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Ⅱ-110 長い夜
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■カインの町
俺が消火活動を終えて町に戻ると町の中は大騒ぎになっていた。ほとんどの家に明かりが灯り、町長の屋敷がある広場には大勢の人が集まっている。バギーを見た住民たちは怯えたまなざしを向けてきているが、町の外から聞いたことの無い音の爆音が鳴り響いていたのだから当然の結果だった。町の通りをゆっくりと町長の屋敷まで進むと屋敷の前にはママさんが立って周りの人間と話をしていたので、俺とショーイも合流した。
「町長、こちらが今話していた勇者です。それで、さっきの女は逃げてしまったのですか?」
ママさんは町長に俺を紹介した後で俺とショーイを冷ややかな目を向けた。まるで、出来の悪い試験結果を見た後の母親のような目をしている。
「ええ、黒い死人達が集まっている小屋を見つけたんですが、尋問をしているときに魔法士に襲われてしまって・・・」
「そうですか、残念ですね。さっきの大きな音はあなたの魔法ですか?」
「敵の魔法士と戦うときの音です。それで、あの女は町長の奥さんなんですか?」
「ええ、町長はそう言っていますが・・・」
ママさんは町長を見て少し困ったような表情を浮かべた。
「うちの、うちの家内をどうしたんだ?」
「質問はこっちがする。あんたの妻は黒い死人達の仲間だったんだよ。俺の仲間を森に誘い込んだのも計画のうちだろ。お前も知っていたのか?」
俺は自分の父親より年上と思われる町長に向かって見下すように詰問した。こいつがグルなら、しっかりと聞き取りをしなければいけないと思っている。
「そんな! あいつが・・・、あいつが黒い死人と関わりがあるなんて!そんなことは絶対ないはずだ!」
「ですけど、仲間に眠り薬を飲ませたのは間違いないようですよ」
ママさんが柔らかく割って入ったが、俺同様に町長の妻が敵だと言うことは疑っていない。そう言われて町長も難しい顔で眉間に皺を浮かべている。
「だが・・・、確かに昨日から様子がおかしかったんだ・・・。あいつはそんなにしっかりした女じゃないんだが、てきぱきといろんなことができるようになって・・・」
「だったら操られていたのか?」
「もしくは、入れ替わっていたのかもしれませんね」
「操る? 入れ替わる? あんたたちは一体何の話をしているんだ!?」
町長は俺とママさんの話に全くついて来られないが仕方ないだろう。知っていて、とぼけているなら大した役者だが・・・。敵は何らかの方法で町長の妻を自分達の意のままにしたはずだ。もっとも、最初から黒い死人達の仲間だった可能性も残っているが・・・。
「その件も大事だが、それよりも重要な話がある。見つけた奴らは全員死んだが、まだ黒い死人達の応援がこの町にくるはずだ。この町に兵士はいないのか?」
「えっ!? なんで、こんな田舎の町に? この町に専門の兵士などおりません、私も含めて臨時で徴用されることはありますが・・・、で?そいつらは何をしにこの町へ?」
「ああ、あんたたちを皆殺しにするつもりだよ」
「!?」
ショックで倒れそうになっている町長に経緯を説明して、奴らが来たらショーイ中心に追い払う段取りにしておいた。応援が来ると言っても、本隊が壊滅したのだから何もできないだろう。10人や20人ならショーイ一人で何とかしてくれるはずだ。無責任な話だが、俺には他に責任を取らないといけないことがあった。そう、まずはミーシャだ。早く元に戻したいが、ここから連れ出すのを急ぐ必要がある。
カインの町は即席の自警団が町の周りを警戒して、不審者を見つけたら町の中心で陣取るショーイに連絡する体勢が整ったことを確認すると、俺とママさんはミーシャを車にのせてすぐにスタートスに向かって走り始めた。その道中で今後の動きを決めておいた。
「スタートスからセントレアの屋敷に戻るのですか?」
「いや、敵の手が届きにくいところにしたいから、エルフの里に行きます」
「そうですね。その方が良いでしょう」
