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Ⅱ‐43 身代金

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■セントレア イースタンの屋敷

 ―何故こうなるのか? 俺の休暇はどうなった?

 俺は捕虜たちの取り扱いに目途が立ったことに気分を良くして、意気揚々とイースタンの屋敷に戻ってきた。だが・・・。

「それで、ユーリを誘拐した犯人は誰か判っているんですか?」
「名乗りはありませんが、おそらく黒い死人達によるものでしょう・・・」

 屋敷に戻ると商会から戻っていたイースタンとハンスが青い顔で俺達を迎えたのだ。事情を聴くと、昨日ユーリがエルとアナを連れて町に買い物へ出たときに馬車が襲撃され3人とも連れ去られたということだった。そして、商会のほうに身代金を要求した書状が届いたと・・・。

「あいつらか・・・、書状には何と書いてあったんですか?それと書状を持ってきた奴はどうしたんですか?」
「書状には息子の命が惜しければ金貨10万枚を用意しろと・・・、書状を持ってきた男には配下の者が後をつけましたが、近くの酒場に入って昼から酒を飲んでいるようです。どうも、書状を届けるだけの頼まれ仕事のようです」

 金貨10万枚って・・・1枚10万円だとして・・・、千枚で1億円だから・・・、100億円!? とてつもない大金だが、この世界一の金持ちの一人息子だから、そんなものなのか? 書状を持ってきた男からは辿れないとなると、刑事ドラマなどでは受け渡しがカギになるのだろう。もちろん電話じゃないから逆探知などができるわけではないし。

「お金はいつ、どうやって受け渡すのですか?」
「期限は3日後、馬車を用意して私と女性の御者2名だけで火の国への街道を進めと書かれています」

 ―場所を明確にせず、守りを固めていないか確認するつもりか・・・

「それで、イースタンさんはお金を用意して払うおつもりですか?」
「はい、もちろんユーリの命はお金には代えられません。ですが、金貨10万枚を集めるのは時間的に難しいのです。商会の金庫からすべて集めれば足りるとは思いますが、各国にある支店から回収してくるには3日では日にちが足りません・・・、特に火の国は戦のあとで治安が乱れているでしょうし・・・、この国と風の国で集めても7万枚ぐらいでしょうか・・・」

 確かに金貨10万枚となると物理的な量もすごいだろう・・・、そういえば俺も金貨を持っていたような気がするがいくらぐらいあるんだっけ?

「私の手元にも金貨がありますから、ある分は使ってください。えーっと、・・・」

 ラインの領主のところで1万枚没収して退職金で2000枚ぐらい使って、残り8000枚?それと、ムーアのアジトでも金貨8000枚だから、手元には16000枚ぐらいはあるはずだな。それ以外にも魔獣討伐の・・・

「正確にはわかりませんが、16,000枚ぐらいはあると思うので、好きに使ってください」
「い、16,000枚!? そのようなお金をど、何処で・・・、いえ、私が聞くことではありませんな。では、必ず返すとお約束してお借りさせていただきます。本当にありがとうございます」
「それでも、まだ足りないですよね?火の国に行けばあるんだったら、取りに行きましょうか? 明日には戻って来られると思いますよ」
「火の国まで二日で!? ・・・そうでしたね、それもサトル殿なら造作もないのでしょう。ですが、残り15000枚程度なら、王宮に借財を頼んでみようと思います」
「王様に? 貸してくれるのですか?」
「頼んでみなければ分かりませんが、そのぐらいなら何とかしてくださると思います」

 15,000枚でも15億円だが、イースタンは借りる自信があるようだった。

「そうですか・・・、それならほかの支社からお金を運ぶのを手伝いましょう」
「ですが、風の国と森の国から金貨を運ぶ段取りで早馬をすでに出しました」
「ああ、それはそれで良いでしょうが、運ぶところを襲うつもりかもしれませんからね。それぞれの国から運搬のをやりますよ。今からなら明日の午前中には戻って来れますからね」

 黒い死人達のことだ、道中で襲撃することを考えているかもしれないし、情報がどこかで漏れれば大金の搬送にはリスクが伴うのは間違いない。俺はまずは金を払える状態にしておくつもりだったが、決してあいつらに金を渡すつもりは無かった。

 ―大量の金を運ぶ先に、敵の首領がいるかもしれない。そこを・・・

■水の国 首都セントレア 王宮

 俺はイースタンの窮状を救うために金貨運搬を買って出た。森の国にはすぐにミーシャとサリナを向かわせて、風の国にはショーイとリンネを連れて俺が行き、無事にそれぞれの国から大量の金貨をイースタンの屋敷へと翌日には持ってくることが出来た。その日の午後には、王宮にイースタンと一緒に捕虜を連れて行き捕虜の3名はそのまま王宮の地下にある倉庫のようなところで幽閉された。牢でもないところだったので、俺は手かせと足かせを3人に装着させてから王宮の兵士に倉庫へ入れてもらった。きょうはミーシャとサリナだけでなく、サリナママとリカルドも一緒に来ているが、イースタンは王と話をしに別室へ移動して、俺達は女王のいる応接間に案内された。

 女王は今日も表情を変えずに入ってきた俺を見たが、続いて入ってきたマリアンヌを見て少し頬を緩めた。マリアンヌは女王が会いたがっていると聞いて、不思議そうな顔をしながらも同行することにすぐに同意した。リカルドは意見を聞いてもらえずについて来ているが、俺が女王やマリアンヌさんに何も話していないかが気になっていたようだ。

「マリアンヌ、久しぶりですね。元気そうで何よりです」
「おかげさまで・・・、失礼ながら以前お会いした時のことはあまり覚えていません」

 女王は俺達にソファーを進めながらお茶の用意をし始めた。紅茶ではないだろうが、何かの茶葉の良い匂いが応接間全体に広がっていく。

「そうですね・・・、前にお会いしたのはあなたの父上と一緒で・・・、まだ5歳ぐらいだったのかもしれませんね」
「ええ、ですが、父からは女王の・・・、いえ、教皇様のことは聞いていますので」

 ―教皇!? それってどういう意味だ?

