、ステゴもどきが来るのを敢えて待つことにした。マリアンヌは黒雲から稲光と共に現れたオオサンショウウオのような化け物に向かって風の刃を飛ばした。

 -キュェーイッ!

 頭が割れそうな悲鳴が頭上から響き渡ったが、致命傷にはならなかったようだ。そいつは雲の中からぬめぬめとした体を出しながら赤い双眸を光らせて口を開くと、酸を含んだ唾液を飛ばしてきた。マリアンヌは風の魔法で唾液を弾き返すと、鋭い氷柱を風魔法で叩きつけた。氷柱は狙い通り、開いた口の中から小さな脳に突き刺さりそいつの動きを止めた。巨大なサンショウウオはそのまま地面に落下して来る。

 1匹目を仕留めたが雲の中から続いて出て来るのとあわせて翼竜たちが高度を下げて来ているのもわかった。マリアンヌは雷雲のすぐ横に巨大な火炎を放ち、翼竜が降りて来るルートを制約しつつ、サンショウウオをけん制した。翼竜たちは火を避けて旋回していたが、サンショウウオが現れるのとタイミングを合わせて翼を畳んだ。自由落下で3匹の翼竜がマリアンヌめがけて急降下してくる。マリアンヌは敵を引き付けて、相手が獲物を捕らえる爪を立てるために翼を開いた瞬間を狙って、風の刃で竜巻を頭上に作った。

 -グゥエーィ! ギャァアオーッ!

 翼竜の翼は無数のカマイタチで切り刻まれて、3匹とも血だらけになって地面へと落ちた。3匹を氷魔法で完全に凍らせてから、地上へ下りて来ようとしているサンショウウオを炎魔法で丸焼きにして、マリアンヌは自分の役割を完了させた。ショーイもステゴもどきの吐く炎をかいくぐりながら前足を断ち、動けなくなったところで首を斬り落としている。

 この二人のコンビニとっては大した相手では無かったが、それでも倒すまでに数分の時間が経過してしまった。既に、サトルを乗せたシルバーはおろかミーシャの姿もどこにも見えなかった。

「急ぎましょう」
「はい」

 二人は再び走り出したが、その二人の前方が少し暗くなったように感じた。

「あれは・・・、カーテンですね」

 暗く見えたのはこの場所に来るときに通過した灰色のカーテンが前方に現れたからだった。気になって入って来たカーテンを見るために振り向くと、そこにはさっきまであった灰色のカーテンが無くなっている。その理由は二人には判らなかったが、足を止める訳にはいかない。サトル達は既に灰色のカーテンの向こうへ入っている。おそらく、遠くに見えていた階段状の巨大な祭壇を目指しているはずだ。

 だが、二人が前方のカーテンまで50メートル程に近づいた時にカーテンが突然消えて、辺りが明るくなった。それに・・・。

「これは!」
「嘘だろ!」

 二人が大きな声を上げたのは、カーテンが消えて先の景色が突然変わっていたからだった。ボルケーノ火山は元あった場所にある。それは同じなのだが、サリナが爆裂魔法で削って荒地になっていた地面には、カーテンがあったところから先で線を引いたように木がちゃんと生えている。それだけでない、生えている木も変わって、密林が無くなっていたのだ。

「こいつは一体・・・」
「違う世界・・・、いえ、私達が居た元の世界につながったんでしょう」
「元の世界? じゃあ、あいつらは?」
「サトル達は・・・別の世界に連れて行かれたのかもしれません」
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