セントレアには敵の目があるはずだった、今回の襲撃は事前に準備されたものなのだろう。俺達は常に監視されている・・・、そういう風に考えておかなければならない。エルフの里なら敵の目も届きにくいから安心だ。だが、俺はミーシャの母親にどんな風に説明すれば良いか分からなかった。今回の件は俺が発案者だから大きな意味では俺に責任があることは間違いない。しかし、責任があるとしてどうすれば・・・。今のところは謝罪して、解決策を急いで探すしかないだろう。一番確実なのは呪術の術者を探すと言うことだが、果たしてどこに?それに、もう一つの心配事も残っているのだ。
「その後はムーアの倉庫に戻ってサリナ達がいるか確認しないと・・・」
「ええ、ですけど、もう遅い時間です。そろそろ休まないといけません」
ママさんの言う通り、時間は既に24時を過ぎている。しかし、サリナが戻っていなければミーシャ達と同じように敵の罠にはまっている可能性がある。
「心配じゃないんですか? サリナのことが」
「もちろん心配です。ですけど、あなたの事も心配なのですよ。休息をとらずに無理をすると判断を誤って失敗することも多いですから。倉庫に戻ったら、日が昇るまでは寝なさい。サリナの事は明日にしましょう。もともと、期限は明日迄なのですから」
確かに心配性の俺が3日で終わるはずだと思い込んでいるだけで、そもそもは4日目までに戻れば良い計画だったのだ。
「判りました。じゃあ、もし、今日戻っていなければ明日は5時に起きて出発します」
「ええ、そうしましょう」
暗い夜道を飛ばすミニバンの後方で眠ったままのミーシャをバックミラーで見ながら、全てを甘く考えすぎていた自分を呪った。こっちから攻撃するのは容易いが、仲間を守るのは難しかったのだ。普段から襲われると言うことに備える必要があったのに、あまりにも鈍感だった。
-じゃあ、これからどうする? 何もせずに隠れて暮らすか?
自分に問いかけたが、今となってはそれも無理だろう。あまりにもこの世界に関わりすぎている。となると・・・、敵を殲滅するしかない。
-攻撃は最大の防御ということだな。
より一層冷酷にならなければこの世界では生きていけないのだ。
俺が消火活動を終えて町に戻ると町の中は大騒ぎになっていた。ほとんどの家に明かりが灯り、町長の屋敷がある広場には大勢の人が集まっている。バギーを見た住民たちは怯えたまなざしを向けてきているが、町の外から聞いたことの無い音の爆音が鳴り響いていたのだから当然の結果だった。町の通りをゆっくりと町長の屋敷まで進むと屋敷の前にはママさんが立って周りの人間と話をしていたので、俺とショーイも合流した。
「町長、こちらが今話していた勇者です。それで、さっきの女は逃げてしまったのですか?」
ママさんは町長に俺を紹介した後で俺とショーイを冷ややかな目を向けた。まるで、出来の悪い試験結果を見た後の母親のような目をしている。
「ええ、黒い死人達が集まっている小屋を見つけたんですが、尋問をしているときに魔法士に襲われてしまって・・・」
「そうですか、残念ですね。さっきの大きな音はあなたの魔法ですか?」
「敵の魔法士と戦うときの音です。それで、あの女は町長の奥さんなんですか?」
「ええ、町長はそう言っていますが・・・」
ママさんは町長を見て少し困ったような表情を浮かべた。
「うちの、うちの家内をどうしたんだ?」
「質問はこっちがする。あんたの妻は黒い死人達の仲間だったんだよ。俺の仲間を森に誘い込んだのも計画のうちだろ。お前も知っていたのか?」
俺は自分の父親より年上と思われる町長に向かって見下すように詰問した。こいつがグルなら、しっかりと聞き取りをしなければいけないと思っている。
「そんな! あいつが・・・、あいつが黒い死人と関わりがあるなんて!そんなことは絶対ないはずだ!」
「ですけど、仲間に眠り薬を飲ませたのは間違いないようですよ」
ママさんが柔らかく割って入ったが、俺同様に町長の妻が敵だと言うことは疑っていない。そう言われて町長も難しい顔で眉間に皺を浮かべている。
「だが・・・、確かに昨日から様子がおかしかったんだ・・・。あいつはそんなにしっかりした女じゃないんだが、てきぱきといろんなことができるようになって・・・」