「教皇・・・、いえ、今はそういう役割の人間は教会にはいません。残念ながら昔の教会とは変わってしまっていますし、信者の祈りも減っていますからね。聖教会全体の魔法力も昔とは違うのですよ」
「そうなのですか・・・」

 女王とマリアンヌは二人だけでわかる会話を続けていたが、この女王が教会の実質的なトップなのだろうか?それに祈りの数で教会全体の魔法力が左右される?

「それで、今日お越しいただいたのはそちらの新しい勇者様についてお話をしたかったのです」

 女王はサリナママから俺に目線を移してさらりと言ってのけた。

 ―どいつもこいつも俺を勇者って・・・

「今度の勇者はあなたの祖先とはまた違うタイプのようですね。まだ、子供・・・、この世界では十分に大人の年齢ですが、おそらく元の世界ではまだ子供として生活していたはずです。そのため、まだ魔法力が十分に備わっていません。ですが、その代わりの力を何か持ってこの世界に来ていただいたようです・・・」

 ―子供か・・・、高校生だからな。間違ってはいない気がするが、魔法力が備わっていないというのはどういう意味だろうか?

「はい、私もそう思っていました。ですから、今しばらくはサリナ達と旅をさせながら成長をお待ちするつもりです」
「そうですか、それなら安心しました。しばらくはあなたの元で魔法を色々と学ぶ必要があるでしょう。それに、娘もまだまだ成長できると思いますよ。魔法力はあなた以上に持っていますからね」
「ええ、それもそのつもりです。サリナは先の勇者と同じかそれ以上の魔法力があるはずです」
「あとはエルフの娘さん、あなたももっと強くなれますよ。里に帰ったら風の精霊を勇者に引き合わせるようにお願いしてください。おそらく精霊はあなたと勇者に力を貸してくれるはずです」
「長老のことをご存じなのですか?」
「ええ、エルフの里には何度もお邪魔していますからね」
「そうだったのですか?」

 ミーシャは怪訝そうな顔を浮かべた。おそらく、そんな話を聞くのは初めてだったからだろう。あの狭い里で女王様一行が来れば気が付かないはずはない・・・、魔法だ! おそらく、何らかの魔法で一人か少人数で移動したのだろう。そうだ、転移魔法について聞かないと、今がチャンス!

「女王様、エルフの里には魔法で移動したんですよね? 捕虜の件もありますけど・・・、その魔法はどういったものなのでしょうか?そして、その魔法はサリナや私も使えるのでしょうか?」
「あら? その魔法には興味を持っていたのですね? あなたはあまり魔法に興味がないのかと思っていました・・・。ええ、あなたやサリナも使えるようになりますよ。その魔法は転移の魔法です。あらかじめ設定した場所であれば、すぐに移動できる魔法です。それはキアヌ・リカルドから聞いていたのでは無いのですか?」
「いえ、想像していましたが・・・。あらかじめ設定というのはどうやるのですか?」

 俺は約束したから一応リカルドのことをかばってやったが、女王はちらりとリカルドを見た時にリカルドが目を逸らしたので無駄になった気がする。

「そうですか、転移の魔法には光の聖教石が必要になります。地面に埋めたり刺したりした5つの聖教石が転移可能な場所になりますので、転移したい場所にあらかじめ準備しておくのです。後はその場所をイメージして同じような聖教石がある場所から祈りを捧げれば転移できます。いまでも、何か所かの転移ポイントは残っていますが・・・、あなたが使えるようになるにはもう少し時間が必要かもしれません」
「それは訓練のようなものが必要なのでしょうか?」
「あなたに必要なのは訓練ではありません。この国の魔法は神の恩恵です。先の勇者の魔法力が強大だったのはこのドリーミア全体の幸せことを常に考えていただいたからです。その思いの強さが魔法力という恩恵となって与えられたものと言われています」

 ―この国、この世界への思いの強さが魔法力を強くする? ふーむ・・・

「なるほど、では私にはこの国への思いがまだ足りないということなのでしょうか?」
「それは私にはわかりませんが、あなた自身はどう思われていますか?この国やこの世界の人との関わり合いについて?」

 ―確かに俺は自分ありきで考えている。最近は少し変わったけど・・・

「そうですね、確かにこの国のためにという思いはあまり強くないですね。目の前にいる悪い奴らはなんとかしたいと思いますけど・・・」
「今はそれで良いでしょう。経験を積んでいくうちに自分以外の人の幸せが自らの喜びに変わってくるようになります。そうなれば自然とこの国や人々への思いが強くなり、神の恩恵も大きくなるはずです」

 ―サリナやミーシャ以外の人たちにも幸せになってもらうということか・・・
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