「だったら操られていたのか?」
「もしくは、入れ替わっていたのかもしれませんね」
「操る? 入れ替わる? あんたたちは一体何の話をしているんだ!?」
町長は俺とママさんの話に全くついて来られないが仕方ないだろう。知っていて、とぼけているなら大した役者だが・・・。敵は何らかの方法で町長の妻を自分達の意のままにしたはずだ。もっとも、最初から黒い死人達の仲間だった可能性も残っているが・・・。
「その件も大事だが、それよりも重要な話がある。見つけた奴らは全員死んだが、まだ黒い死人達の応援がこの町にくるはずだ。この町に兵士はいないのか?」
「えっ!? なんで、こんな田舎の町に? この町に専門の兵士などおりません、私も含めて臨時で徴用されることはありますが・・・、で?そいつらは何をしにこの町へ?」
「ああ、あんたたちを皆殺しにするつもりだよ」
「!?」
ショックで倒れそうになっている町長に経緯を説明して、奴らが来たらショーイ中心に追い払う段取りにしておいた。応援が来ると言っても、本隊が壊滅したのだから何もできないだろう。10人や20人ならショーイ一人で何とかしてくれるはずだ。無責任な話だが、俺には他に責任を取らないといけないことがあった。そう、まずはミーシャだ。早く元に戻したいが、ここから連れ出すのを急ぐ必要がある。
カインの町は即席の自警団が町の周りを警戒して、不審者を見つけたら町の中心で陣取るショーイに連絡する体勢が整ったことを確認すると、俺とママさんはミーシャを車にのせてすぐにスタートスに向かって走り始めた。その道中で今後の動きを決めておいた。
「スタートスからセントレアの屋敷に戻るのですか?」
「いや、敵の手が届きにくいところにしたいから、エルフの里に行きます」
「そうですね。その方が良いでしょう」
セントレアには敵の目があるはずだった、今回の襲撃は事前に準備されたものなのだろう。俺達は常に監視されている・・・、そういう風に考えておかなければならない。エルフの里なら敵の目も届きにくいから安心だ。だが、俺はミーシャの母親にどんな風に説明すれば良いか分からなかった。今回の件は俺が発案者だから大きな意味では俺に責任があることは間違いない。しかし、責任があるとしてどうすれば・・・。今のところは謝罪して、解決策を急いで探すしかないだろう。一番確実なのは呪術の術者を探すと言うことだが、果たしてどこに?それに、もう一つの心配事も残っているのだ。
「その後はムーアの倉庫に戻ってサリナ達がいるか確認しないと・・・」
「ええ、ですけど、もう遅い時間です。そろそろ休まないといけません」
ママさんの言う通り、時間は既に24時を過ぎている。しかし、サリナが戻っていなければミーシャ達と同じように敵の罠にはまっている可能性がある。
「心配じゃないんですか? サリナのことが」
「もちろん心配です。ですけど、あなたの事も心配なのですよ。休息をとらずに無理をすると判断を誤って失敗することも多いですから。倉庫に戻ったら、日が昇るまでは寝なさい。サリナの事は明日にしましょう。もともと、期限は明日迄なのですから」
確かに心配性の俺が3日で終わるはずだと思い込んでいるだけで、そもそもは4日目までに戻れば良い計画だったのだ。
「判りました。じゃあ、もし、今日戻っていなければ明日は5時に起きて出発します」
「ええ、そうしましょう」
暗い夜道を飛ばすミニバンの後方で眠ったままのミーシャをバックミラーで見ながら、全てを甘く考えすぎていた自分を呪った。こっちから攻撃するのは容易いが、仲間を守るのは難しかったのだ。普段から襲われると言うことに備える必要があったのに、あまりにも鈍感だった。
-じゃあ、これからどうする? 何もせずに隠れて暮らすか?
自分に問いかけたが、今となってはそれも無理だろう。あまりにもこの世界に関わりすぎている。となると・・・、敵を殲滅するしかない。
-攻撃は最大の防御ということだな。
より一層冷酷にならなければこの世界では生きていけないのだ。
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